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連載 | #12 アニメーションズ・ブリッジ

映画『雨を告げる漂流団地』石田監督インタビュー 少年少女に託した葬送と執念

映画『雨を告げる漂流団地』石田監督インタビュー 少年少女に託した葬送と執念

映画『雨を告げる漂流団地』石田祐康監督インタビュー

フミコの告白』という作品を観たことがあるだろうか。告白して玉砕した少女が、疾走感のある描写でとにかく走りまくる約2分のアニメである。思わず目を奪われるその映像は、京都精華大学の学生による自主制作作品だった。発表されるや否や、様々なメディアが注目。監督の石田祐康さんは、瞬く間に時の人となる。

石田監督はその後、アニメ業界入りを果たして2013年に『陽なたのアオシグレ』で商業監督デビュー。スタジオコロリドに所属し、様々な監督作品を世に生み出していった。

2014年にフジテレビ・ノイタミナの10周年を祝して制作された『ポレットのイス』や、2018年公開の森見登美彦さん原作による初の長編監督作品『ペンギン・ハイウェイ』。そして、2022年9月16日。待望の最新作『雨を告げる漂流団地』が公開およびNetflixで配信された。
映画『雨を告げる漂流団地』予告
夏休みのある日、小学6年生の熊谷航祐(こうすけ)は、クラスメートとともに取り壊しが決まった団地に忍び込む。その団地はかつて航祐と幼なじみの兎内夏芽(なつめ)が住んでいた大切な場所。航祐はそこで思いがけず夏芽と遭遇し、謎の少年・のっぽの存在を知らされる。すると突然、彼らに不思議な現象が襲い掛かった。なんと、団地が大海原を漂流していたのである……。

石田監督作品の魅力のひとつに、空想の世界と現実世界を交えつつ、少年少女の機敏な感情を疾走感とともに描くことが挙げられる。振り返ってみると、『フミコ』『アオシグレ』『ペンギン』ではそのような描写が見受けられた。

『雨を告げる漂流団地』でもその点は健在。大海原を漂流する団地という空想の世界に、少年少女たちの機敏な感情がクロスしていく。しかし、本作の特徴はそれだけに留まらない。これまでの作品とはまた別の新たなフィールドに石田監督が挑戦しており、どこかビターな“葬送の物語”に仕上がっている(詳細は本編で確認してほしい)。

今回は『雨を告げる漂流団地』の制作が終わった直後の石田祐康監督にインタビュー。団地を舞台にした理由や、本作ならではの変化について話を聞いた。

取材・執筆:太田祥暉(TARKUS) 編集:恩田雄多

目次

『漂流団地』は団地が舞台のトリッキーな物語

『雨を告げる漂流団地』

──まずは『雨を告げる漂流団地』の制作、おつかれさまでした。

石田祐康 ありがとうございます。ほとんど休みなしで制作していたので、まだ冷静にはなれていないんですけど(苦笑)。前作『ペンギン・ハイウェイ』から約4年が経ちましたが、自分自身の技術が向上したり、前作までと共通のスタッフや新しく入られた方々の体制もしっかり構築できたりしたので、作品としての手応えはあります

──そもそも『雨を告げる漂流団地』の企画はいつ頃から始まったのでしょうか?

石田祐康 『ペンギン・ハイウェイ』が終わって少し休んだ後なので、2019年の初頭ですね。そもそも、『ペンギン』をやる前から、ツインエンジンの山本幸治プロデューサーから「オリジナルをやってほしい」と言われていたんです。でも『ペンギン』と出会い、それをつくりたいとなりまして。

今回も、最初はいろいろな方々から送られてきた企画で想定していたんですが、その過程で自分の方から「海の上を行く団地」という構図がふと思い浮かんだんですね。

描いてみたらそれなりに気に入ったので、山本さんにもこれで考えてみたらいいのではと勧められまして……映画としての企画の方向性はそこでまず決まりました。

石田祐康監督

──団地に焦点を当てたのは、どういった思いからだったのでしょうか? 石田監督は制作中に神代団地に引っ越されていますよね。

石田祐康 子どもの頃に住んでいた平屋の日本家屋とは違って、集合住宅の多くの人が住んでいる様子に憧れを抱いていました。ただ、いろいろある集合住宅の中でなぜ団地だったのかといえば、その独特のたたずまいと集合住宅としての歴史的な意義が何よりあったからだと思います。

70~80年代には同じ建物が並ぶ様子が画一的だなど、ネガティブな受け止めら方もありましたが、現代だとむしろ敷地にゆとりや緑があったり、リノベーションもされて経済的にも優しかったりで、好印象を抱く世代も増えてきてますよね。

──確かに最近ではリノベーションした団地に関するニュースもよく目にします。 石田祐康 『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)ではニュータウンが批判されていましたけど、もう僕らの世代にとっては団地のある風景が当たり前だったので、故郷になってしまっているんでしょうね。

例え自分が住んでいなくとも、原風景の一部としてあると。そんなことをぼんやりと考えていたから、先ほどお話した海の上の団地の絵が自然と出てきたのかもしれません。

団地の形はシンプルだからこそ、屋上が空母の甲板みたいにも見えるじゃないですか。そんな妄想をしながら、制作を進めていきました。僕はそういう流れで、団地に住むことにしたんです(笑)。

──団地を舞台にした物語が、現在の方向性になった理由はなんだったのでしょうか?

