連載 | #53 漫画百景 いま読むべき漫画たち

山田尚子『きみの色』漫画版は雄弁に物語る──補完で終わらない、もう一つの物語

山田尚子『きみの色』漫画版は雄弁に物語る──補完で終わらない、もう一つの物語
山田尚子『きみの色』漫画版は雄弁に物語る──補完で終わらない、もう一つの物語

漫画『きみの色』1巻の書影はAmazonから

山田尚子監督の劇場アニメーション最新作『きみの色』を補完するだけでなく、もう一つの物語を紡ぐコミカライズ作品を今回は紹介。

というわけで、年数百の漫画作品を読む筆者が、時事に沿った漫画を新作・旧作問わず取り上げる本連載「漫画百景」。第五十三景目は、鈴木小波さんによる『きみの色』です。

この漫画には映画にはない描写が多々あり、登場人物の語られなかった背景にも踏み込んでいます。そのためすでに映画を観た方は一種の答え合わせができますし、これから観に行く方には予習として最適です。

なんだったら、映画を観に行く予定のない方にも全力でオススメしたい本作。今回はその魅力を解説していきます。

山田尚子監督の最新作 悩める高校生3人の想いを描く『きみの色』

『きみの色』は、8月30日から劇場公開されている長編アニメーションです。

幼少期から人が色で見えるけれど、自分の色だけは見えない日暮(ひぐらし)トツ子

通っていた学校を突如中退し、それを同居する祖母に伝えられずにいる作永(さくなが)きみ

離島で唯一の医者の家に生まれ、将来は家業を継ぐことを期待されながら、音楽への好奇心が抑えられない影平(かげひら)ルイ

3人の悩める高校生が周囲に隠れてバンドを結成し、心を通わせていく日々が描かれています。

『きみの色』キービジュアル。左上から時計回りにルイ、トツ子、きみ

監督をつとめたのは、『けいおん!』『映画 聲の形』『リズと青い鳥』『平家物語』などを手がけてきた山田尚子監督。「たまこマーケット」シリーズ以来のオリジナル作品です。

本作は映画公開前の7月12日に、佐野晶さんによる小説版が刊行。

7月16日には、Web漫画サイト・コミックNewtypeで鈴木小波さんによる漫画版の連載が開始されました。今回紹介するのは、現在も連載中の漫画版です。

『きみの色』1巻の書影。映画のキービジュアルと同じ構図だが、トツ子ときみの位置関係が変更されている/画像はAmazonから

先にも書いたように、漫画版には、映画にはない描写が多いです(ちなみに小説にも多い)。例えば、きみの祖母ときみが中退した高校の校長が、学生時代の同級生であることが漫画版では明示されます。

これは映画でほぼ絡んでいなかった2人が、なぜか“あのシーン”で仲良く踊り、息の合ったステップを踏んでいたことへの間接的なアンサーになっています。

では、次項からより詳しく漫画版の魅力を紐解いていきます。なお、映画および漫画版のネタバレを含むため、未鑑賞/未読の方はご留意ください。

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