連載 | #16 KAI-YOU ANIME REVIEW

史上最もイカれたサッカー漫画『ブルーロック』は怒りを肯定する

潔×蜂楽などの関係性と筆致に見られる感情の輪郭

蜂楽廻(ばちら・めぐる):センス抜群のドリブルが武器。主人公・潔に強い興味を持ち、良き理解者となる

『ブルーロック』の評価が高まる中で、特にアニメ化が決定しキャラクターデザインが発表されて以降、筆者個人としては女性ファンからの支持を感じるようになった。

『週刊少年マガジン』といえば『東京卍リベンジャーズ』の大ヒットを皮切りに、2010年代に次々と連載作品のTVアニメ化が続いた。『五等分の花嫁』『彼女、お借りします』といった男性向けラブコメ作品を思い出す人は多いだろう。一方で、『ダイヤのA』『炎炎ノ消防隊』に『東リベ』のように女性ファンを受け皿にできる作品もヒットしていた。

当初は意識していなかったが、作画のノ村優介さんの細やかな線・タッチで生み出されるキャラクターは、男性だけでなく女性からも受け入れられるようなデザインと内面を持ち合わせている。

わかりやすく女性向けの作風というわけではないが、キャラクター同士の関係性を際立たせるような描写もある。潔×蜂楽凪×玲王凛×潔國神×千切など、実際に人気のカップリングが存在する。

凪誠士郎(なぎ・せいしろう):サッカー歴半年ながら桁外れのサッカーセンスを誇る天才。玲王に潜在能力を見出された

御影玲王(みかげ・れお):あらゆるプレーに対応できる器用さを持つ。玲王にとって凪は“宝物”であり必要不可欠な相棒

國神錬介(くにがみ・れんすけ):漢気にあふれた好青年。強靭なフィジカルと左足のミドルシュートが武器

千切豹馬(ちぎり・ひょうま):中性的な顔立ちの美少年。過去のトラウマを克服したスピードスター。物語が進む中で國神とタッグを組むことも

ただ、先ほど書いたように『ブルーロック』が表現しているのは「怒り」や「憤り」。力強い太線を大胆に用いて描写されるキャラクターは、だらだらと汗を流して苦悶の表情を浮かべる。

タックルを受けピッチに何度も倒れ込むのは当たり前、上品な顔立ちの登場人物には似合わないシーンの連続だ。単に“線が細かく女性人気もありそうな作画”では表現できない汗臭さが滲む。

サッカーアニメとして強固に表現されたエンタメ性

TVアニメ『ブルーロック』キービジュアル

TVアニメでは、原作漫画が持つビジュアル的な魅力を、より躍動的かつ効果的に映そうと意識しているのが伝わってくる。

動きの激しいスポーツをアニメ化するときの課題に挙げられるのが、同じような構図や局面ごとのバンクシーン(一部の絵や映像をのちの放送回で使いまわす方法)が連続してしまうこと。アニメ制作を簡略化するために確立された手法ではあるものの、あまりに多用して視聴者が単調に感じてしまうと一気に盛り下がってしまいかねない。

また近年は3DCGが導入されたことで、全体を見通す俯瞰視点から描くケースもある。サッカーアニメで言えばピッチ全体を遠くから映し出すために使われる。現実のサッカーを観戦するときに近しい表現だが、アニメの場合は遠目からということもあってメリハリやスピード感が失われ、全体的にのっぺりとした印象になってしまう。

加えてドリブルやパスなど、サッカーに関わる動作をひとつずつ分解してみると、サッカーをアニメーションで魅力的に描く難しさがわかるかもしれない。

『ブルーロック』では、試合中のピッチや背景、キャラクターの動き、レイアウトなどで3DCGを活用。試合の局面ごとの構図に奥行きや幅が生まれ、カメラワークもそれらを活かすよう大胆かつダイナミックにグリグリと動く。様々な視点がテンポ良く切り替わり、同じ構図・バンクシーンなどがほとんどない点も、視聴者を飽きさせないつくりのひとつだ。 撮影時の処理であろう3Dエフェクト・特殊効果の使い方も、原作描写を忠実に再現・さらに魅力的に引き立てており、細かくカットが重なっていくので緊迫感が途切れることもない。まるで『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』といった少年向けバトル漫画のような緊迫感と大仰さで、視聴者の意識を画面に集中させる

特に試合中のシュートでは、一気に筆致や輪郭線などが太く荒々しくなり、瞳や身体から放たれる炎のエフェクトも強力になる。「体から醸し出させるオーラ」「瞳に禍々しく輝く光」「体全体にまとわりつくような影」などなど、特殊効果の処理が抜群に作用しており、ここぞという場面でもあるシュートシーンは、まるで必殺技を繰り出すかのように表現。さながら往年の名作『キャプテン翼』を彷彿とさせる。

サッカーアニメでありながらバトルもののような演出を取り入れることで、娯楽としての高いエンタメ性を実現。何気ないプレーを漢字+カタカナで必殺技のように描く点も含めれば、ひとつひとつは大袈裟かもしれないが、作品全体としてはしっくりとハマるのだ。
TVアニメ『ブルーロック』ノンクレジットOP
1
2
3

SHARE

この記事をシェアする

Post
Share
Bookmark
LINE

連載

KAI-YOU ANIME REVIEW

クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。

コメントを削除します。
よろしいですか?

コメントを受け付けました

コメントは現在承認待ちです。

コメントは、編集部の承認を経て掲載されます。

※掲載可否の基準につきましては利用規約の確認をお願いします。

POP UP !

もっと見る

もっと見る

よく読まれている記事

KAI-YOU Premium

もっと見る

もっと見る

アニメ・漫画の週間ランキング

最新のPOPをお届け!

もっと見る

もっと見る

このページは、株式会社カイユウに所属するKAI-YOU編集部が、独自に定めたコンテンツポリシーに基づき制作・配信しています。 KAI-YOU.netでは、文芸、アニメや漫画、YouTuberやVTuber、音楽や映像、イラストやアート、ゲーム、ヒップホップ、テクノロジーなどに関する最新ニュースを毎日更新しています。様々なジャンルを横断するポップカルチャーに関するインタビューやコラム、レポートといったコンテンツをお届けします。

ページトップへ