キャリア10年目にして新境地を開拓した雨宮天
先にも述べたように『よふかしのうた』で主軸を担うのは、夜守コウと七草ナズナの2人による会話劇だ。夜守コウを演じるのは佐藤元さん。2021年には『弱キャラ友崎くん』の友崎文也や『境界戦機』の椎葉アモウなどでキャスティングされ、第16回声優アワードで新人男優賞を受賞。次世代を担う声優のひとりだ。
一方、七草ナズナを演じるのは、2022年でデビュー10周年を迎えた雨宮天さん。これまでのキャリアを振り返ったなかでも、異色の演技を見せてくれている。
いちど彼女がこれまでに演じてきた、印象的なヒロインや脇役たちを振り返ってみよう。
クールかつ感情表現に乏しいキャラクターから、本人の性格にマッチしたハイテンションな役、果ては年少の男の子まで、多彩な役を演じてきている。『一週間フレンズ。』藤宮香織
『東京喰種トーキョーグール』霧嶋董香
『この素晴らしい世界に祝福を!』アクア
『七つの大罪』エリザベス
『プラスティック・メモリーズ』アイラ
『アルドノア・ゼロ』アセイラム・ヴァース・アリューシア
『魔法科高校の劣等生』光井ほのか
『彼女、お借りします』水原千鶴
『明日ちゃんのセーラー服』木崎江利花
『アイドルマスター ミリオンライブ!』北沢志保
『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』七海やちよ
そんななかでも、エリザベス、藤宮香織、水原千鶴、北沢志保、そして1月の放送も印象的だった木崎江利花などは、可憐で聡明、清く正しく美しい、潔癖さを強く感じさせるキャラクターだ。雨宮天さんのクリアかつハイトーンな声色が、キャラクターの魅力を一層際立たせていた。
一方で、アニメファンをはじめとした彼女を知る多くの人にとって、「雨宮天」のパブリックイメージが“そのようなキャラクターを演じる人”と、固まっていたとしてもおかしくない。
だが、『よふかしのうた』の七草ナズナとしての演技は、これまで演じてきたどの役とも大きく異なる印象を与えている。
ミステリアスでセクシャルで下世話──七草ナズナ
七草ナズナを演じるときの雨宮天さんは、持ち前の高いトーンではなくザラついた低めの声を基調とし、水原千鶴や藤宮香織のような「クスッ」とした笑い方ではなく、「ニヘラッ」と嘲り笑うようなニュアンスが多い。ミステリアスな雰囲気を漂わせながら、口を開けば子供っぽい内容ばかり。感情が表に出やすいタイプでありつつ、大人っぽく夜守を魅了する。そのギャップで振り回していくのが七草ナズナの魅力。 人間よりも淫らでだらしなく、痩身だけどもセクシャルな一面を訴える身のこなしとビジュアル、何よりこれまで演じてきたどのヒロインよりも「何気ない会話」を通して違いを求められるキャラクターだ。
雨宮天さんにとっては、キャリア10年目にして新たな演技を求められたとも言える。その上で新境地を開拓し、これまでのキャラクター同様の魅力的な演技で、作品が放つ空気感・ムードの底上げに一役買っている。
様々な角度から本作について記してみたが、あとわずかでアニメは終了。物語はクライマックスへと突入する。
今後どのようなアニメーションや演技で、視聴者を魅了して引きずり込んでいくのか、楽しみな一作だ。
アニメ『よふかしのうた』は、フジテレビ・ノイタミナほかで毎週木曜24時55分から放送中。
©2022コトヤマ・小学館/「よふかしのうた」製作委員会
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作品情報
TVアニメ『よふかしのうた』
- 放送
- 2022年7月7日よりフジテレビ“ノイタミナ”ほかにて毎週木曜 24:55〜放送中
- 原作
- コトヤマ(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
- スタッフ
- 監督
- 板村智幸
- チーフディレクター
- 宮西哲也
- 脚本
- 横手美智子
- キャラクターデザイン
- 佐川 遥
- 音楽
- 出羽良彰
- 美術設定
- 杉山晋史
- 美術監督
- 横松紀彦
- 色彩設計
- 滝沢いづみ
- 色彩設計補佐
- きつかわあさみ
- 撮影監督
- 土本優貴
- 編集
- 榎田美咲
- 音響監督
- 木村絵理子
- オープニング・テーマ
- Creepy Nuts「堕天」(Sony Music Labels Inc.)
- エンディング・テーマ
- Creepy Nuts「よふかしのうた」(Sony Music Labels Inc.)
- アニメーション制作
- ライデンフィルム
- キャスト
- 夜守コウ :佐藤 元
- 七草ナズナ :雨宮 天
- 朝井アキラ :花守ゆみり
- 桔梗セリ :戸松 遥
- 平田ニコ :喜多村英梨
- 本田カブラ :伊藤 静
- 小繁縷ミドリ:大空直美
- 蘿蔔ハツカ :和氣あず未
- 夕 真昼 :小野賢章
- 秋山昭人 :吉野裕行
- 白河清澄 :日笠陽子
- 鶯 餡子 :沢城みゆき
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連載
クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。
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