その先駆けとして語られる1人が宇木敦哉監督だ。
2009年に公開された『センコロール』は、『AKIRA』に通じる遠近法の利用や『フリクリ』にも類するような軽やかでスピード感ある映像が各界で絶賛された。
今回は同作でヒロインのユキ役をつとめた声優・花澤香菜さんにアフレコ当時を振り返ってもらいながら、“究極の個人制作アニメ”を手がける宇木監督について語ってもらった。
取材・文:ふじきりょうすけ 編集:恩田雄多 撮影:宇佐美亮
ユキは花澤香菜をイメージしてつくられた?
──もともと『センコロール2』は2014年夏の公開予定でした。延期が決まったときの率直な心境を教えてください。花澤 宇木さんがほぼおひとりでつくられているというのは知ってましたし、『センコロール』(2009年)のクオリティを考えたときに、『2』も同じようにつくるってなったら「それは大変でしょう」「(延期も)めっちゃわかる!」みたいな心境でした(笑)。
私としては『2』のアフレコも2013年で終わってたので公開が楽しみだなぁと。
──今回は「センコロール1+2」をセットにして『コネクト』として上映されています。アフレコされた当時(10年前と6年前)のご自身の演技を、いま新作としてご覧になられてどのように感じますか?
花澤 (頭を抱えながら)「まじか〜!」って感じですよ(笑)。今だったらどういう風に演じたんだろうと考えちゃいます。
当時の私は素朴にユキを演じようとしてたんでしょうが、それにしてもやり方はもっとあるぞ! みたいな。 ──ユキというキャラクターについて、素朴以外にどんな印象をもたれていますか?
花澤 主人公のテツと似てるところがあると思ってるんです。すごい飄々としていて。
なにかこう、普通だったらびっくりするようなことが起きても全然受け入れていくんです。理解力があるというより、肝が座っているんですかね。
──日常生活から「センコ」たちのいる未知の世界に自らの意志で飛び込んでいきますし。
花澤 そうですね。たまたま「センコ」をコントロールする特殊な能力があるというだけで、それ以外はごく普通の女子高生として描かれていて。使命があるわけではないんだけれど、自分がすべきだと思ったことにはまっすぐに向かっていける。純粋さと素直さ、意志の強さがある女の子だと感じてます。
それこそシュウたちと絡むとよくわかるんですけど、信用してない人に対しては、けっこう強くあたってたりしますね。 ──意外と強い女性として描かれてますね。
花澤 テツのことを尻に敷いてる感もありますね。
お芝居の点でいうと、「センコ」のコントロールが奪われるところ。髪の毛が引きちぎられる、引きつる感じを……自分の髪をこうピッと引っ張って「これよりは絶対痛いな! もっと奥から抜かれる感じなんだろうな!」とか想像しながら演じてました(笑)。
──僕はプリンを頼んでもないのに人数分買ってくるシーンが印象的です。
花澤 すごいかわいいですよね。そのシーン、プリン渡すとき「んっ」って言うんですよ。あの「んっ」がすごく好きで! あんまりいっぱい言葉を使わない感じ。わかれよ! みたいなところに、絶対監督のフェチが詰まってると思ってるんですけど(笑)。
説明なしで納得しちゃう『センコロール』の世界
──宇木監督は第1作を受けて『センコロール2』に関しては「役者をイメージしながら制作した」と発言されていました。ユキとご自身で共通する点などは感じますか?花澤 それはどうだろうなぁ(笑)。
例えばアニメっていろいろな世界観がありますけど、この作品ではいわゆるアニメっぽくない、現実世界でも通用するような日常的な言葉が使われてるんですよ。キャラクターを印象づける特殊な造語みたいなものはないので、だからこそ、10年経って見てもいい意味で時代の経過を感じさせない。
そういう面でセリフは自然と喋りやすくて。(ユキは)「ん?」「お?」「おぉ!」といった言葉で感情を表現するんです。で、いつもこう……ぼーっとしてるっていうか(笑)。そういう意味では、自分の日常的な感覚で演じやすかったというのはありますね。
──「特殊な造語がない」という点で気になったのですが、宇木監督から世界観、例えば物語を象徴する「センコ」についてなどの詳しい説明はありましたか?
花澤 いいえ、あんまりなかったと思います!
