3人の友情劇にフォーカスしたアニメ映画『BLUE GIANT』
「読んでいると音が聞こえてくる」と評された漫画が劇場アニメ化するのだから、「どのように動くのか?」「どんな音なのか?」と読者の想像を掻き立てるだろう。映画『BLUE GIANT』は、アニメーションとして一つの答えを提示している。監督を『モブサイコ100』や劇場版『名探偵コナン ゼロの執行人』の立川譲さん、脚本を連載開始前からの担当編集者で、現在はstory directorとして作品に名を連ねるNUMBER 8さんが担当。アニメ制作は『幼女戦記』のスタジオ・NUTが手がけた。 アニメ映画では、主人公の大がバスケットボール部で感じた限界や、ジャズにのめり込んだきっかけなど、上京前の仙台編のストーリーをスパっとカット。大は仙台からやって来て玉田の家に居候している。
原作10巻を約120分の映画に仕上げるためには、当然泣く泣くカットせざるを得ない部分が出てくる。とはいえ、まさか「ジャズとの出会い」をカットするとは驚きだった。 そうした劇場版独自のシナリオに合わせて、大と彼の才能を見い出しジャズを教えた師匠・由井(ユイ)や、大が想いを寄せる同級生・三輪舞(ミワマイ)との関係性、雪祈が幼い頃に出会っていたアオイとのやりとりも最低限にとどめている。
言い換えれば、宮本大・沢辺雪祈・玉田俊二の友情やバンドメカニズムにフォーカス。アニメ映画を見た後に原作漫画を読むと、「そういう関係だったのか!」と驚かされるはずだ。
上原ひろみら第一線級のジャズプレイヤーによる音楽
アニメ映画『BLUE GIANT』の注目ポイントは、なんといっても演奏シーンと音楽だ。「読んでいると音が聞こえてくる」と評された漫画がアニメ作品となる上で、制作陣とファンの双方から最も重要視されたことは間違いない。音楽およびピアノアクターを担当したのは、日本ジャズシーンのトップランナーとして活躍し続けているピアニスト・上原ひろみさん。加えてサックスとドラムを担当したのは、これまたシーンで活躍を続ける馬場智章さんと石若駿さんという第一線級のプレイヤー。
特にドラマー・石若駿さんはKing Gnuの常田大希さんが主宰するMillennium Paradeをはじめ、KID FRESINOさん、くるりのサポートメンバーや自身のバンドを通じて、ポップスシーンにも積極的に参加している。 約120分の上映時間のうち、大・雪祈・玉田のいずれかのメンバーが音を奏でているパートは多い。公式サイトによれば「全編の約4分の1程度をライブシーンが占める」ほどだ。
戦前から現在まで続くジャズ喫茶・ジャズバーなどでは、LPレコードに大型オーディオシステムを用いて「ジャズを浴びる」ような文化が根強くある。『BLUE GIANT』を映画館で鑑賞することは、同じように「大画面・大音量でジャズを浴びたい」という根っからのジャズファンの欲求を満たすものでもある。 少しでも気になった人は、上原ひろみさんが制作したサウンドトラックも聴いてみてほしい。
大が好むような太くて強烈なジャズもあれば、中南米を意識したラテン風の「Motibation」「Samba five」、穏やかなムードを演出するカフェテラスで流れるような曲、ピアノが先行して旋律を奏でていく「Nostalgia」など、ジャズミュージックの様々な表情を描いた音楽作品としても楽しめるだろう。
なお、5月8日(月)には、東京・南青山にある世界屈指のジャズクラブ・Blue Note Tokyo(ブルーノート東京)での特別上映会も開催される(劇中でJASSの3人が出演を目指す名門クラブ“So Blue”のモデルでもある)。
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作品情報
映画『BLUE GIANT』
- 原作
- 石塚真一「BLUE GIANT」(小学館「ビッグコミック」連載)
- 監督
- 立川譲
- 脚本
- NUMBER 8
- 音楽
- 上原ひろみ
- キャラクターデザイン・総作画監督
- 高橋裕一
- メインアニメーター
- 小丸敏之 牧孝雄
- ライブディレクション
- シュウ浩嵩 木村智 廣瀬清志 立川譲
- プロップデザイン
- 牧孝雄 横山なつき
- 美術監督
- 平栁悟
- 色彩設計
- 堀川佳典
- 撮影監督
- 東郷香澄
- 3DCGIディレクター
- 高橋将人
- 編集
- 廣瀬清志
- 声の出演/演奏
- 宮本大 山田裕貴/馬場智章(サックス)
- 沢辺雪祈 間宮祥太朗/上原ひろみ(ピアノ)
- 玉田俊二 岡山天音/石若駿(ドラム)
- アニメーション制作
- NUT
- 製作
- 映画「BLUE GIANT」製作委員会
- 配給
- 東宝映像事業部
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連載
クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。
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