そんな言葉を受け、直木賞作家・辻村深月さんがアニメ業界を舞台に著したお仕事小説『ハケンアニメ!』がこの春、待望の実写映画化。メインキャストに吉岡里帆さん、中村倫也さんらを迎えた同作は、5月20日(金)から公開される。
新人アニメ監督・斎藤瞳は老舗スタジオ・トウケイ動画で『サウンドバック 奏の石』を制作中。しかし裏番組として天才監督にして瞳が憧れる王子千晴の最新作『運命戦線リデルライト』が立ちはだかる。果たして、2人の監督作の行方と、それに携わるスタッフたちの努力の結果は──。
足掛け7年かかったという映画『ハケンアニメ!』だが、公開に至るまでには、制作が止まりかけたり、現実での言葉の意味が変化したりと、必ずしもスムーズだったわけではない。しかし、辻村深月さんの話を聞いていると、それらすべてが今このタイミングでの公開を実現するために、必要な要素だったように思えてくる。
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取材・執筆:太田祥暉(TARKUS) 編集:恩田雄多
目次
作品単位の出会いと別れ『ハケンアニメ!』が描くもの
──そもそものお話からうかがいますが、『ハケンアニメ!』という小説を辻村さんが書かれたきっかけを教えてください。辻村深月 雑誌『anan』から小説の連載を、と話をいただいたのが始まりです。『anan』は雑誌としてのカラーがとてもはっきりしていますから、その読者に合ったものをと考えたときに「お仕事」と「恋愛」のどちらかだろうとまずは思いました。
そのとき、まだ本格的なお仕事小説を書いたことがなかったので、せっかくやるなら取材が楽しいものをと考え、自分自身大好きなアニメ業界に着目した作品にしようという流れで『ハケンアニメ!』が生まれました。
──アニメ業界ものとなると、当初からどの視点から描くのか決めていたんですか? 原作小説では新人監督の斎藤瞳をはじめ、アニメーター、アニメーションプロデューサーと様々な目線からアニメ業界が描かれていました。
辻村深月 いえ、まったく決めていなかったです。そもそも、監督と声優以外にどんなお仕事があるのか、そこを知るところからのスタートでした。担当編集者が昔仕事でちょっと関わったことのあるというプロデューサーの方に取材に行って、その方に「プロデューサーって何をするんですか?」というお話からうかがいました。
そのとき、プロデューサーにも制作進行の担当者もいれば、映像メーカー、宣伝担当、映像メーカーや放送局側のプロデューサーもいて、いろいろな役割があることを知り、その方から次の取材対象を紹介してもらって……という形でわらしべ長者のように取材をしていったんです。
その中で取材をしたのがProduction I.Gの松下(慶子)さんで、今回の映画でも劇中アニメの『運命戦線リデルライト』を手掛けていただいています。小説の取材で心細い思いで訪ねていったスタジオに、今は、一緒に映画をつくる仲間として行くことができるなんて、大きな幸せを感じます。 ──数珠繋ぎのように取材をされて、アニメ制作の現場を目の当たりにしたわけですが、そこからどのように物語にしようと思われました?