石田祐康 誰にでも、なかなか忘れられない思い出が詰まった場所ってあると思うんです。それに対する気持ちの折り合いがつかないことも、往々にしてあると思います。例えば、久しぶりに故郷へ戻ったら、お別れの合図も何もなくその場所やある建物がなくなっていたとか……。そんなことを考えながら、「もし団地側が、住んでくれていた少年少女から離れたくないと言ったらどうなるのだろう」と考えたんです。

学校でも東京タワーでもなく「団地を漂流させたい」

──企画の初期には、団地ではなく学校にするという案もあったそうですね。

石田祐康 学校以外にも東京タワーだとか、いろいろアイデアは出ました。確かにシンボリックなものの方が面白くなるという意見はわかるんです。団地に住んだことがない人の方が多いですしね。

でも、団地というのはまず企画として珍しく、団地が浮いている絵面自体がヘンテコで面白いじゃないですか。学校が漂流するという画は、『学校の怪談』や『漂流教室』、最近だと『Sonny Boy』などでも描かれていて、どれも面白かったです。

そういうものとは違う、誰しもが見たことのある東京タワーや、誰しもが通ったことのある学校ではない画に挑戦してみたいと。もちろん意見を出してくださっている方々も、作品をよくしようとしてくれています。いろいろな話をしながら1つひとつを決めていきました。

──確かに団地が漂流すると聞いたとき、先行作品のように学校ではなく団地なのは何故? と引っ掛かりました。

石田祐康 結局は、この団地に惹かれた想いが根底にある企画でしたから、そこに封をして作品をつくることができなかったんですよね。その気持ちに正直に作品をつくりたくて、団地と少年少女の映画になりました。

とはいえ、団地オンリーと間口を狭めたくもなかったので、観る方によって団地に別の場所を代入して観てもらえるように、とは考えていました。

──小学生が主人公という点は、これまでの石田監督作品と共通する要素です。

主人公の1人・兎内夏芽(なつめ)。かつて住んでいた団地が取り壊されることを受け入れられないでいる。

もう1人の主人公・熊谷航祐(こうすけ)。夏芽とは幼馴染みだが、祖父の死をきっかけにギクシャクした関係になってしまう。

石田祐康 主人公が小学生ということは、団地が舞台となる以前から決まっていました。小学生である航祐と夏芽も同様に、団地に対しては忘れがたい気持ちがあるんだけど、どうにか折り合いを付けられないかと。そこを突き詰めて考えた結果、こういった物語になりました。

──今回の映画は、熊谷航祐と兎内夏芽の2人が中心に物語が進んでいきます。特に夏芽の想いが、団地を漂流させたトリガーの1つになっていきます。

石田祐康 夏芽の団地に対する想いについては、どれくらいのさじ加減にするか、いろいろな可能性がありました。夏芽の性格がもっとキツく強めで、航祐とぶつかっていたパターンもありました。

でも、自分がつくる意味とか、自分ならこうとしか思えないとか、単純に親しみを覚えられるかという点でも、結局突き詰めて絞り出したところで勝負するしかなく、そういった部分を反映して今のキャラクターになりました

中央にいるのが、解体が進む団地に現れた不思議な少年・のっぽ。

──ある種、石田監督の想いが2人に託されている。

石田祐康 もし、自分にもっと世の名監督のような手練手管があれば、主観的な想いや好みばかりでなく、客観的に組み立てたキャラクターたちだけでも、計画的に俯瞰してエンタメを成立させられたのかもしれません。

もっとも『ペンギン』のアオヤマくんは、かなり理解できる部分はありますが、それでも客観的に見ればファンタジーのようなキャラクターでした。でも、彼は森見登美彦さんの作家性や体感によって成り立つ世界観のもと、お姉さんへの感情を知る物語として必要とされている人物でした。なので俯瞰できたところはあります。
映画『ペンギン・ハイウェイ』
『雨を告げる漂流団地』はつくりながら、もがきながらの作業だったので、そういった構造的なことを考える余裕もほとんどなく、ただただ人同士が繋がってほしい、という願いだけで、ある意味感情的に描いていました。とにかくそこでは嘘をつかず、2人を正面から見つめたかった。

ただ、突き詰めすぎると人には理解できないものになるかもしれません。なので、いろいろな人の意見の中から、どこまでを引き受ければ伝わりやすくなって、逆にどこまで意見を受け流せば監督作品として一貫性を貫くことができるのかが、監督の大きな仕事ではありましたね。
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アニメーションズ・ブリッジ

毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。

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