「個人の想いを強く反映しないと成立しない」
──『雨を告げる漂流団地』はこれまでの石田監督作品とはかなり毛色が異なるように感じました。「空想の世界と現実世界を交えつつ、少年少女の機敏な感情を疾走感とともに描く」点はそのままなのですが、子どもたちの明るいひと夏の冒険というよりも、団地との関係性を巡るビターな物語となっています。石田祐康 最初の絵(海に浮かぶ団地)を描いたときから、設定的にビターになるとは思っていました。というより、企画当初のストーリーはもっと暗かったんですよ。
航祐は子どもっぽい気持ちで、団地から引っ越してきた今の家に反抗心を持っている。夏芽は団地に住んでいたとき、一緒に住んでいたお父さんとのかけがえのない記憶があるんです。
そして2人は団地に乗り込んでいく。団地も2人に執着があって離したくないと、2人に団地での大事な記憶を見せて囲い込もうとする……もうその時点で暗いじゃないですか(苦笑)。
──かなり暗めのトーンの作品になりそうですね。でも、完成したフィルムでは、航祐たちのアクションシーンやコメディタッチのシーンもあり、単純に暗いとは言えないものでした。
石田祐康 その辺のバランスにはとても悩みました。もっとアクションが少ない方向性もあったんですが、周囲の意見も聞きながら加えていったところもあります。
そもそも、もともと僕が好きなアニメ映画ってアクションへの気配りがちゃんとしている作品なんです。まだ甘くはあるものの『フミコの告白』もそれだけでやろうとしている。若気の至りがすごい内容ですが(笑)。
ただ、それが一時期やらない方向に偏り過ぎていたんですね。なので、自分でも意識して、最低限だけでもアクションシーンをつくりました。
──今のお話を聞いていると、『雨を告げる漂流団地』はかなり石田監督の心情に寄り添った物語になっていると言いますか。
石田祐康 むしろ、その逆のパターンってどうなんでしょうね……。例えば、つくり手の感情を排して統計や計算による人物描写や、そもそも人物の感情は優先せずに、状況をテンポよく繋いでいくことで惹き込まれる作品をつくることはできるのか、とか。
可能かどうかで言えばできるとは思うんですが、僕はとにかく作品にありったけの熱量を注げるだけ注ごうとして、自然と作品とゼロ距離になって、熱っぽくなってしまいがちなのかもしれません。
それをあえて冷静に見つめると、持続性のないやり方だなと思いますし、プロではないのかも……とさえ感じてしまう瞬間はあります。でも、自分自身が(自分の観客から)求められていて、なおかつ自分もつくりたいと思っているタイプの作品というのは、個人の想いを強く反映したものであって、そうしたものでないといろいろな意味でこの仕事が成り立っていかない……とも想像しています。
石田監督が想いを託した2人のキャラクター
──その上で、航祐や夏芽のような想いを背負ってくれるキャラクターがいる。石田祐康 そうですね。それが『ペンギン』のときはアオヤマくんで、『アオシグレ』ならヒナタ、『フミコ』ではあの女子高生だったわけです。自分がどれだけの熱量を注げるか、その代弁者としての行動の発露が、単純な好きという気持ちを伝えるために走ることや、ペンギンパレードの末に未知の世界に飛び込んででも真理を得ようとする探究心であったり、そういう姿だったんです。
でも、先ほども言ったように、今回はそれが難しい題材でした。航祐と夏芽の2人を主役に描くこと自体は最初から決まっていても、どういった種類の気持ち・出来事で2人を描けばいいのか。彼らを通して自分が伝えたい熱量とはどういったものなのか、それがオリジナルの長編故に難しく、なかなか見えない部分でした。
──なるほど。
石田祐康 例えば、店頭で吟味して何か買い物をするときって、そこでどういう人に出会うかで、体験としての質って変わるじゃないですか。例えば親切に相談に乗ってくれる人から買えたなら、その商品も記憶としても価値のあるものになる。けれど、たらい回しにされた上でなんとなく買ったものだったならば、そうはならないですよね。
アニメもそれと同じで、信頼できる案内人──それも機械的な対応でなく個人としての感情を持った店員さん──にあたる特定のキャラがいてくれないと、なんだか味気ないものになると思うんですよ。もっと言えば、そのキャラを通して、監督や原作者の人となりが見えてくると、さらに親近感が湧いてきますね。
キャラクターに生きた人格が宿っていて、とにかくこれに付いていけばいいんだなと思えるような。
『雨を告げる漂流団地』でそれを描かなくてはいけない人物は、航祐や夏芽だったんです。それが本当に描けたかどうかは別として。個人的には、その気持ちの代弁者がいない作品は、往々にしてうまくいかないのではないかと感じています。 ──だからこそ、今回の作品では航祐と夏芽を通して、場所に対する想いを描いていったんですね。
石田祐康 はい。とはいえ、作品を通して「自分もこうなんです」と出しゃばるつもりもなく、全投入でつくるということの結果で勝手に漏れてくるのが作品というもの、という風にも思っています。
多くの観客には、普通に物語とキャラクターに親しんでもらいたいですし、それがどのように受け止められるのか。公開された後の皆さんの反応が楽しみです。
石田祐康(いしだ・ひろやす)
1988年生まれ、愛知県出身。スタジオコロリド所属。京都精華大学在学中に発表した自主制作作品『フミコの告白』で第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞をはじめとした数々の賞を受賞。大学卒業後に杉井ギサブロー監督作品『グスコーブドリの伝記』に参加し、アニメ業界入りを果たす。2013年には商業初作品となる『陽なたのアオシグレ』を発表。2018年には初の長編監督作品である『ペンギン・ハイウェイ』を公開した。
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※種類は選べません。
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作品情報
長編アニメーション映画『雨を告げる漂流団地』
- 公開
- 9.16(金) Netflix全世界独占配信&日本全国ロードショー
- 出演
- 田村睦心 瀬戸麻沙美
- 村瀬歩 山下大輝 小林由美子 水瀬いのり 花澤香菜 島田敏 水樹奈々
- 監督
- 石田祐康
- 脚本
- 森ハヤシ/石田祐康
- 音楽
- 阿部海太郎
- 主題歌・挿入歌
- ずっと真夜中でいいのに。
- 企画
- ツインエンジン
- 制作
- スタジオコロリド
- 配給
- ツインエンジン/ギグリーボックス
- 製作
- コロリド・ツインエンジンパートナーズ
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連載
毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。
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