連載 | #13 KAI-YOU ANIME REVIEW

TRIGGER映画『プロメア』レビュー 今石洋之&中島かずきの現代的リミックスの在り方

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TRIGGER映画『プロメア』レビュー 今石洋之&中島かずきの現代的リミックスの在り方
TRIGGER映画『プロメア』レビュー 今石洋之&中島かずきの現代的リミックスの在り方

映画『プロメア』

POPなポイントを3行で

  • TRIGGER制作アニメ『プロメア』レビュー
  • 今石・中島タッグによるリミックスとサンプリング
  • 『スパイダーバース』とも繋がるテーマ
今石洋之監督と中島かずきさんの脚本による、TRIGGER制作の劇場版アニメ『プロメア』。これまでに制作した『天元突破グレンラガン』(以下、『グレンラガン』)と『キルラキル』では、過去数十年間にわたるロボットアニメの歴史や、昭和のサブカルチャーを再構成し、リズミカルに描いてきました。

いわばDJのように、過去のアーカイブをサンプリング・リミックスしてアニメをつくってきたと言っていいでしょう。『プロメア』の予告が発表されたとき、筆者は「今度は何をチョイスしてリミックスするんだろう?」と期待していました。

実際の映画を観て、これまでの趣味的なチョイスから離れていたことに驚きました。今回リミックスしたのが過去の題材ではなく、現代の題材だったからです。

文:葛西 祝

『プロメア』の背景にあるジャンル“シンセウェイブ”

満員電車の中や、あるいは街のどこかで、人間がいきなり炎上する——突然変異で生まれた人類・“バーニッシュ”の登場。彼らは全世界の半分が消失する事態を起こしてしまいました。

それから30年。炎上を起こす新たな人類・バーニッシュは、社会のなかで追いやられる立場になります。バーニッシュの中でも攻撃的な人間が「マッド・バーニッシュ」として破壊活動を行い、リオ(CV.早乙女太一)はマッド・バーニッシュのリーダーとして部隊をまとめあげていました。

彼らを止めるために結成されたのが「バーニングレスキュー」。新人隊員・ガロ(CV.松山ケンイチ)は街で発生する炎上を止めるために日夜闘っていく中で、リオと対決することになります。しかし、マッド・バーニッシュとの闘いの裏には、大きな陰謀が隠されていたのです。

『プロメア』は表向き、今石・中島コンビらしいテイストですが、絵づくりは過去の作品とは違って見えるはず。その理由には、シンセウェイブ(Synthwave)の影響があると思います。

シンセウェイブで多用されるロゴデザイン。硬質なフォントに手描きの文字を沿えるスタイル。『プロメア』のロゴもこの構成を踏襲していると思われる。/画像はPhotoFuniaにて作成

シンセウェイブとは何でしょうか? インターネットの音楽ジャンルの1つであり、名前の通りシンセサイザーを主体にした楽曲で、主に1980年代のサイバーパンクや映画、ローポリゴンのCGなどをモチーフにしたアートスタイル表現を指します。インスピレーション元には日本のアニメのほかに、ビデオゲームも含まれています。

近いジャンルに、インターネットのカオスを題材としたヴェイパーウェイブ(Vaporwave)や、日本の80年代アニメやシティポップのきらめきを使うフューチャーファンク(Future Funk)があります。シンセウェイブが成立した経緯について詳しくは、KAI-YOUの連載「ムーンサイドな海外音楽の旅 第4回」の「怪奇! シンセウェイブ」(関連記事)もご参考ください。 『プロメア』の絵づくりは、過去の今石・中島タッグの作品のみならず、今の日本アニメであまり見られないでしょう。現在のところ、シンセウェイブやヴェイパーウェイブに影響を受けたタイトルは前例がありません。劇中音楽をつとめた澤野弘之さんのテイストは今回も健在ながら、随所にシンセウェイブのエッセンスが含まれているようにも感じられます。

思えば今石・中島タッグの新作がシンセウェイブとつながるのは、興味深い出来事だと言えます。何しろ、数十年に及ぶロボットアニメの歴史や、昭和のカルチャーといった過去のアーカイブをリミックスする姿勢と、日本のポップカルチャーを奇妙な題材としてリミックスしてしまうジャンル同士が出会ったということですから。

シンセウェイブをベースにした『グレンラガン』のリミックス

シンセウェイブに加え、ヴェイパーウェイブやフューチャーファンクは歪な方向から日本のアニメをサンプリングしてきました。『うる星やつら』や『美少女戦士セーラームーン』のようなアニメをジャケットに使い、あの時代のきらめきに意味があるようにリミックスしてきたのです。

『プロメア』はそんなジャンルに対し、実際にアニメをつくる側から応答したとも言えるでしょう。シンセウェイブやヴェイパーウェイブがアニメやゲームをサンプリングする手法を、サンプリングに長けた制作者が使っているようにも見えて面白いですよね。 実際、『プロメア』では主人公・ガロの造形にそれが現れているでしょう。『グレンラガン』のカミナを思い起こさせる造形ですし、2人乗りの巨大ロボットも出てくるわけです。ギミックや演出も『グレンラガン』とほとんど同じと言っていいでしょう。

『グレンラガン』を思わせるアプローチは、おそらくは意図的にやっているはず。その試みは『プロメア』に『グレンラガン』とは異なる印象をもたらしています。日本のアニメを題材にした、シンセウェイブやフューチャーファンクのようなアプローチで、かつての『グレンラガン』の文脈そのものを書き換えていると言えるでしょう。
それはどう書き換えられたと言えるのでしょうか? シンセウェイブやフューチャーファンクが日本のアニメをサンプリングするとき、過去のきらめきと退廃が入り混じったものになります。同様に『プロメア』では『グレンラガン』のイメージを、いささかクールで、退廃的なものにリミックスしているのです。

