連載 | #15 KAI-YOU ANIME REVIEW

アニメ『よふかしのうた』は真夜中へ手招きする 物語シリーズに通じる対話と光の演出

日常をロマンティックな非日常に変える妖しげな光

会話劇における独特の空気感は、劇中の背景や画面のデザインにも現れている。『よふかしのうた』の舞台は団地や繁華街であり、いずれもほぼ「真夜中」だ。「夜」をいかにミステリアスかつ魅力的に描くかが重要になってくる。

アニメでは、紫、ピンク、黄色、青と様々な色味を薄く重ねつつ、風景を彩るために大胆に使ってみせる。それに加え、街灯、車のヘッドライト、自販機やマンションの光に、看板のネオンサインといった様々な光を的確に描き分けているのだ。 ともすれば全体の色味を暗くして画一的な夜になるところを、暗闇の中にある物体から放たれる光、または物体を照らす光を丁寧に描き分けることで、真夜中特有の妖しさ、非日常的な空気感を生み出すことに成功している。

「親しみある風景」を別世界のような背景・風景として表現する手法は〈物語〉シリーズでも見られた。しかし『よふかしのうた』のそれは、さながら夜化粧した日常風景。見慣れた光景なのに、どこかロマンティックでドキドキさせられる魅力を放っている。

漫画『よふかしのうた』に影響を与えたCreepy Nuts

ED主題歌でもあるCreepy Nuts「よふかしのうた」
『よふかしのうた』という作品タイトルは、ラッパーのR-指定さんとDJのDJ松永さんのコンビ・Creepy Nutsの同名楽曲から取られている。そのリリックには漫画『よふかしのうた』にも通じる様々なワードが多数出てくる。

初めてお前を跨いだのは、
いや初めて跨ったのは確か14
俺は何も知らねワナビー
手取り足取り全てが新しい

初登場時の夜守コウは中学2年生、14歳の年齢である。

I'm a day dream believer
俺の若さを日々吸い上げる
まるでサキュバスまたはインキュバス
近いうちに朽ち果てる

七草ナズナは吸血鬼でありつつ、作中ではエロネタを口走って夜守を驚かせたり、多くの人を魅了する体質を持っていたりと、男性に淫らな夢を見せては性行為を迫るといわれる伝承上の存在=サキュバスのような側面も併せ持つ。

それからお前は音楽をくれた
女の裸も見せてくれた
飲んだ事ねぇ酒に口つけて
オトンのタバコくすね火を付けた
やっちゃいけないが溢れて
知っちゃいけないに塗れてる
迎えに来る闇に紛れて
お前はいつも気まぐれで…

『よふかしのうた』ノンクレジットED映像
この楽曲では何度となく「お前」が出てくるが、おおよそ「夜」や「深夜」が生み出す空気感のことを指している。

アンモラルでイリーガルに引き込もうとする引力、そんな時間にキミを咎める者はほとんどいない、その一瞬だけ感じられる自由の感覚。ハマってしまったら最後まで抜け出せない。

実は、同じようにハマっちまった奴らがたくさんいるのだ。 アニメのED主題歌であもる楽曲「よふかしのうた」は、ラジオ番組『オードリーのオールナイトニッポン10周年全国ツアー』のテーマソングに起用されたということもあり、番組のリスナーやCreepy Nutsのファンに向けられていることを考えれば、そのリリックの奥深さやポップさがうかがえる。

曲と曲が歌う夜にハマってしまったなかに作者・コトヤマさんがいて、『よふかしのうた』を描いたのだから、クリエイティブな作品とは反響・反応・共鳴によって生まれるものなのだとつくづく感じさせられる。
1
2
3
この記事どう思う?

この記事どう思う?

アニメの関連記事

作品情報

TVアニメ『よふかしのうた』

放送
2022年7月7日よりフジテレビ“ノイタミナ”ほかにて毎週木曜 24:55〜放送中
原作
コトヤマ(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
スタッフ
監督
板村智幸
チーフディレクター
宮西哲也
脚本
横手美智子
キャラクターデザイン
佐川 遥
音楽
出羽良彰
美術設定
杉山晋史
美術監督
横松紀彦
色彩設計
滝沢いづみ
色彩設計補佐
きつかわあさみ
撮影監督
土本優貴
編集
榎田美咲
音響監督
木村絵理子
オープニング・テーマ
Creepy Nuts「堕天」(Sony Music Labels Inc.)
エンディング・テーマ
Creepy Nuts「よふかしのうた」(Sony Music Labels Inc.)
アニメーション制作
ライデンフィルム
キャスト
夜守コウ :佐藤 元
七草ナズナ :雨宮 天
朝井アキラ :花守ゆみり
桔梗セリ :戸松 遥
平田ニコ :喜多村英梨
本田カブラ :伊藤 静
小繁縷ミドリ:大空直美
蘿蔔ハツカ :和氣あず未
夕 真昼 :小野賢章
秋山昭人 :吉野裕行
白河清澄 :日笠陽子
鶯 餡子 :沢城みゆき

関連キーフレーズ

連載

KAI-YOU ANIME REVIEW

クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。