もちろん監督とはコミュニケーションをとってたんですけど、主に役に対してのことでしたね。例えば監督が私を選んでくださった理由のひとつに『ゼーガペイン』という作品があって。これは私が17歳のときに初めてヒロインをやらせていただいた作品なんです。
その雰囲気がいいって言ってくださって、それが『センコロール』での演出やセリフの素朴さとかに合うと思ったんです──そういうお話はした覚えがあるんですけど、「センコ」に対してとか、「この世界はなんなの?」といった点については、特に説明はなかったような気がします。 花澤 見てるみなさんもそうなると思うんですけど、「(センコロールの世界は)こういうものなのか」って納得して受け取っちゃう感じがするんですよね。「なんなんだ?」って聞くのは野暮なんじゃないかなって思えるくらいに。
私の演じるユキ自身もこの世界のことをわかってないので、(テツやシュウたちと)出会っていって、「センコ」というかわいいキャラクターがいて、一緒に行動していたらいろいろなことに巻き込まれる。そんな感じなので“この世界を突き詰めていくと”みたいなことは話しませんでした。
──わからないことだらけの世界でありながら、キャラクターの内面や葛藤を描く部分が少ないので、演技の組み立てが難しいのではないかなという印象もありました。
花澤 でも自分自身の高校生活を振り返って──それこそ悩みがあって、向き合わなきゃいけないこともあったんですけど──普段の日常は……特に葛藤みたいなものはないというか、何も考えていないというか、そんなもんだったんじゃないかしらって(笑)。
それにユキちゃんは思ってないことは言わないんですよ。言葉の裏に何かがあったら、キャラクターと向き合って深く考えないといけないですけど。わりと思ったことをポンポン言いますし。
あとは物語がキャラクター同士の会話で成り立ってるので、相手(テツ役の下野紘さん)との呼吸は意識しました。 ──『2』ではキャラクターも増えたことで掛け合いも増えましたよね。
花澤 最初は4人しかキャストがいない状況でしたからね。
新しくカナメとゴトウダの2人が登場したからこそ、テツとユキがみんなよりもちょっと親しい関係であることが浮き上がってくるかなって。しゃべってても一番イキイキしてますしね。
それにあの世界にちゃんとした組織があるとか、どうやら生き物をコントロールできるのは学生なのかなとか、彼らがいるお陰でわかってきたので面白かったです。
──ということはやっぱり『2』のときも新キャラクターたちの登場背景みたいなものは……?
花澤 一切説明なかったですね(笑)。ユキちゃんとまったく同じ状況です。
「1人でつくってたら挫けますよね?」
──宇木監督のような個人クリエイターがつくる作品って、当時出演されていたほかのどのアニメとも違うつくり方だと思うんですが、関わられてどのような印象をもちましたか?花澤 まずどうやってつくっているのかがわからないですよ!
私は宇木さんのキャラクターも大好きなんですよ、「センコ」のフォルムとかキモ可愛い表情とか、あの色彩も。
本当に宇木さんにしかできないものだから、きっと宇木さんがみっちり入って制作しないと『センコロール』というものはできないんだろうなというのは思います。音以外は全部宇木さんが担当してるんですもん。すごいですよね。
──あの空気のままどうやって動かしてるんだろうって見るたびに思います。
花澤 それに1人でつくってたら挫けますよね? まだこんなにあるー! って。モチベーション保つのが大変じゃないですか。
この10年の間に『つり球』や『デジモンアドベンチャー tri.』といったアニメにも携わっていて、イラストレーターとしての宇木さんのお仕事を見る機会もありましたし。その中で『センコロール』を描きあげてくださったということが「ありがたや!」って感じです(笑)。 ──『1』が公開された2009年といえば「〈物語〉シリーズ」で千石撫子を演じられていたタイミングですよね。『センコロール』も3作目の制作が発表されましたが、長くキャラクターを担当することによって演技に変化はありますか?
花澤 それこそ「〈物語〉シリーズ」は、本当に彼女自身の状況が変わって、物語のなかでの時間も経っているし、エピソードを重ねるごとにいろいろな面が見えていきます。
それに比べると『センコロール』は『1』と『2』が地続きなので、何かが起こったというよりかは、関わる人が少し増えた程度。6年前に『センコロール2』で演じたとき──役としてのブランクは4年あるわけですが、演じにくいとかは感じなくて。『1』を見直して、ユキの素朴な部分を意識して演じました。 花澤 ……ただ『3』のアフレコは苦労するかもしれないなと、ちょっと思ってます(笑)。
どういう展開になるかわからないけれど、そこで何かが起きて、彼女が成長するだとか。違う一面が見れたりするのかもしれないですよね。むしろこれからのほうが大変だし、やりがいはあるんじゃないかな、なんて思ったりはします。
──近年、『君の名は。』の新海誠監督や『ペンギン・ハイウェイ』の石田祐康監督など、個人制作をルーツにもつ監督のヒットが続いています。宇木監督もその文脈で語られる1人ですが、個人ならではの違いを感じられることはありますか?