辻村深月 アニメっていろいろな人たちでつくるものですから、チームでお仕事をするということを中心に書いてみたいなと。それこそ取材を始める前は、監督さんが王様みたいな存在で、その指示を受けて各々が動く姿を漠然と想像していたんですよ。でも、実際取材をしてみると、必ずしもそんなことはなかった。
複数の監督さんを取材して、みなさんがおっしゃっていたのは、自分がやりたいことを人にお願いしたりわかってもらったりしないと、次に進まない仕事である、ということでした。
いろんな場所に繋がっていて、単純な上下関係でもなく皆で同じ方向を向いて物をつくっていく。その言葉がとても印象的で、今はこのチームだけど、次は別のチームになる──作品ごとに出会いと別れを繰り返すという関係性に着目した物語にしようと思いました。
映画『ハケンアニメ!』のチームワーク
──アニメとはまた制作手法が異なりますが、今回の映画での吉野耕平監督率いるチームはいかがでしたか?辻村深月 一般的な映画化の場合、原作者はもう制作陣を信じて作品内容をお任せすることが多いんですが、『ハケンアニメ!』では「こんなに引き込まれるのか!」と思うほど(笑)、“身内”の一人として接してもらったのが印象的でした。
プロデューサー陣が熱量を持って映画化の話を持ってきてくれたのが始まりなんですが、そのときに原作『ハケンアニメ!』の様々な場面が今までの映画づくりとリンクしたとおっしゃってくださって。
大事な局面で監督や作品をプロデューサーが守るという流れを自分事として受け止めていらして、「僕ら映画業界が映画にしないとダメなんです」と言ってくださったんですよ。
その後も、「キャストはこの人に引き受けてもらえました」とか「監督は吉野さんにお願いしたいと思っている」とか、逐一報告してきてくださって。脚本でも、私が原作から削ってほしくないなと思っていた部分はほとんど残っていたんです。 ──素晴らしいチームですね。
辻村深月 一番驚いたのが、小説を書くときに私が取材に行った方々に、監督とプロデューサーが再び会いに行ってくださっていたことでした。
再取材をして、私とはまた違う影響を受けて脚本がブラッシュアップされていったんです。なので、小説で書いてあったトウケイ動画やファインガーデンといった制作会社の雰囲気が、原作者の私の目からしてもより可視化されている。 あと、斎藤瞳が普通の女の子で普通の生活をしていて、それを吉岡里帆さんがしっかり演じてくださっていたことも素晴らしかった。
瞳はコミュニケーションが不器用な子なんですけど、怒り慣れていない人が精いっぱい声を上げたらどうなるか、吉岡さんの中にあるであろうたくさんの怒りのパターンの中から、これぞ瞳の感情の出し方だ! というものを出してくださっていて、本当にこのチームにやっていただけて嬉しかったなと感じています。
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作品情報
ハケンアニメ!
- 公開
- 2022年5月20日(金)
- 出演
- 吉岡里帆 中村倫也 工藤阿須加 小野花梨 高野麻里佳 六角精児 柄本 佑 尾野真千子
- 原作
- 辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)
- 監督
- 吉野耕平
- 脚本
- 政池洋佑
- 音楽
- 池頼広
- 主題歌
- ジェニーハイ 「エクレール」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
- 制作プロダクション
- 東映東京撮影所
- 配給
- 東映
【STORY】
連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳。だが、気合いが空振りして制作現場には早くも暗雲が…。瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。「なんで分かってくれないの!」、だけど日本中に最高のアニメを届けたい!そんなワケで目下大奮闘中。最大のライバルは『運命戦線リデルライト』。瞳も憧れる天才・王子千晴監督の復帰作だ。王子復活に賭けるのはその才能に惚れ抜いたプロデューサーの有科香屋子…しかし、彼女も王子の超ワガママ、気まぐれに振り回され「お前、ほんっとーに、ふざけんな!」と、大大悪戦苦闘中だった。瞳は一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、熱い“想い”をぶつけ合いながら?“ハケン=覇権”を争う戦いを繰り広げる!!その勝負の行方は!? アニメの仕事人たちを待つのは栄冠か? 果たして、瞳の想いは人々の胸に刺さるのか?
関連リンク
辻村深月
小説家
1980年生まれ、山梨県出身。2004年、『冷たい校舎の時は止まる』(講談社ノベルス)で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。2011年に『ツナグ』(新潮社)で第32回吉川英治文学新人賞、2012年に『鍵のない夢を見る』(文藝春秋)で第147回直木三十五賞、2018年に『かがみの孤城』(ポプラ社)で第15回本屋大賞を受賞する。『ドラえもん』のファンとしても知られ、オマージュが詰まった小説『凍りのくじら』(講談社)のほか、『映画ドラえもん のび太の月面探査記』では脚本を務めた。原作『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)は『スロウハイツの神様』『V.T.R.』(ともに講談社ノベルス)とのリンクが存在。『かがみの孤城』は2022年冬に劇場アニメ化が控えている。
連載
毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。
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