水瀬いのり「ようやく心地の良い場所に辿り着いた」 声優/アーティストの10年間を経て抱く欲望

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阿部裕華*インタビューライター
水瀬いのり「ようやく心地の良い場所に辿り着いた」 声優/アーティストの10年間を経て抱く欲望
水瀬いのり「ようやく心地の良い場所に辿り着いた」 声優/アーティストの10年間を経て抱く欲望

水瀬いのりさんインタビュー

ご注文はうさぎですか?』『心が叫びたがってるんだ。』『Re:ゼロから始める異世界生活』などのアニメで知られる声優・水瀬いのりさんは、アーティストとしても唯一無二の存在感でシーンをリードする一人だ。

そんな彼女が9月3日(水)、アーティストデビュー10周年を記念して、自身初となるベストアルバム『Travel Record』とセカンドハーフアルバム『Turquoise』を同時リリースする。

水瀬いのりさん

ベストアルバム『Travel Record』は、デビューシングルから最新シングルおよびアルバムに至るまで、これまでの全リード曲・タイトル曲を中心に厳選された23曲をリマスタリングして収録。

ハーフアルバム『Turquoise』は、水瀬いのりさんの音楽活動を長年支えてきたクリエイター7名による書き下ろし曲を収録するなど、どちらも10周年だからこそ実現した特別な作品だ。

まさに“旅”のようだった」──本人は、20歳での歌手デビューからこれまでの道のりをそう振り返る。インタビューではアルバム2作品に込めた思いに加え、ロケットスタートだったデビュー当初から一転、「今は自分のペースで活動できている」という声優/アーティストとしての10年間の変化を口にした。

記念すべき節目の年に、水瀬いのりさんが抱く新たな“欲望”に迫る。

取材・文:阿部裕華(コーク株式会社) 編集:恩田雄多 写真:寺内暁

歌が好き──声優/アーティスト水瀬いのりの原動力

──これまでのアーティスト活動を振り返って、一番の原動力は何だと思いますか?

水瀬 一番の原動力は、やっぱり「歌を歌うことが好き」という気持ちです。自ら望んで行うことって、自分自身があきらめない限りは続けていけるもの。反対に、誰かにやらされていることは、必ずどこかで限界を感じてしまうと思っています。

声優/アーティストとして活動していますが、歌が好きだからこそ“歌う仕事”をしている感覚はあまりないというか、自分が“歌手”であるということもあまり意識したことがないんです。ただ好きだから歌っているだけで、「仕事」とか「やらなきゃいけないこと」のような感覚がない。

歌は自分の人生を豊かにするために必要なものだと思いますし、アーティスト活動は自分が自分であるために欠かせないものだと思っています。歌を歌うたびに、自分が生きた証が毎秒記録されていくような感覚もあって、すごく楽しいんです。

水瀬 それは、お芝居にも通じる部分があります。普通に生活をしていたら、マイクの前でいきなり叫んだりとか、猫の鳴き声を出したりする経験ってなかなか無いじゃないですか(笑)。でもそれが、声優である私の仕事です。

演じるキャラクターに合わせて、めちゃくちゃ狭いストライクゾーンを狙う作業って、結局は自己満足の延長線上にあるのかもしれません。それでも自分がやりたかったリアルさが表現できた時にすごくやりがいを感じるんです。それは声優という職業や、声を使った表現でしか味わえない唯一無二の感情な気がしていて。しかも、その喜びが毎回同じではないところも、すごく楽しいなと思います。

──“毎回異なる=正解が同じではないからこその楽しさ”は、声優/アーティストとして活動する中で実感したのでしょうか?

水瀬 そうですね。常に動き続けないとダメなタイプで、同じことを繰り返すということが少し苦手なんです。お芝居では常に新しいことに挑戦したり、環境を変えたりして、日々活動をしています。歌に関してもそうで、ライブのセットリストも毎回新しい要素を入れられるようにしているんです。

ただ、休まずにずっと全力で走り続けたいかと言われればそうではなくて、頑張った分ご褒美も欲しいですし、しっかりと羽を伸ばす時間も欲しいなと思っています。

大きな仕事を終えたあとはディズニーランドへ行くことが多いのですが、とにかくキラキラしたもの、夢や希望のようなものを浴びて、表現することへの楽しさを実感するんです。そしてまたステージに立った時、今度は私がファンの皆さんに楽しい気持ちになってもらう。それを繰り返している感じがあります。

──ライブなどでも、ファンの方たちに「無理しないで」とよく伝えられていますが、ご自身もそう意識されているからでしょうか?

