それはシリーズが積み重ねてきた「巨大な存在が、街で闘う」というイメージを変えてしまう大胆なアプローチ。3DCGアニメーションで制作された『ULTRAMAN』とは、果たしてどんな作品なのでしょうか?
CG表現の効果とそれゆえの奇妙さ、そして特撮とユースカルチャーという視点から、世界に向けて発信された新作を分析していきます。
文:葛西 祝
荒牧伸志と神山健治がアニメ化するNetflix『ULTRAMAN』
『ULTRAMAN』の原作は清水栄一さんと下口智裕さんが執筆している『月刊ヒーローズ』で連載中の漫画です。昭和ウルトラマンと地続きのストーリーで、等身大のウルトラマンを描いているのが特徴です。アニメ化にあたっては、Production I.GとSOLA DIGITAL ARTSの共同制作となり、『APPLESEED』の荒牧伸志さんと、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の神山健治さんのふたりが監督をつとめています。
かつて異星人のウルトラマンと同化し、怪獣と闘ってきた科学特捜隊の早田進。しかしウルトラマンと分離したあとでも、人間を超えた力は残っていました。それは彼の息子・早田進次郎にも引き継がれます。
『ULTRAMAN』では進次郎が主人公となり、ウルトラマンの力(血)として引き継いだ身体能力を駆使しながら、異星人たちと闘うストーリーです。
モーションキャプチャーを活用したスピーディーなバトル
モーションキャプチャーを利用したハードなアクションは、一般人と同じ体格ならではのスピーディーなバトルを表現しています。これは複数のウルトラマンたちが共に異星人たちと闘うシーンにも活かされていると言えるでしょう。初代ウルトラマンは、どこかプロレスを感じさせる空手チョップや投げのような、巨大さを活かすアクションを見せました(今回の『ULTRAMAN』でも、主人公の父親である早田進が同様の戦い方を見せるシーンがあります)。
しかし、どこか既視感をぬぐえないことも事実。「これは……『アイアンマン』なのではないか?」と。
円谷特撮よりもマーベルやアメコミを想起させる
原作漫画において、ウルトラマンをパワードスーツを着込んだ設定に切り替えたことは、アレンジのひとつとして受け取れたのですが、アニメ版の本作は、3Ⅾでつくられていることもあいまって、より「アイアンマンの日本製」のような印象を受けます。実際『アイアンマン』でスーツ内の表情を見せる手法が『ULTRAMAN』でもおこなわれており、既視感を強めています。
巨大化しない、「等身大のウルトラマン」というシリーズの約束事を破るアプローチの中で、マーベル映画などにヒントを求めること自体はよいと思います。しかし「ウルトラマン」シリーズを再解釈できているかというと疑問が残るのです。 パワードスーツという設定も、「人間がウルトラマンの着ぐるみで闘う」という、特撮のつくり方を別の形で見せていると言えるかもしれません。しかし特別、原点の『ウルトラマン』に対して新しい視点をつくれているわけでもありません。
同じく特撮をアニメ化した『SSSS.GRIDMAN』において、「実は街や怪獣がヒロインのつくり物だった」というシナリオが特撮のスタジオ撮影を別の形で見せたような、批評的なアプローチが欠けています。
3Dキャラクターの日常芝居には違和感も
また『ULTRAMAN』は奇妙なアニメです。かつて昭和の『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』では、怪獣との闘いだけではなく、異星人が日常を侵食してゆく違和感を描いていた点も印象深いのではないでしょうか。しかし『ULTRAMAN』では当の日常描写がすでにおかしいのです。アクションシーンの精微さに比べて、日常シーンにおけるCGはとても固く、不自然に見えます。 場合によっては3DCG特有の固さを笑いにしたアニメ『Peeping Life』(ピーピング・ライフ)のようにすら見えるのですが、これはあくまでもシリアスなアニメだと思います。
モブキャラクターたちが同じ表情のまま歓声や悲鳴を上げるシーンに、何者かに侵食された日常を感じなくもないのですが、もちろん演出ではなく天然です。むしろ異星人の3Dモデルのほうが自然に見えるくらいです。
特撮とユースカルチャー
もうひとつ『ULTRAMAN』を観ていて気になるのが、特撮というジャンルのユースカルチャー化についてです。等身大のウルトラマンが、実際の大きさということだけじゃなく、「現実の存在として、いろいろな意味でどれだけ描けているか?」ということです。現在、日本のアニメやマーベルコミックなどのスーパーヒーロー映画は、もう子供や若者など、特定の年代のみを狙ってつくられているとは言えません。
専門誌だけではなく一般誌も取り上げているように、ユースカルチャーのひとつとして受け入れられています。3月に公開された『スパイダーマン:スパイダーバース』は最高の成功例と言っていいのではないでしょうか。 一方で、特撮には大人のファンもたくさんいますが、基本的には子供に向けてアプローチしています。
以前『SSSS.GRIDMAN』のレビュー(関連記事)を書いたときにも思ったのですが、特撮が現代的なユースカルチャーとして受け入れられる場合には、野心的なアニメ監督など別のジャンルから来た人間がつくることが多いように思います。その意味で『シン・ゴジラ』はもっとも成功した映画でしょうが、後に続いていません。
日本を代表するユースカルチャーであるアイドルとの絡み
日本のユースカルチャーにおける一大ジャンルといえばアイドルですよね。現実でもアニメでもゲームでも、さまざまなエンタメにアイドルが関わっています。『ULTRAMAN』にもアイドルが関わるエピソードが登場します。ヒロインでアイドルの佐山レナが関わるエピソードの完成度は高く、アイドルに対してSNSで悪質な発言をするファンが次々と死亡する影に異星人が関わっているというシナリオは、昭和ウルトラマンの非日常性と本作の方向性が合致したといえるでしょう。 一方で、アイドルが題材として関わらないと、異星人に侵食された日常があまり描かれないことも気にかかります。等身大のウルトラマンを描く名目ながら、等身大の日常から遠ざかった印象があります。
早田進次郎の生活感も、先述した3Dモデルの日常描写が良くないのもあいまって感じづらい、というのが正直なところです。
ユースカルチャーになろうとするウルトラマン
原作の漫画版はひとつの解釈として受け止められた『ULTRAMAN』。しかしアニメはNetflixによる全世界配信で宣伝の規模も大きく、スピンオフではなく「ウルトラマン」シリーズのユースカルチャー化を本気で目指していると感じます。すでにユースカルチャーとして成立しているアニメ、マーベル映画、さらに言えばNetflixに近づくことで、自らもそうなろうと、もがいているようにも見えます。
しかし、肝心の「ウルトラマン」シリーズならではのオリジナリティを欠いたままであり、どこか上滑りしているのです。まだ正式発表されていませんが、もしシーズン2があるならば、ユースカルチャーとしてどのように着地点を見つけ出すのか注目したいところです。
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葛西
ライター
ジャンル複合ライティング業者。ビデオゲームや格闘技、アニメーションや映画、アートが他のジャンルと絡むときに生まれる価値についてを主に書いています。
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クールごとに数多くの作品が放送・配信されるTVアニメや近年本数を増しつつある劇場版アニメ。 すべては見られないけれど、何を見ようか迷っている人の指針になるよう、編集部が期待を込めて注目作を紹介するコーナーが「KAI-YOU ANIME REVIEW」です。 監督や脚本家らクリエイターが込めた意図やメッセージの考察、声優の演技論、作品を取り巻く環境・背景など、様々な切り口からレビューを公開しています。
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