連載 | #17 KAI-YOU ANIME REVIEW

アニメ映画『BLUE GIANT』はジャズ表現の高みを目指した 極上かつ不十分な演奏シーン

アニメ映画『BLUE GIANT』はジャズ表現の高みを目指した 極上かつ不十分な演奏シーン
アニメ映画『BLUE GIANT』はジャズ表現の高みを目指した 極上かつ不十分な演奏シーン

全国公開中のアニメ映画『BLUE GIANT』

シリーズ累計1100万部突破の同名漫画を原作とするアニメ映画『BLUE GIANT(ブルージャイアント)』。2月17日の公開以降、口コミを中心に人気を拡大している。

ジャズにのめり込む青年たちを描いた群像劇は、公開以降、興行収入ランキングで5週連続のトップ10入り。

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷』や『シン・仮面ライダー』など、春休みを見越した大型作品が続々と公開される中、「今、絶対映画館で見るべき映画」として多くの人が足を運んでいる。
映画『BLUE GIANT』予告編
4月9日には興行収入は10億円、同12日時点で観客動員数は69万人を突破。さらには58の劇場で追加上映が決定した。

漫画家の青山剛昌さんや奥浩哉さんなど、著名人が絶賛する『BLUE GIANT』とはどんな作品なのか。アニメならではの表現で最大化を試みた演奏シーン、原作漫画との物語構築の違いなどを通じて、その素晴らしさと“物足りなさ”を紹介したい。

文:草野虹 編集:恩田雄多

目次

伝わらないはずのものを感じさせる神通力

『BLUE GIANT』の興行収入10億円突破を記念した新ビジュアル

「言葉を超越した音楽という言語で神というものを指し示したい。人々の魂に語りかけたいんだ」(ジョン・コルトレーン)

1967年に肝臓がんで亡くなるまで、第一線で活躍したのはわずか10年ほどながら、後世に多大な影響を残したジャズ・サックス奏者のジョン・コルトレーンさん。

モダン・ジャズを代表する彼が口にした生粋の名言といえば、音楽で神を示したいと語ったこの一節だろう。「神」という言葉に対して思うところがある人もいるかもしれないが、音楽家・ミュージシャンが為すべきこととは? という問いかけに対する、クリティカルな答えだ。

言葉を使わず音で魂に語りかけようとした彼と同じように、多くのジャズミュージシャンは「音」で対話しようとする。そんな音楽の神秘たる領域を、「絵」という手法で真っ向から描こうとした作品がある

石塚真一さんによるジャズ漫画『BLUE GIANT』だ。

“音が聞こえてくる”漫画『BLUE GIANT』

漫画『BLUE GIANT』/画像はAmazonより

『BLUE GIANT』は2013年に小学館『ビッグコミック』で連載開始。「漫画から音が聞こえてくる」とも評された圧倒的な表現力の高さが人気を集め、単行本などの発行部数はシリーズ累計で1100万部を超えている。

主人公は宮城県仙台市に住む高校生・宮本大(ミヤモトダイ)。ある日聞いた曲をきっかけにジャズへとのめり込み、高校卒業後はプロのテナーサックス奏者を目指して上京する。

都内のライブハウスで出会った凄腕ピアニスト・沢辺雪祈(サワベユキノリ)と、居候先の同窓生・玉田俊二(タマダシュンジ)をドラマーとして、3人組ジャズバンド・JASSを結成し、日本最高のジャズクラブ「So Blue」への出演を目指す物語だ。
音と熱を感じるジャズ漫画『BLUE GIANT』
オレは世界一のジャズプレーヤーになる」──荒削りながらも周囲を巻き込んでいく宮本大のパーソナリティや、演奏シーンの情熱や爆発力、メンバー同士のやり取りなどは必見。小学館漫画賞(一般向け部門)や文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞など、様々な賞を受賞してきた。

加えて、有吉弘行さん、岡田准一さん、吉沢亮さんら多くの著名人がファンであることを公言している。その影響力を音楽シーンが見逃すはずはなく、コンピレーションアルバム(外部リンク)など多数の作品が発表されてきた。『BLUE GIANT』のロゴや宮本大の姿を見かけたことがある、というジャズファンも多いはずだ。
キャンペーン「ジャズの100枚。」とのコラボムービー
ジャズシーンに燦然と輝く名門レーベルであるブルーノート・レコード。その社長であるドン・ウォズさんは、作者・石塚真一さんとの対談の中で、言語の壁を越える『BLUE GIANT』の魅力を本人に伝えている(外部リンク)。

「僕には日本語がまったくわからない。でも、君の本を見てジャズ・クラブの匂いが嗅げる。君もさっき言っていたよね、ジャズを知らない人が音が聴こえてくると言う、って。それは素晴らしいことだ。それこそは、君がやっていることの素晴らしさなんだ」(ドン・ウォズ)

2010年代の音楽漫画を語る上で、外すことのできない名作の一つだろう。

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クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

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