連載 | #16 KAI-YOU ANIME REVIEW

史上最もイカれたサッカー漫画『ブルーロック』は怒りを肯定する

史上最もイカれたサッカー漫画『ブルーロック』は怒りを肯定する
史上最もイカれたサッカー漫画『ブルーロック』は怒りを肯定する

TVアニメ『ブルーロック』

FIFAワールドカップ(W杯)・カタール大会において、優勝経験のあるドイツ・スペインという強豪国に勝利し、大躍進を果たしたサッカー日本代表。

世界35億人が熱狂するスポーツの祭典に前後して、他のジャンルと同じく、漫画やアニメなどでもサッカー関連作品が相次いで盛り上がりを見せている。TVアニメとしては、2022年だけでサッカーを題材にした作品が3本放送された。

90年代に人気を集めた名作を新たに描いた『シュート!Goal to the Future』、Jユース年代の群像劇を多くのJリーガーや日本サッカー協会を巻き込んで描いた『アオアシ』。前年も含めると、W杯中継で大活躍する日向坂46のアイドル・影山優佳さんも出演した『さよなら私のクラマー』もあった。
TVアニメ『ブルーロック』とは
そしてもうひとつ、今回紹介するのが“史上最もイカれたサッカー漫画(アニメ)”こと『ブルーロック』だ。W杯を全試合無料配信しているABEMAでは、何度もCMが流れているため、何となく知っている人も多いはず。

“イカれた”という強い言葉に目が行きがちだが、“エゴ”をテーマにした『ブルーロック』が描くのは現代サッカーの本質。加えてサッカー漫画ならではのエンタメ性も忘れない。それらは放送中のアニメでより強固に、(作中の言葉を借りれば)エゴイスティックに描かれている。

文:草野虹 編集:恩田雄多

目次

“史上最もイカれたサッカー漫画”『ブルーロック』とは

漫画『ブルーロック』は、原作を金城宗幸さん、作画をノ村優介さんが手掛け、『週刊少年マガジン』(講談社)で2018年35号から連載中。コミックスは既刊22巻。

2021年5月に第45回講談社漫画賞の少年部門を受賞し、2022年10月時点で累計発行部数は1300万部を突破。メディアミックスとして2022年10月よりTVアニメが放送されている。

高校生年代を中心としたサッカー漫画だが、舞台は部活やクラブチームではない。日本全土から集められた300名もの若者が、生き残りをかけてサバイバル型セレクションに挑む。

しかも単なるセレクションではない。主人公・潔世一(いさぎ・よいち)らが参加する「青い監獄(ブルーロック)」は、日本をW杯優勝に導くエゴイスティックなストライカーを育てるために立ち上げられたプロジェクト。

集められた選手は、コーチ役の絵心(えご)から壮大かつ野心的な計画を明かされる/『ブルーロック』第1話より

「ブルーロック」では失格した瞬間にその人物のサッカー人生が終了。今後何があっても日本代表に入れない。

その描写・ニュアンスはさながらデスゲーム。従来のサッカー漫画で重要視されていた「チームワークで勝ち上がる」ことではなく、他者を圧倒するほどの「異常な個性やエゴ」を求め、最後の1人を目指し299人が潰し合う。

チームで勝つのではなく、他を圧倒する唯一無二の個が勝利へと導く──そう納得してしまいそうになるほどの画力・内容でファンを増やしていった。

現実のサッカー界からのオマージュが散りばめられ、時に日本サッカーや実在の選手に向けた否定やアンチテーゼも描く。エッジの効いた表現も際立ち、いまや「史上最もイカれたサッカー漫画」と呼ばれている。

『ブルーロック』は日本サッカーを強烈に挑発する

漫画『ブルーロック』第1話が掲載されたのは2018年8月1日発売の『週刊少年マガジン』35号。W杯・ロシア大会で「ロストフの悲劇」(ロストフの14秒)といわれる日本代表の敗戦からおよそ1ヶ月後だ。

当時、強豪・ベルギーに挑んだ日本は、2点を先行するも終盤の二十数分間で3点を叩き込まれる衝撃的な展開で、史上初のベスト8を逃した。
日本サッカーの歴史に残る伝説の14秒「ロストフの悲劇」
W杯公式Twitterによる印象的だった試合に関するアンケートで、69%の支持を集めた試合(外部リンク)。そこから数週間で、作者の2人は『ブルーロック』という“行動”を起こしたのだ。

漫画第1話では、潔世一ら監獄に集められた選手を前にして、コーチ役である絵心甚八(えご・じんぱち)が日本サッカーを強烈に挑発する。

「日本サッカーが世界一になるために必要なのはただひとつ、革命的なストライカーの誕生です」
「サッカーとはなんだ? 相手より多く点を取るスポーツだ。点を取った人間が一番偉いんだ」
「世界一のストライカーになることよりも、こんなサッカー後進国のハイスクールで一番になる方が大事か?」
「香川? 本田? そいつらってワールドカップ優勝してなくない? じゃあカスでしょ」
「世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーになれない」 漫画『ブルーロック』第1話より

