潔×蜂楽などの関係性と筆致に見られる感情の輪郭
『ブルーロック』の評価が高まる中で、特にアニメ化が決定しキャラクターデザインが発表されて以降、筆者個人としては女性ファンからの支持を感じるようになった。『週刊少年マガジン』といえば『東京卍リベンジャーズ』の大ヒットを皮切りに、2010年代に次々と連載作品のTVアニメ化が続いた。『五等分の花嫁』『彼女、お借りします』といった男性向けラブコメ作品を思い出す人は多いだろう。一方で、『ダイヤのA』『炎炎ノ消防隊』に『東リベ』のように女性ファンを受け皿にできる作品もヒットしていた。
当初は意識していなかったが、作画のノ村優介さんの細やかな線・タッチで生み出されるキャラクターは、男性だけでなく女性からも受け入れられるようなデザインと内面を持ち合わせている。
わかりやすく女性向けの作風というわけではないが、キャラクター同士の関係性を際立たせるような描写もある。潔×蜂楽、凪×玲王、凛×潔、國神×千切など、実際に人気のカップリングが存在する。 ただ、先ほど書いたように『ブルーロック』が表現しているのは「怒り」や「憤り」。力強い太線を大胆に用いて描写されるキャラクターは、だらだらと汗を流して苦悶の表情を浮かべる。
タックルを受けピッチに何度も倒れ込むのは当たり前、上品な顔立ちの登場人物には似合わないシーンの連続だ。単に“線が細かく女性人気もありそうな作画”では表現できない汗臭さが滲む。
サッカーアニメとして強固に表現されたエンタメ性
TVアニメでは、原作漫画が持つビジュアル的な魅力を、より躍動的かつ効果的に映そうと意識しているのが伝わってくる。動きの激しいスポーツをアニメ化するときの課題に挙げられるのが、同じような構図や局面ごとのバンクシーン(一部の絵や映像をのちの放送回で使いまわす方法)が連続してしまうこと。アニメ制作を簡略化するために確立された手法ではあるものの、あまりに多用して視聴者が単調に感じてしまうと一気に盛り下がってしまいかねない。
また近年は3DCGが導入されたことで、全体を見通す俯瞰視点から描くケースもある。サッカーアニメで言えばピッチ全体を遠くから映し出すために使われる。現実のサッカーを観戦するときに近しい表現だが、アニメの場合は遠目からということもあってメリハリやスピード感が失われ、全体的にのっぺりとした印象になってしまう。
加えてドリブルやパスなど、サッカーに関わる動作をひとつずつ分解してみると、サッカーをアニメーションで魅力的に描く難しさがわかるかもしれない。
『ブルーロック』では、試合中のピッチや背景、キャラクターの動き、レイアウトなどで3DCGを活用。試合の局面ごとの構図に奥行きや幅が生まれ、カメラワークもそれらを活かすよう大胆かつダイナミックにグリグリと動く。様々な視点がテンポ良く切り替わり、同じ構図・バンクシーンなどがほとんどない点も、視聴者を飽きさせないつくりのひとつだ。
撮影時の処理であろう3Dエフェクト・特殊効果の使い方も、原作描写を忠実に再現・さらに魅力的に引き立てており、細かくカットが重なっていくので緊迫感が途切れることもない。まるで『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』といった少年向けバトル漫画のような緊迫感と大仰さで、視聴者の意識を画面に集中させる。ブルーロック第4話のレイアウトやりました。ここから始めたグルグルの禊でしたが面白い事させて貰えたので普通に楽しく作業したのを覚えてます
— げそいくお (@gesoikuo3) October 29, 2022
このシーンはカメラワークを4種類程渡邉監督に提案して一番好みの物を選んで貰いました。この様に監督の好みを理解していけるから3D作業は楽しいね
絵は苦痛 pic.twitter.com/VmQYNpDvex
特に試合中のシュートでは、一気に筆致や輪郭線などが太く荒々しくなり、瞳や身体から放たれる炎のエフェクトも強力になる。「体から醸し出させるオーラ」「瞳に禍々しく輝く光」「体全体にまとわりつくような影」などなど、特殊効果の処理が抜群に作用しており、ここぞという場面でもあるシュートシーンは、まるで必殺技を繰り出すかのように表現。さながら往年の名作『キャプテン翼』を彷彿とさせる。
サッカーアニメでありながらバトルもののような演出を取り入れることで、娯楽としての高いエンタメ性を実現。何気ないプレーを漢字+カタカナで必殺技のように描く点も含めれば、ひとつひとつは大袈裟かもしれないが、作品全体としてはしっくりとハマるのだ。
連載
クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。
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