連載 | #15 KAI-YOU ANIME REVIEW

アニメ『よふかしのうた』は真夜中へ手招きする 物語シリーズに通じる対話と光の演出

アニメ『よふかしのうた』は真夜中へ手招きする 物語シリーズに通じる対話と光の演出
アニメ『よふかしのうた』は真夜中へ手招きする 物語シリーズに通じる対話と光の演出

アニメ『よふかしのうた』で雨宮天さんが演じる吸血鬼・七草ナズナ

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足立慎吾監督によるオリジナル作品『リコリス・リコイル』の大反響、賛否両論を呼びながらも興行収入129億を記録する映画『ONE PIECE FILM RED』の大ヒットと、2022年夏のアニメシーンは活気を帯びている。

TV・劇場・配信と数多の作品があるなかでも、早くから注目作として名前が挙がっていたのが『よふかしのうた』だ。

累計発行部数180万部(電子含む)を突破する人気漫画が原作である同作は、不眠の少年と吸血鬼との出会いから始まる物語。

作品の根幹をなす会話劇を効果的に描き出した板村智幸監督、原作に影響を与えたCreepy Nutsの主題歌起用、そして吸血鬼のヒロイン役として新境地を開拓した声優・雨宮天さん。

TVアニメ化によって、他の作品にはない独自性を一層際立たせた『よふかしのうた』について、その魅力や要因を掘り下げていく。
【画像】『よふかしのうた』の魅力的な吸血鬼ヒロイン 文:草野虹 編集:恩田雄多

目次

不眠症の中学生と自由奔放な吸血鬼の会話劇『よふかしのうた』

TVアニメ『よふかしのうた』

原作の漫画『よふかしのうた』は、『だがしかし』で知られるコトヤマさんによる作品。

小学館『週刊少年サンデー』で2019年8月から連載がスタートし、数年で同誌の顔役とも呼べる人気作に。2021年11月にフジテレビ・ノイタミナ枠でTVアニメ化が決定して以降、一層注目を集めてきた。
OP主題歌はCreepy Nutsの「堕天」
不登校の中学2年生・夜守コウは、眠れない日々が続いていたある日、深夜の街を徘徊。非日常的な真夜中の空気に束の間の楽しさを感じてると、七草ナズナと名乗る美少女に出会う。

「眠れない人間の相談に乗って、悩みを解決してやりたい」というナズナの言葉に誘われて彼女の自室を訪れる夜守は、ナズナから首元にかみつかれた。実は、七草ナズナは吸血鬼だったのだ。

夜守コウ:中学2年生。勉強もまずまずで学生生活を上手にこなす日々に疲れ不登校に。眠れぬ夜、七草ナズナと出会い、吸血鬼になるためナズナに恋をしようとしている。

七草ナズナ:夜の住人・吸血鬼。自由奔放。「今日に満足できるまで、夜ふかししてみろよ」と夜守を夜に誘う。下ネタが大好きのくせに、恋愛話にはめっぽう弱い。

「人間が吸血鬼になるには恋をしなければならない」──ナズナから吸血鬼になる方法を聞いた夜守は、こう答えた。「ぼくはナズナさんに恋がしたいです」と。

こうして、色恋を知らない不眠症な中学生男子と、自由奔放ながら純情な一面を持つ吸血鬼美少女を中心にした、不思議で奇妙な夜の物語が紡がれていく。

10代男子と人ならざる存在の物語、監督は板村智幸

10代の男子が人ならざる存在との対話を通じて、憧れを抱き、非日常へと足を踏み入れていく──『よふかしのうた』はとある作品に似ている。2006年11月に刊行された西尾維新さんの小説を原作に、2009年にTVアニメ化されて以降、様々なメディアミックスが続く〈物語〉シリーズだ。

少しネタバレになるが、〈物語〉シリーズの主人公・阿良々木暦は、偶然出会った吸血鬼・キスショットに自分の血液を捧げ、半分人間・半分吸血鬼のような状態で生きている。そこで得た力を使って様々なトラブルを解決し、怪異を退治していく物語だ。
人ならざるものとの出会いから始まる〈物語〉シリーズ
もちろん細かい設定、ストーリー進行、登場人物などを見ればまったくの別物。とはいえ、10代の男子と人ならざる存在を巡る物語というコアは、両作を近づける要素のひとつだ。

その近似性は、ひとりのアニメ監督の存在でより鮮明化する。『よふかしのうた』でメガホンを握る板村智幸さんだ。

2012年に『偽物語』のシリーズディレクター、『猫物語(黒)』で監督をつとめて以降、アニメ版〈物語〉シリーズのほとんどの作品群を監督してきた。総監督・新房昭之さんに監督・板村智幸さんのコンビは、どこかズレたトークセンスによるキャラクター同士の会話、アクション性ある作劇などを見事にアニメーション化、およそ10年にわたり多くの視聴者を呼び込んだ。

真夜中に繰り広げられる人間味に溢れた会話

一方の『よふかしのうた』は、夜守とナズナの2人による会話劇が中心。ユニークな角度から始まる会話・トークの連続性は、〈物語〉シリーズとの共通点ではある。

その会話といえば、恋愛や下ネタなどの少しだけ下世話なものから、生活感のあるもの、自分からみた相手の印象まで、実はかなり人間味に溢れた話の数々。 物語冒頭「友達ってどこから言っていいんですか…?」という夜守の問いに、ナズナが「友達だなって思ったらじゃね?」と返すやり取りは、その最たる例だろう。

非日常的な空間に恋焦がれて身を置いているにもかかわらず、口をついて出るのはどこか日常的でクスっと笑えるような話題ばかり。

まるで夜遅くまで酒を酌み交わしたときに飛び出てくる、ちょっとだけグダグダっとしてヒネくれたムードと質感に仕上がっているのだ。
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クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

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