もう1つ、シンセウェイブを思い起こさせる表現にはローポリゴンもあります。バーニッシュの使う炎が、明らかにポリゴンだとわかるように、画面から浮いて見えるよう表現されています。この違和感が物語の根幹にも関わるように描いている点も面白いポイントと言えるかもしれません。

カオスな表現と現代的なテーマのマッチ

『プロメア』が取り扱う現代性は、シンセウェイブを参照していることにとどまりません。今回のストーリーテリングも、過去の中島脚本を踏襲しながら現代的なテーマを導入していることも大きいでしょう。

こちらも表向きは、今石・中島作品らしいヒーローとライバルの対立、そのあとに共闘する筋書きです。しかし『プロメア』では彼らが闘う背景を現代のテーマとして読むことができなくない程度に、様々な要素が描かれています。

例えば「炎上と凍結」による戦いがそうですよね。これをインターネット上で起こる炎上と鎮火だ、と読むことも可能です。これを押し進めてみると、社会でバーニッシュという存在が炎上を起こすことは、もう少し意味を持って読むこともできるわけです。
つまり「外見的には、ほとんど同じ人類にしか見えないマイノリティー」がマジョリティーの社会に対して犯行を起こしていく物語であり、バーニッシュの炎上とは、あらゆる意味でのマイノリティ側が問題を提起していくと読むこともできます。

リオとガロの闘いと共闘って、今石・中島タッグがこれまで描いてきた主人公とライバルの関係なんですけど、今回違った印象を受けるのはそういった現代的な背景があるからだと思います。

もちろん『プロメア』では全面にそれを押し出していません。いずれも「そう観ようと思わなければ観えない」くらいに抑えられています。『プロメア』は、シンセウェイブでリミックスされた『グレンラガン』であり、水面下でマジョリティーとマイノリティーの闘いを描く物語に仕立て上げた点が現代的と言えるでしょう。

『スパイダーバース』とも繋がるテーマとは

ネット上の反響には、『プロメア』と『スパイダーマン:スパイダーバース』(以下、『スパイダーバース』)との比較も少なくありません。『スパイダーバース』は別の絵柄のヒーローたちが揃うだけではなく、コミック表現からヴェイパーウェイブの表現まで飲み込んだカオスなアニメでした。

そこで黒人の主人公・マイルズや女性のグウェンなど、どんな立場の人々でもヒーローになれるんだ、という現代のテーマとカオスな表現が歩みを同じにしたことが、革新的な印象を残しています。『プロメア』と共通する部分は、インターネット発の音楽ジャンルも含めたカオスな表現と、多様な立場のキャラクターが共存することが組み合わさった点だと言えます。

『プロメア』が『スパイダーバース』に近しい印象を与えるのも、まさにカオスな表現とマジョリティーとマイノリティーの闘いのストーリーが噛み合ったことが大きいです。今石・中島タッグのサンプリングとリミックスによるスタイルや、シンセウェイブを参照した表現が、今日のテーマに食い込んでいることも、これまでとの違いではないでしょうか。

今石・中島タッグのアニメは激しいアクションの一方で、基本的に主要な登場人物はほぼ死ぬことがありません。『プロメア』では、その姿勢をより意味深く感じることができます。本当の敵も含め、誰も死なせない結末にたどり着いたことは、現代のテーマをリミックスするうえでもっとも意味のあることだと思います。

子供向けの代表格であるディズニーであっても、ラストで巨悪は死ぬことが多い中、共存する結末にも読める物語を日本のアニメがつくったことが面白いと思いますね。ただ物語のラストは少々惜しいです。マイノリティーたるバーニッシュがなぜそうであるかの要因を消してしまう結末のため、共存共栄という観点からすればバーニッシュであるアイデンティティーを無くしてしまうことにもなりますから。

ともあれ、カオスな状況を制し、共存共栄する結論に持っていったことが、いつも通りの今石・中島タッグらしさを残しながら、現代的で新しいと感じさせるのです。

(c)TRIGGER・中島かずき/XFLAG

夏本番までに見ておきたい劇場版アニメ

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作品情報

映画『プロメア』

公開
2019年5月24日
キャスト
松山ケンイチ 早乙女太一 / 堺 雅人
ケンドーコバヤシ 古田新太 佐倉綾音 吉野裕行
稲田 徹 新谷真弓 小山力也 小清水亜美 楠 大典
檜山修之 小西克幸 柚木涼香
スタッフ
原作
TRIGGER・中島かずき
監督
今石洋之
脚本
中島かずき
キャラクターデザイン
コヤマシゲト
美術
でほぎゃらりー
美術監督
久保友孝
色彩設計
垣田由紀子
3DCG 制作
サンジゲン
3Dディレクター
石川真平
撮影監督
池田新助
編集
植松淳一
音楽
澤野弘之
音響監督
えびなやすのり
タイトルロゴデザイン
市古斉史
主題歌
「覚醒」「氷に閉じこめて」 Superfly
(ワーナーミュージック・ジャパン)
アニメーション制作
TRIGGER
製作
XFLAG
配給
東宝映像事業部

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葛西

ライター

ジャンル複合ライティング業者。ビデオゲームや格闘技、アニメーションや映画、アートが他のジャンルと絡むときに生まれる価値についてを主に書いています。

Twitter:@EAbase887

ポートフォリオサイト:http://site-1400789-9271-5372.strikingly.com/

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クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

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