TV・劇場・配信と数多の作品があるなかでも、早くから注目作として名前が挙がっていたのが『よふかしのうた』だ。
累計発行部数180万部(電子含む)を突破する人気漫画が原作である同作は、不眠の少年と吸血鬼との出会いから始まる物語。
作品の根幹をなす会話劇を効果的に描き出した板村智幸監督、原作に影響を与えたCreepy Nutsの主題歌起用、そして吸血鬼のヒロイン役として新境地を開拓した声優・雨宮天さん。
TVアニメ化によって、他の作品にはない独自性を一層際立たせた『よふかしのうた』について、その魅力や要因を掘り下げていく。
【画像】『よふかしのうた』の魅力的な吸血鬼ヒロイン 文:草野虹 編集:恩田雄多
目次
不眠症の中学生と自由奔放な吸血鬼の会話劇『よふかしのうた』
TVアニメ『よふかしのうた』
小学館『週刊少年サンデー』で2019年8月から連載がスタートし、数年で同誌の顔役とも呼べる人気作に。2021年11月にフジテレビ・ノイタミナ枠でTVアニメ化が決定して以降、一層注目を集めてきた。
「眠れない人間の相談に乗って、悩みを解決してやりたい」というナズナの言葉に誘われて彼女の自室を訪れる夜守は、ナズナから首元にかみつかれた。実は、七草ナズナは吸血鬼だったのだ。
夜守コウ:中学2年生。勉強もまずまずで学生生活を上手にこなす日々に疲れ不登校に。眠れぬ夜、七草ナズナと出会い、吸血鬼になるためナズナに恋をしようとしている。
七草ナズナ:夜の住人・吸血鬼。自由奔放。「今日に満足できるまで、夜ふかししてみろよ」と夜守を夜に誘う。下ネタが大好きのくせに、恋愛話にはめっぽう弱い。
こうして、色恋を知らない不眠症な中学生男子と、自由奔放ながら純情な一面を持つ吸血鬼美少女を中心にした、不思議で奇妙な夜の物語が紡がれていく。
10代男子と人ならざる存在の物語、監督は板村智幸
少しネタバレになるが、〈物語〉シリーズの主人公・阿良々木暦は、偶然出会った吸血鬼・キスショットに自分の血液を捧げ、半分人間・半分吸血鬼のような状態で生きている。そこで得た力を使って様々なトラブルを解決し、怪異を退治していく物語だ。
その近似性は、ひとりのアニメ監督の存在でより鮮明化する。『よふかしのうた』でメガホンを握る板村智幸さんだ。
2012年に『偽物語』のシリーズディレクター、『猫物語(黒)』で監督をつとめて以降、アニメ版〈物語〉シリーズのほとんどの作品群を監督してきた。総監督・新房昭之さんに監督・板村智幸さんのコンビは、どこかズレたトークセンスによるキャラクター同士の会話、アクション性ある作劇などを見事にアニメーション化、およそ10年にわたり多くの視聴者を呼び込んだ。
真夜中に繰り広げられる人間味に溢れた会話
その会話といえば、恋愛や下ネタなどの少しだけ下世話なものから、生活感のあるもの、自分からみた相手の印象まで、実はかなり人間味に溢れた話の数々。
非日常的な空間に恋焦がれて身を置いているにもかかわらず、口をついて出るのはどこか日常的でクスっと笑えるような話題ばかり。
まるで夜遅くまで酒を酌み交わしたときに飛び出てくる、ちょっとだけグダグダっとしてヒネくれたムードと質感に仕上がっているのだ。
連載
クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。
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