絵心の容赦ない言葉の数々。連載開始当初、その強すぎる言葉に反発したサッカーファンも少なくなかった/『ブルーロック』第1話より

当時、代表の主力として活躍していた選手の名前を引き合いに出して「カス」と罵り、さらには日本サッカー協会を暗に批判するなどの過激な内容に、眉をひそめるサッカーファンは少なくなかったはず。現在放送されているTVアニメではカットされている部分もあるほど、その言葉は辛辣だ。

なぜ『ブルーロック』はここまで尖ったメッセージを打ち出すのか。背景には、怒り・苛立ち・憤りがある。

「怒り」や「憤り」をエネルギーに物語は動き出す

主人公・潔世一(いさぎ・よいち):無名の高校生FW。県大会決勝のゴール前で訪れたチャンスでパスした選択を悔いている。「ブルーロック」プロジェクトで徐々に唯一無二な才能を開花させる

「ロストフの悲劇」を目の当たりにした失望とショック、寸前で勝利を逃す不甲斐なさへの苛立ちと怒りが、序盤の強烈すぎるメッセージへと繋がっている。

怒りをエネルギーとしたサッカー──『ブルーロック』では、潔世一ら登場人物の成長に影響を及ぼす要素として、怒りが象徴的に描かれている。

集団ではなく個人としてどれだけの能力を持ち合わせることができるのか? という目的をもってトレーニング・試合をこなし、実力不足や過去の怪我といった自身の弱さと対峙しながら、彼らは貪欲に勝利とゴールを求めていく。 それは絵心の発破や軽口への反発というだけではなく、「点取り屋(ストライカー)になるには至らなすぎる自分」「自分に合わせようとしない周囲の選手」への怒りや憤りを伴う。

ほかのサッカー漫画であれば「悔しさ」「悲しさ」といった感情がドラマに拍車をかけることが多いが、『ブルーロック』では「怒り」を底力にしてドラマが加速

意地とプライドがぶつかり合い、逆撫でされたら「ふざけるな!」とブチぎれる。それは試合中に留まらず、普段のトレーニングや日常パートでも同様だ。
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サッカーW杯を巡って

作品情報

TVアニメ『ブルーロック』

原作
金城宗幸 漫画:ノ村優介(講談社「週刊少年マガジン」連載)
監督
渡邉徹明
副監督
石川俊介
シリーズ構成・脚本
岸本 卓
ストーリー監修
金城宗幸
コンセプトアドバイザー
上村 泰
メインキャラクターデザイン
進藤 優
キャラクターデザイン・総作画監督
田辺謙司、戸谷賢都
チーフアクションディレクター
東島久志
アクションディレクター
坂本ひろみ
プロップデザイン
興津香織、東島久志
衣装デザイン
中島裕里
作画特殊効果
あかね
色彩設計
小松さくら
特殊効果
山田可奈子
美術設定
杉山晋史
美術監督
高木佐和子
背景
スタジオワイエス
撮影監督
浅黄康裕
撮影
チップチューン
3DCGディレクター
広沢範光
3DCG
オーラスタジオ
ビジュアルコンセプト
山下敏幸(ハイパーボール)
特殊効果処理
山下敏幸、三皷梨菜
2DCGモニターグラフィック
浅野恵一(emitai)
編集
長谷川舞(エディッツ)
音響監督
郷文裕貴
音響制作
ビットグルーヴプロモーション
音楽
村山☆潤
アニメーションプロデューサー
平野 強
アニメーション制作
エイトビット
キャスト
潔 世一:浦 和希
蜂楽 廻:海渡 翼
國神錬介:小野友樹
千切豹馬:斉藤壮馬
久遠 渉:中澤まさとも
雷市陣吾:松岡禎丞
今村遊大:千葉翔也
我牙丸 吟:仲村宗悟
成早朝日:梶田大嗣
伊右衛門送人:綿貫竜之介
五十嵐栗夢:市川 蒼
吉良涼介:鈴村健一
絵心甚八:神谷浩史
帝襟アンリ:幸村恵理
馬狼照英:諏訪部順一
二子一揮:花江夏樹
鰐間淳壱:鈴木崚汰
鰐間計助:鈴木崚汰
凪 誠士郎:島﨑信長
御影玲王:内田雄馬
剣城斬鉄:興津和幸
糸師 凛:内山昂輝
蟻生十兵衛:小西克幸
時光青志:立花慎之介
糸師 冴:櫻井孝宏
主題歌
オープニング主題歌:UNISON SQUARE GARDEN「カオスが極まる」
エンディング主題歌:仲村宗悟「WINNER」
放送情報
毎週土曜 25:30〜テレビ朝日系全国ネット“NUMAnimation 枠 ”にて放送中
毎週土曜 26:00〜BS 朝日にて放送中
毎週日曜 21:00〜AT-X にて放送中
※リピート放送:毎週水曜 28:30/毎週日曜 6:00※
配信情報
毎週土曜 26:00〜各配信サイトにて配信中

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クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

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