花澤 独特の存在観というか、濃さみたいなものはどの監督にもありますよね。
ちょっと話はずれちゃうんですけど、うちの母が10年前に『センコロール』の舞台挨拶に来てくれてたんですよ。それで今回『コネクト』をやるってことを聞きつけたらしくて、「香菜、舞台挨拶がみたいから席をとってくれないか」って連絡がきたんです(笑)。 花澤 10年経っても覚えてるんですよね。ほかの出演作をそこまで覚えていないうちの母がですよ! 劇場アニメだからって毎回来るわけでもない人なんですけど、すごい好きみたいで。そういうパワーがあるってすごいですよね。
だからというわけじゃないですけど、宇木さんの作品はアニメとしても魅力的だけど、それ以上に芸術作品のように見ている方もいるんじゃないかなと思います。
──ちなみに今日の衣装は浴衣なんですね。
花澤 私、10年前の舞台挨拶のときも浴衣を着てたみたいなんです。そんなこと全然覚えてなくて、「夏だなぁ」くらいに思ってました(笑)。
画像をもっと見る (c)宇木敦哉/アニプレックス (c)2019 宇木敦哉/アニプレックス
『センコロール』をもっと知りたい
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作品情報
センコロール コネクト
- 公開
- 2019年6月29日(土)
- スタッフ
- 監督・脚本・作画
- 宇木敦哉
- 音楽
- ryo (supercell)
- 配給
- アニプレックス
- キャスト
- ユキ
- 花澤香菜
- テツ
- 下野紘
- シュウ
- 木村良平
- ケイ
- 森谷里美
- カナメ
- 高森奈津美
- ゴトウダ
- 赤羽根健治
【Introduction】
究極の個人制作アニメーション
スクリーンからほとばしる、奔放なイマジネーションに圧倒される、短編アニメーション『センコロール』。
マンガ家・イラストレーターとして活躍し、『つり球』『デジモンアドベンチャー tri.』のキャラクターデザインでも知られるクリエイター・宇木敦哉がほぼ1人で作り上げた本作は、2009年公開時、ファンの熱狂的な支持を得た。
プロジェクト開始から10年——
伝説の第1作と、その直接の続編となる第2作を合わせた『センコロール コネクト』が、新たに私たちの前に姿を現す。
緻密に組み上げられたビジュアルセンス、繊細さと凶暴さを併せ持った縦横無尽なアニメーション、そして更にスケールアップし、謎が謎を呼ぶ魅惑的な世界観。
音楽は全編 ryo(supercell) が手掛ける。
いまだフレッシュな衝撃を失わない『センコロール コネクト』と共に、私たちは「宇木敦哉」という才能を、発見するだろう。
【Story】
僕らの日常は一変した……
ビルの屋上に突如、出現した謎の白い生き物と、その姿を気だるげに見つめる少年・テツ。
彼は、その生き物に「センコ」という名前をつけ、自在に姿を変える能力を使って、ひそかに高校生活を送っていた。
だがある日、テツはその秘密を、同じ学校に通う少女・ユキに知られてしまう。
そのふたりの前に謎の少年・シュウが現れ、センコをめぐる戦いが勃発する……。
さらに、テツたちの前にもうひとり、謎のメガネの少女が現れる。
彼女の名はカナメ。
とある組織に所属するカナメは、センコとは別の謎の生き物を操り、脱走中のシュウの跡を追っている。
カナメの登場により、センコをめぐるテツの戦いが新たに幕を開けるのだった。
きみとつながる、僕らは戦う——
関連リンク
花澤香菜
声優
1989年2月25日生まれ、東京都出身の声優。2006年放送の「ゼーガペイン」で初のヒロインとなるカミナギ・リョーコ役を演じ、2007年には「月面兎兵器ミーナ」「スケッチブック ~full color's~」「ぽてまよ」といった作品で次々と主要キャラクター役に抜擢された。その後も「こばと。」「化物語」「海月姫」などの人気アニメでヒロインを演じるかたわら、多数の作品でキャラクターソングを歌い、2011年放送の「ロウきゅーぶ!」では声優ユニット「RO-KYU-BU!」のメンバーとしても活躍。2012年4月にはシングル「星空☆ディスティネーション」でソロデビューを果たした。2013年2月には1stフルアルバム「claire」を発表し、同年3月には大阪・NHK大阪ホール、東京・渋谷公会堂にて初のワンマンライブを行い、いずれも大成功に収めた。2014年2月には2ndアルバム「25」、2015年4月には3rdアルバム「Blue Avenue」、2017年2月には4thアルバム「Opportunity」を発表。2018年2月には佐橋佳幸をプロデューサーに迎えた12枚目のシングル「春に愛されるひとに わたしはなりたい」をリリースし、佐橋とのコラボレーションによるワンマンライブ「KANA HANAZAWA Concert 2018 "Spring will come soon"」を東京・新宿文化センターで開催した。7月には同じく佐橋プロデュースで槇原敬之が作詞作曲を手がけた13枚目のシングル「大丈夫」をリリース。9月には東京・オリンパスホール八王子、千葉・森のホール21 大ホールの2会場でワンマンライブ「KANA HANAZAWA Concert 2018~大丈夫~」を行う。
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