ジャズにのめり込む青年たちを描いた群像劇は、公開以降、興行収入ランキングで5週連続のトップ10入り。
『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』や『シン・仮面ライダー』など、春休みを見越した大型作品が続々と公開される中、「今、絶対映画館で見るべき映画」として多くの人が足を運んでいる。
漫画家の青山剛昌さんや奥浩哉さんなど、著名人が絶賛する『BLUE GIANT』とはどんな作品なのか。アニメならではの表現で最大化を試みた演奏シーン、原作漫画との物語構築の違いなどを通じて、その素晴らしさと“物足りなさ”を紹介したい。
文:草野虹 編集:恩田雄多
目次
伝わらないはずのものを感じさせる神通力
『BLUE GIANT』の興行収入10億円突破を記念した新ビジュアル
1967年に肝臓がんで亡くなるまで、第一線で活躍したのはわずか10年ほどながら、後世に多大な影響を残したジャズ・サックス奏者のジョン・コルトレーンさん。
モダン・ジャズを代表する彼が口にした生粋の名言といえば、音楽で神を示したいと語ったこの一節だろう。「神」という言葉に対して思うところがある人もいるかもしれないが、音楽家・ミュージシャンが為すべきこととは? という問いかけに対する、クリティカルな答えだ。
言葉を使わず音で魂に語りかけようとした彼と同じように、多くのジャズミュージシャンは「音」で対話しようとする。そんな音楽の神秘たる領域を、「絵」という手法で真っ向から描こうとした作品がある。
石塚真一さんによるジャズ漫画『BLUE GIANT』だ。
“音が聞こえてくる”漫画『BLUE GIANT』
漫画『BLUE GIANT』/画像はAmazonより
主人公は宮城県仙台市に住む高校生・宮本大(ミヤモトダイ)。ある日聞いた曲をきっかけにジャズへとのめり込み、高校卒業後はプロのテナーサックス奏者を目指して上京する。
都内のライブハウスで出会った凄腕ピアニスト・沢辺雪祈(サワベユキノリ)と、居候先の同窓生・玉田俊二(タマダシュンジ)をドラマーとして、3人組ジャズバンド・JASSを結成し、日本最高のジャズクラブ「So Blue」への出演を目指す物語だ。
加えて、有吉弘行さん、岡田准一さん、吉沢亮さんら多くの著名人がファンであることを公言している。その影響力を音楽シーンが見逃すはずはなく、コンピレーションアルバム(外部リンク)など多数の作品が発表されてきた。『BLUE GIANT』のロゴや宮本大の姿を見かけたことがある、というジャズファンも多いはずだ。
「僕には日本語がまったくわからない。でも、君の本を見てジャズ・クラブの匂いが嗅げる。君もさっき言っていたよね、ジャズを知らない人が音が聴こえてくると言う、って。それは素晴らしいことだ。それこそは、君がやっていることの素晴らしさなんだ」(ドン・ウォズ)
2010年代の音楽漫画を語る上で、外すことのできない名作の一つだろう。
連載
クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。
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