電子機器メーカーのカシオ計算機(以下、カシオ)が8月27日、SE(効果音※)を生成するAI効果音生成サービス「Waves Place」をリリースしました。
G-SHOCKなどの時計や電卓で知られる電機メーカー・カシオと、「Waves Place」は、AIひろゆきを生み出した筑波大学発のスタートアップ・AIdeaLabが協業して開発した独自のAI効果音生成技術を搭載した生成AIサービスです。
※SE:映像業界の一部では、収録音声を指す用語として使われる場合もある
Waves Place
本サービスに欲しいSEの雰囲気やイメージをテキストで入力することで、その内容に沿った音が生成され、ダウンロードして使用することができます(有料版では商用利用も可)。
これまで、クリエイターが理想の音を追求するべく膨大な時間を費やしていたことを鑑みると、生成AIで手軽に手に入れられるのは画期的といえるでしょう。
今回は、音響関係の仕事にも従事している筆者の観点から、創作においてのSEの重要性と「Waves Place」について解説します。
執筆:古月 編集:都築陵佑
目次
動画やゲーム……あらゆる創作分野で大活躍「SE」
昨今、SEは、音楽やラジオ/ポッドキャストといった音声コンテンツのみならず、様々なエンタメ/クリエイティブ領域で活用されています。
映像分野では、テレビや映画、YouTube、そしてTikTokに至るまで、あらゆるプラットフォームの映像・動画をより惹き立てるものとして多用されています。
また、特に映像分野では、SEに特化した専門職が存在。効果音や音楽を選び、映像につける「音響効果」や、映像に合わせて効果音をつくる専門職「フォーリー」(※ゲーム分野にも存在)という仕事などがあります。
こうした専門職があるのは、それだけ音が映像表現にとって重要な支えになっていることを裏付けている証といえるでしょう。
また、ゲーム分野でもSEが大きな鍵を握るものになっています。
「スーパーマリオ」シリーズのスーパーキノコを取ったときの音、「ドラゴンクエスト」シリーズのレベルアップした際の音……ゲームを実際にプレイしたことがなくとも、SEは知っているケースもあるでしょう。
もはやSEは、ゲームの代名詞のひとつとも言えるのではないでしょうか。
SEを探す/選ぶのにかかるコストは膨大
こうして、様々な分野で活用されているSEですが、実際にコンテンツ制作で使うとしたら、どのような工程を踏むことになるのでしょうか。
大昔は、SEやBGMは、ロイヤリティフリー(使用料無料)の音声素材を販売する専門の業者から高額のCDを通信販売で入手する必要がありました。
対して、現在ではインターネットが普及しクリエイターが増加した背景もあり、様々なSEを販売する素材サイトが存在しています。また、無料で効果音を提供するサイトも数多いです。
他方、こうして手軽にSEが手に入るようになったが故に、音声素材探し/選びは“情報の洪水状態”になっていると言えるでしょう。
SEを探す/選ぶには、大量に素材が販売/配布されているサイトやサービスの中から、ひとつひとつ実際に音を聴いて確認しなければなりません。
また、ライセンスも煩雑で、ロイヤリティフリーでも用途に禁止事項(特にゲーム分野やアダルト関連)が設けられていたり、クレジットが必須であったりと、取り扱いの確認に時間を要することがあります。
エンタメ/クリエイティブ業界で働くプロの場合、いわゆる「効果音ライブラリ」という、まさに効果音の図書館とも言える専用フォルダ/ストレージを用意し、手作業で途方もない時間をかけて、入手した音声素材を音のジャンルごとに分類して収納することもあります。そうした作業もかなり苦労しています。
筆者個人が所有する効果音ライブラリ。容量は276GB、所有音源数は5万越。こんなに音声素材があっても、探している音がないこともある。
現状、SEを探す/選ぶという工程は、なかなか一筋縄ではいかないものであるといえるでしょう。
専門知識や経験が必要なSEづくり
では、SEを一からつくるのはどうでしょうか。
筆者の経験上、「全然、素材サイトやサービスから使いたいSEが見つからない」「想定しているSEが特殊すぎて、素材サイトやサービスにあるわけがない」「ピッタリな素材は見つかったけど、金額が見合わない」といった場合、自らSEをつくらざるを得なくなります。
昨今、DTM(デスクトップ・ミュージック)の発展により、ソフトウェア・シンセサイザーを使って、SEを手軽につくれるようになりました。しかし、それができるのは、音づくりを極めたごく一部の有識者に限られるでしょう。
例えば、「ガラスが割れた音を加工したような音」をつくりたい場合。
家の中でガラスを実際に破壊するのは危険です。とはいえ、外で行おうとすると、風の音、鳥や虫の鳴き声、飛行機や自動車など、乗り物の音など様々な雑音が入りかねません。録音・加工をしてつくるSEは、未経験者や一般的な家庭環境では厳しいといえるでしょう。
カシオ計算機発! SEを生成するAIサービス「Waves Place」とは?
このようにSEは、数々の悩ましい課題を抱えています。今回発表された「Waves Place」は、その難しさをクリアしてくれるサービスといえるでしょう。
Waves Place
「Waves Place」の最も大きな特徴は、欲しいSEのイメージをプロンプト(命令文)として打ち込むことで、AIが短時間で生成してくれることにあります(一度に20個まで生成可)。
無料プランであれば、月20個まで生成したSEをダウンロード可能(無料版は商用不可)。生成した音声素材は、自分の作品に自由に利用できます。
商用利用向けには、月800個まで生成/ダウンロードできる月額980円(税込)の「Starterプラン」、月2,200個まで生成/ダウンロードできる月額2,480円(税込)の「Standardプラン」、月5,000個まで生成/ダウンロードできる月額4,980円(税込)の「Creatorプラン」の3つの有料プランが用意されています。
画像はカシオ計算機「Creator Economy」のスクリーンショット
「有料版であれば自由に商用利用できる」という明確な基準があるのは、ライセンス管理という事務作業のコスト軽減に繋がるかと思います。
また、生成AIに対して、「イメージしていたものを上手く出力してくれない」という印象を持っている人もいるかもしれません。しかし、この「Waves Place」では、一度生成した音の別のバリエーションを生成したり、他のユーザーが生成した似た音を検索してダウンロードしたりすることもできます。
バリエーションを増やしたり、似ている音を検索することも可能
さらに、生成した音源のお気に入りやラベリング、メモといった管理機能も充実。欲しいSEを大量の中から探すという手間がいらず、探す/選ぶのを諦めてつくらなくてもよし、ライセンスも煩雑ではないという三拍子が揃っているのです。
なお、「Waves Place」の学習元には原則、学習に対して許諾が得られている音源を使用。また、生成されたSEにはそれぞれ他の著作物と似ている場合に通報ができるフォームも用意されており、著作権侵害のリスクに対するケアもされています。

この記事どう思う?
関連リンク
0件のコメント