連載 | #16 KAI-YOU ANIME REVIEW

史上最もイカれたサッカー漫画『ブルーロック』は怒りを肯定する

「ブルーロック」で潔世一と読者は学び、思考する

主人公の潔世一は、フィジカルやテクニックは並かそれより少し上程度と表現されており、ジャンプ力・ダッシュ力・身長・パワーなどのフィジカル面で苦労する場面がとても多い。

『ブルーロック』というデスゲームをサバイブするために、何よりエゴイストなストライカーとなるために、登場人物はそれぞれに自分だけの武器を身につける。ちなみにそれらは途中から『キャプテン翼』のような超能力的必殺技へと進化するが、今回はいったん一旦触れないでおこう。

そうした中で潔世一が掴んだ武器は「空間認識能力」や「ダイレクトシュート」など。サッカーファンには一般的なものばかりだが、彼にはもうひとつ、あまり触れられていない特異な能力がある。「思考力」だ。

漫画・アニメでは、読者や視聴者に状況を説明するためのポジション、文字通り解説役が置かれることがある。『ブルーロック』では、主に主人公・潔世一の視点で語られることが多い。
キャラクターPV・潔 世一編
試合の状況を「こうなのか? ああなのか?」「いや! こうだ!」と自問自答を繰り返しながら、躍動するキャラクターと変化する戦況を見る側に提示する

解説役である彼の理解を超えたプレーを見せつける選手が何度も現れ、そのたびに潔と読者は驚嘆し、思考をアップデート。その連続でドラマは大いに盛り上がっていく。

ある意味メタ的な視点だが、こうして常に解説役として試合の戦況を語り続け、「空間認識能力」を活かして全体に意識を向け続けることで、相対的に潔世一本人の思考力・戦術眼がグンと上がっていくことになる。

勝つだけでなく、“自分が活躍して”勝つというエゴ

現実の日本サッカーでも、5月に亡くなった元サッカー日本代表監督のイビチャ・オシムさんが00年代に提唱した「考えて走るサッカー」以降、考えてプレーすることが重要視されている。

試合中であれば「今この瞬間で最適なポジショニングはどこか?」、試合が終われば「なぜ勝てた/負けたのか?」──常に思考し続けることが、勝利への近道・鉄則なのだ。

『ブルーロック』でも、潔世一を中心にした登場人物は、デスゲーム的なコンペティションを勝ち上がるために、自ら考えることが求められる。コーチ役の絵心も、選手たちに何度も問題とヒントを与え、思考させ乗り越えようとさせる。

日本サッカーに通底する「思考力」を、『ブルーロック』は時に確信的に、時にメタ的に扱いながら、巧みにエンターテインメントへと昇華。「考えることを諦めるな」とメッセージを送り続けた。 世界一のエゴイストでなければ、世界一のストライカーになれない

冒頭でも触れた絵心の言葉にもあるように、『ブルーロック』は考えることと同時に、世界一のエゴイストであることを絶対的に求める。

W杯・カタール大会のドイツ戦で同点ゴールを決めた堂安律選手や、スペイン戦で決勝ゴールを挙げた田中碧選手らの試合後の発言は、国内外で「まるで『ブルーロック』のようだ」といわれた。
サッカー日本代表・スペイン戦の舞台裏

「俺が決めるという気持ちで入りましたし、俺しかいないと思っていたので。そういう強い気持ちでピッチに入りました」(堂安律選手)

「ワールドカップで点を取るというのはずっと毎日のように考えていた。自分を信じ続けたこの3か月、取れないかなと思う時もあったけど、それでも俺が取るんだと思い込み続けていた」(田中碧選手)

考えることは、得点を取るために、または点を決められないために、ひいては試合に勝つために絶対に必要だ。しかし、そこからさらに先へ進み、“自分が活躍して”試合に勝つために、思考力とエゴが必要であると『ブルーロック』は説いている。

日本代表が前回大会と同じくベスト16で敗れてしまったカタール大会後、『ブルーロック』は何をどのように説き、訴えていくのだろうか。 ©︎金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会
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サッカーW杯を巡って

作品情報

TVアニメ『ブルーロック』

原作
金城宗幸 漫画:ノ村優介(講談社「週刊少年マガジン」連載)
監督
渡邉徹明
副監督
石川俊介
シリーズ構成・脚本
岸本 卓
ストーリー監修
金城宗幸
コンセプトアドバイザー
上村 泰
メインキャラクターデザイン
進藤 優
キャラクターデザイン・総作画監督
田辺謙司、戸谷賢都
チーフアクションディレクター
東島久志
アクションディレクター
坂本ひろみ
プロップデザイン
興津香織、東島久志
衣装デザイン
中島裕里
作画特殊効果
あかね
色彩設計
小松さくら
特殊効果
山田可奈子
美術設定
杉山晋史
美術監督
高木佐和子
背景
スタジオワイエス
撮影監督
浅黄康裕
撮影
チップチューン
3DCGディレクター
広沢範光
3DCG
オーラスタジオ
ビジュアルコンセプト
山下敏幸(ハイパーボール)
特殊効果処理
山下敏幸、三皷梨菜
2DCGモニターグラフィック
浅野恵一(emitai)
編集
長谷川舞(エディッツ)
音響監督
郷文裕貴
音響制作
ビットグルーヴプロモーション
音楽
村山☆潤
アニメーションプロデューサー
平野 強
アニメーション制作
エイトビット
キャスト
潔 世一:浦 和希
蜂楽 廻:海渡 翼
國神錬介:小野友樹
千切豹馬:斉藤壮馬
久遠 渉:中澤まさとも
雷市陣吾:松岡禎丞
今村遊大:千葉翔也
我牙丸 吟:仲村宗悟
成早朝日:梶田大嗣
伊右衛門送人:綿貫竜之介
五十嵐栗夢:市川 蒼
吉良涼介:鈴村健一
絵心甚八:神谷浩史
帝襟アンリ:幸村恵理
馬狼照英:諏訪部順一
二子一揮:花江夏樹
鰐間淳壱:鈴木崚汰
鰐間計助:鈴木崚汰
凪 誠士郎:島﨑信長
御影玲王:内田雄馬
剣城斬鉄:興津和幸
糸師 凛:内山昂輝
蟻生十兵衛:小西克幸
時光青志:立花慎之介
糸師 冴:櫻井孝宏
主題歌
オープニング主題歌:UNISON SQUARE GARDEN「カオスが極まる」
エンディング主題歌:仲村宗悟「WINNER」
放送情報
毎週土曜 25:30〜テレビ朝日系全国ネット“NUMAnimation 枠 ”にて放送中
毎週土曜 26:00〜BS 朝日にて放送中
毎週日曜 21:00〜AT-X にて放送中
※リピート放送:毎週水曜 28:30/毎週日曜 6:00※
配信情報
毎週土曜 26:00〜各配信サイトにて配信中

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クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。

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