水瀬 言葉にするのはなかなか難しいのですが、たとえ私を応援してくれる方であっても、私のことをすべて肯定しなくても大丈夫だよ、と思うんです。「私自身はこう思うけど、別にみんなは違っていいからね」って。何もかも同意されるよりも、私の言葉に対して「そういう考えもあるんだ、面白いな」と思ってもらえたり、それが皆さんにとって新しい刺激を生み出せたりしたら、嬉しいです。

ライブに来てくれる方の中で、よく「学校の課題があるけど、無理して来ちゃいました」と言ってくれる方がいます。もちろん来てくれるのはすごくありがたいのですが、“来ない”という選択肢が悪だと思わないでほしいなとも思うんです。

今回来られなかったら、次回はその分たくさん楽しんでほしい。「(私のために)何かを犠牲にしたり無理したりしなくて大丈夫だよ」というのは、常に伝えていることですね。

「クビになっちゃうかも…」“完璧”を課したデビュー当初

──ファンの方たちとの向き合い方は、これまでの活動の中で変化したと感じますか?

水瀬 すごく変わったと思います。正直、最初の頃はファンの皆さんが私のどこを好きになってくれているのかがわからなかったですし、2017年にすごく大きな会場(※東京国際フォーラム ホールA)で1stライブをさせてもらったので、「絶対ここにいる全員が私を好きなわけがない! スパイが紛れているんじゃないか」とも思っていました(笑)。今はそんな考えは全然ないんですけど。

──デビューから数年は疑心暗鬼になることもあったんですね。

水瀬 もっと言うと、レコード会社の方からも試されていると思っていたので、1stライブ本番で歌詞を間違えてしまった時、心の中では「もしかしたらクビになっちゃうかも……」と震えていました(笑)。2018年にはじめてライブツアーをした時もそういう緊張感はあって、少しでも不調を見せてはいけないと思い込んで、常に全力を出そうとしていた時期でもありました。

──自分自身の価値を信じられない中で、完璧を求めようとしてしまったと?

水瀬 そうですね。2019年の「Catch the Rainbow!(Inori Minase LIVE TOUR 2019 Catch the Rainbow!)」も、すごく忙しい時期のライブツアーで、加えてはじめての2DAYS開催の洗礼を受けたツアーでした。思うように声が出せないところもあって、たくさんの方がこのライブのために準備してくれたのに、完璧な状態で成し遂げられない自分に絶望しました。

そのあとも、コロナ禍に行った無観客ライブでは、お客さんが誰もいないからこそ、自分自身の実力が巨大な鏡に映し出されてるような感覚になって。観客がいてもいなくても、思うように歌えない状況に打ちのめされました。

でも、だんだん声出しが解禁され、ライブを重ねるごとに「やっぱり歌うことが好きだな」と実感できたんです。すると「もっともっと自分に正直になって、好きなように歌いたい」という気持ちの方が、不安よりも勝ってきて。声優/アーティストだからというより、“水瀬いのりが歌うことに意味がある”という意識を持てるようになった感覚があります。

──ライブ以外にも、コロナ禍は“表現の場”において大きな影響を与えましたね。

水瀬 アフレコ現場でも、個別収録が増えたことで掛け合いがほとんどなくなったので、私の場合はどうしても閉鎖的なお芝居になってしまいました。(飛沫対策の)パーティションによって跳ね返ってくる音にも敏感になり、声の強弱をつける感覚も少しおかしくなってしまったんです。

それ以前にも、病気ではないのですが筋肉の緊張によって声がうまく出せないこともあったので、当時はボイストレーナーの方にお願いをして、舌の筋肉の使い方から発声までを矯正してもらっていました。「glow(Inori Minase LIVE TOUR 2022 glow)」のツアー中は、そういったメンテナンスをしながらライブに挑んでいました。

……と振り返ると大変なことばかりというか、特にコロナ禍は実際大変なことも多かったのですが、そこで一度立ち止まって自分と向き合ったからこそ、良い状態で10周年を迎えられていると思います。その期間を乗り越えたことは、私の中で大きな意味があったと感じています。

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水瀬いのり

声優/アーティスト

1995年12月2日生まれ、東京都出身。中学生の時、オーディション「アニストテレス」に参加し、第1回目のグランプリを受賞。その後2010年TVアニメ「世紀末オカルト学院」にて声優デビューを果たす。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」に登場するアイドルグループ「アメ横女学園芸能コース」の成田りな役で女優に挑戦するなど、マルチに活躍の場を広げる中、2013年に出演したTVアニメ「恋愛ラボ」をきっかけに演技力の高さや役幅の広さが高く評価されるようになり、声優として加速的な成長を遂げ、10代にして話題作のメインヒロイン役に次々と抜擢されるようになる。2015年9月には、話題の劇場アニメ「心が叫びたがってるんだ。」の主人公・ 成瀬順役の声優を務め、TVや雑誌など多くのメディアで注目を集めた。そして2016年には声優アワード・主演女優賞、第25回日本映画批評家大賞アニメ部門新人声優賞を受賞。これまで歌ってきたキャラクターソングやアニメ・ゲームイベントでのパフォーマンスで、ジャンルを選ばずあらゆる楽曲を歌いこなす歌唱力が多くのアニメ・声優ファンを魅了し、歌手としての活動にも大きな期待が寄せられていた中、2015年12月2日、二十歳の誕生日迎えた記念すべき日に、待望の歌手デビューを果たした。これまで12枚のシングルと5枚のアルバム、Blu-ray10枚をリリースし、いずれも好チャート記録している。

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