連載 | #7 漫画百景 いま読むべき漫画たち

ロスジェネ中年の諦観が刺さる漫画『VRおじさんの初恋』レビュー

ロスジェネ中年の諦観が刺さる漫画『VRおじさんの初恋』レビュー
ロスジェネ中年の諦観が刺さる漫画『VRおじさんの初恋』レビュー

『VRおじさんの初恋』書影/画像はすべてAmazonから

時事とリンクするタイトルを新作・旧作問わず取り上げて、“今読むべき漫画”や“今改めて読むと面白い漫画”を紹介していく本連載「漫画百景」。

七景目は、『VRおじさんの初恋』です。

本日2月2日は2019年に制定されたVRの日。毎年VRに関連する何かしらの企画やキャンペーンが行われている日に取り上げるなら本作でしょう。

1月10日にはNHKによるドラマの制作も発表された名作を、今読むべき漫画として紹介します。

暴力とも子による漫画『VRおじさんの初恋』

『VRおじさんの初恋』は、作者・暴力とも子さんが2018年~2019年にかけて漫画アプリ・マンガコネクトで連載していた作品がもとになっています。

マンガコネクトでの連載の後、2019年12月に作品の権利を手元に戻した暴力とも子さんが、自身のXやnoteで作品(第1部・全6話)を公開。

その結果、話題の一作として広く知られるようになり、2020年8月には一迅社のWeb漫画サイト・ゼロサムオンラインに加筆修正版の掲載がスタート。続編(第2部)も連載されました。 本稿で扱うのは、ゼロサムオンラインに掲載された加筆修正版の第1部と続編の2部をまとめた単行本となります(2023年3月には短編『VRおじさんの初恋 ―白色矮星―』も刊行されています)。

なお、ゼロサムオンラインでの連載を経た今も、暴力とも子さんのnoteでは加筆修正される以前の第1部・全6話を読むことができます。

※以下から内容についてのネタバレが含まれます。

おじさんが少女の姿で恋をする物語『VRおじさんの初恋』

本作の主人公・ナオキ直樹)は、ロストジェネレーション(ロスジェネ)世代の40歳。独身の男性です。

ある企業の派遣社員として働いているのですが遅刻癖があり、就労意欲に欠けている。同僚に話しかけられても、聞いているようで聞いていない。人と接するのが苦手で奥手。居場所もなく……いろんな物事を諦めているキャラクターです。

そして誰かに恋をしたこともなかった。

この現実から逃げ出すようにナオキが入り浸っているのがVRの世界です。冴えないおじさんではなく女学生の姿で、ここでも1人で過ごしています。

そんなナオキが第1話の冒頭、散歩をするしかやることがない過疎化したワールドを訪れます。このワールドは残り半年でサービスが終了する、侘しい気配が漂う町。その終わりを静かに見届けようと黄昏れていたところに、不意に現れたのがホナミでした。

露出が激しい女性アバターのホナミをひと目見て、なんかヤバいやつと直感するナオキですが、その人間性を知っていくことで少しずつ惹かれていきます。少女の姿で、誰ともしれない女性アバターに恋をする。『VRおじさんの初恋』がはじまり、ナオキの中で何かが動き出します。

本編の完結後を描いた短編『VRおじさんの初恋 ―白色矮星―』。左からナオキ、ホナミ。

というあらすじの本作ですが、肝心なのが、ナオキとホナミがお互いにアバターの中にいる人が誰なのか分かっていない点です。性別も年齢も社会的立場も不明。あくまでVR上の関係性で終始しています。

ナオキの視点で物語を見ていく読者にもホナミの中身は上手く隠されるのですが、逆にちらほらとした描写で示唆されるのが、どうやらホナミの中の人は良くない状態にあるのでは? という一抹の不安です。

ナオキと出会った夕暮れ時に口にした、「誰かと二人で日暮れを見届けるなんて私の現実ではもうないことですから」という台詞は印象的。これは作品全体を貫く、柔らかな諦観を表した台詞でもあります。

ホナミがどんな人物であるかは正体が明かされるまで読者の想像に任されるため、あれこれ思いを巡らせつつ読んでみて下さい。

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漫画百景 いま読むべき漫画たち

テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。

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