原作者・石塚真一の筆致と「絶頂」をアニメで再構築
素晴らしい音楽面の一方で、大・雪祈・玉田によるJASSの演奏シーンのアニメ表現はどうだったのか。結論から言うと、原作者・石塚真一さんの筆致・テイストを原画レベルから再構築し、うまく表現できていた。たとえば、人物の左側に光が当たる場合、首・耳・鼻の右側に生まれる影をフリーハンドで斜線として描写した点は、原作の再現力の高さを感じた。
時折、顔や体の輪郭に青色が用いられているのも印象的。本来ならば黒線だが、ティザービジュアルや本ポスターでも意識的に青色が使われている。 青色の描線を意識的に使っていたのは、劇中のセリフ「あのライブはBLUE GIANTだった」という言葉を表現するかのようであり、加えて大・雪祈・玉田の3人がぶつかり合いながら仲を深めていく青春模様……彼らのほとばしる若さやどう猛さを描くためか。さまざまな解釈・意味合いが込められているように感じられた。
激しく演奏しているパートでは、腕・脚・首の動き、視線・瞳・まぶたを2D作画で丁寧に描くことで、「今、演奏者が何を感じているか?」をしっかりと描写している。
「演奏者」としてのキャラクターが何を思い、考えて演奏しているか。サックスを吹く、ピアノを弾く、ドラムを叩くという3人の異なる動きで巧みに表現した。
演奏者がアゴから垂れ落ちていく汗のしずくに映り込んだり、演奏している楽器へと吸い込まれたり。それらのアニメーションは、3人の精神世界をスピリチュアルに描いていく作風でありつつ、どこかアヴァンギャルド(前衛的)な感触を残していた。
演奏者全員がバチっと噛み合って生まれる極上の音楽表現や調和していく様子、「絶頂」を捉えようとトライした非常に見どころの多いアニメーションパートだった。
3Dアニメを用いた演奏シーンに感じた違和感
ここまで2Dの作画が素晴らしいからこそ指摘せざるを得ないのは、3DCG・モーションアクター・ロトスコープを使ったアニメーションには物足りなさを感じてしまうことだ。肝心要であるはずのライブシーンでそれが顕著に出ており、動きの硬さ・表情の塗りなどが拙く、映画館の大きな画面で見るとどうしても違和感が拭えなかった。
一方で、筆者は『BLUE GIANT』の前に現在東南アジアでもヒットを飛ばしている映画『THE FIRST SLAM DUNK』を鑑賞しており、3Dアニメーションの酷さがより色濃く印象付けられた不運も重なっていた。
とはいえ、原作漫画を男性3人の友情劇へとうまく抽出したストーリーライン、「自分と音楽が渾然一体となっていく」演奏シーンのアニメーション、名うてのプレイヤーらによって表現される様々なジャズミュージックなどが大きな見どころとなるアニメ映画に仕上がっている。
ちなみに、原作漫画とはクライマックスシーンでの描かれ方が異なっており、原作ファンにとっては涙を禁じ得ないところ。もしもこのアニメ映画で『BLUE GIANT』を知った人は、ぜひ原作漫画を読んでみてほしい。 スマートかつ品の良さが先行してしまうジャズという音楽を塗り替えるように、宮本大を中心とした人間の思惑が絡んだ群像劇として、泥臭く人情味あふれる表現・描写が漫画版ではいくつも描かれている。
そしてそれは、マイルス・デイヴィスさんがジャズについて言及したとある名言に通じるものである。
「立派なジャズを演奏するには、実際の生活や経験を通じてはじめて身につく、人生に対する理解とか感情といったものが必要なんだ」(マイルス・デイヴィス)
アニメ映画『BLUE GIANT』は全国公開中。
©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会
©2013 石塚真一/小学館
©石塚真一/小学館
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作品情報
映画『BLUE GIANT』
- 原作
- 石塚真一「BLUE GIANT」(小学館「ビッグコミック」連載)
- 監督
- 立川譲
- 脚本
- NUMBER 8
- 音楽
- 上原ひろみ
- キャラクターデザイン・総作画監督
- 高橋裕一
- メインアニメーター
- 小丸敏之 牧孝雄
- ライブディレクション
- シュウ浩嵩 木村智 廣瀬清志 立川譲
- プロップデザイン
- 牧孝雄 横山なつき
- 美術監督
- 平栁悟
- 色彩設計
- 堀川佳典
- 撮影監督
- 東郷香澄
- 3DCGIディレクター
- 高橋将人
- 編集
- 廣瀬清志
- 声の出演/演奏
- 宮本大 山田裕貴/馬場智章(サックス)
- 沢辺雪祈 間宮祥太朗/上原ひろみ(ピアノ)
- 玉田俊二 岡山天音/石若駿(ドラム)
- アニメーション制作
- NUT
- 製作
- 映画「BLUE GIANT」製作委員会
- 配給
- 東宝映像事業部
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連載
クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。
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