連載 | #9 アニメーションズ・ブリッジ

映画『ハケンアニメ!』原作 辻村深月インタビュー アニメ監督が託す葛藤とは

映画化に7年、止まりかけた制作を動かしたのは

映画『ハケンアニメ!』の劇中アニメとして斎藤瞳が監督するサバクこと『サウンドバック 奏の石』

──劇中アニメとして、瞳が監督した『サウンドバック 奏の石』(通称・サバク)と王子千晴が監督した『運命戦線リデルライト』(通称・リデル)がそれぞれ映像化されているのも本作の魅力です。ともにProduction I.Gをはじめ、日本を代表するアニメプロダクションやトップクリエイター陣が制作に携わり、監督は『サバク』は谷東監督、『リデル』は大塚隆史監督が務めています。

辻村深月 この映画化は足掛け7年かかっているんですが、そこまで時間が必要だったのはアニメーションをつくるためだった、と言っても過言ではないです。映画化のお話をいただいたときは、(劇中アニメは)数分くらいの映像だろうし東映さん(※編注:映画の配給を担当)がどうにかしてくださるだろう……みたいな気持ちでした。

でも、覇権を取れるクオリティの映像ということになると、たとえシリーズではなく数分の映像だったとしても、企画の立ち上げには人や時間といったエネルギーが、シリーズ1期分をつくるのと同様に必要だった。あれだけ小説の中でアニメ業界に今人が足りないとか、上手い人の奪い合いだって書いておいてなんなんですが(笑)。

そこでアニメスタッフを集めるのに時間がかかるということで、一度制作が止まりかけたんです。

映画『ハケンアニメ!』の劇中アニメとして王子千晴が監督するリデルこと『運命戦線リデルライト』

──映画化に7年かかったというと、その期間中に辻村さんはアニメ『映画ドラえもん のび太の月面探査記』で脚本を担当されていますね。

辻村深月 はい。その作品のときに、八鍬新之介監督にふと『ハケンアニメ!』の劇中アニメのことをお話ししたんです。そうしたら、「僕がもしそれを引き受けるのなら、(最低でも)初回と最終回のプロット、あと全12話分、何が起こるのかわかるような構成案はほしい」と言われて。

確かに自分がやる身になってみたら、それくらい具体的なものがないと動けないよな……と反省しました。ならば「私でよければそれを書きます」と立候補して、『サバク』『リデル』ともに全話分のプロットを書いたんです。

──原作者自らそこまでコミットするのも珍しいような……。

辻村深月 ですよね(笑)。でも、書いていると、自分がアニメに憧れていた理由や、自分がアニメを観て斬新だと思った表現などが、とても現れたプロットになっていったんです。

それを映画のプロデューサーたちに預けられたおかげで、制作スタジオや監督さんたちの反応も「できない」から「やれるかも」の方向に変わっていきました。片手間にお願いしているわけではなくこちらも本気であるという気持ちが伝わったみたいで、その甲斐あって素晴らしいクオリティのアニメが出来上がりました。皆さんには、もう、本当に感謝です。
『サウンドバック 奏の石』特報
『運命戦線リデルライト』特報
原作小説時の取材やその後の仕事を通じて、アニメ業界に八鍬さんや松本(理恵)さん(※)のような友人ができていたのは、今回とても大きかったなと思います。そういえば、最近八鍬さんとメールしたときにこの話をしたら、「本当に書いたんですか!?」って驚かれましたけど(笑)。

※松本理恵:アニメーション監督。東映アニメーションに入社し、『映画 ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?』で監督デビュー。その後、『京騒戯画』を手掛けたのちに、ボンズで『血界戦線』を監督する。近年はポケモン×BUMP OF CHICKENによるスペシャルMV「GOTCHA!」を手掛ける。『ハケンアニメ!』では原作小説執筆時に取材を受けている。

『サバク』と『リデル』に込めたアニメとの出会い

『サウンドバック 奏の石』

──映画を拝見して、特に劇中アニメは辻村さんが影響を受けた作品らしさが如実に出ているように感じました。『サバク』は往年のロボットアニメ、特に「勇者シリーズ」の影響が大きかったような印象を受けました。

辻村深月 ありがとうございます! 『サバク』は、自分が小学生の頃にまっさらな気持ちで憧れたロボットものを、今の技術でつくったらどうなるかというところから膨らませていきました。

そのときに心がけたのが「出会い直す感覚」です。幼い頃に観た作品を大人になってから見返すと、昔は単純にロボットやアクションに注目していたものが、実はこういうことを言っていて、ここで何かを決断したんだなとストーリーが心に入ってくる瞬間があると思うんですよ。なので、その感覚を全面に出してつくったものが『サバク』でした。

──対して『リデル』は、原作小説の謝辞でも触れられている幾原邦彦監督の『少女革命ウテナ』や『輪るピングドラム』を彷彿とさせる世界感でした。

『運命戦線リデルライト』

辻村深月 『リデル』は私自身がファーストインプレッションから衝撃を受けたアニメの集大成です。こんな表現があるのか、今自分はアニメの表現が変わる瞬間を見ているんだなと特に感じたのが、幾原邦彦監督の作品で、多感な時期にリアルタイムに作品を観られたことは私の財産です。

あと、新房(昭之)監督の『魔法少女まどか☆マギカ』の影響も大きいですね。それらで感じた“アニメ表現を刷新していく瞬間”に特化したのが『リデル』のプロットでした。

──ちなみに、『リデル』の最終回のあのセリフは、作品を世の中に送り出すクリエイターなら誰しも一度は抱く感情なのかなと感じました。これは辻村さん自身が感じた言葉だったんですか?

中村倫也さん演じる伝説の天才アニメ監督・王子千晴。弱冠28歳、(劇中時間軸で)現在の瞳と同じ年齢で放ったデビュー作『光のヨスガ』が脚光を浴びるも、その後スランプに陥り沈黙。8年ぶりとなる新作『運命戦線リデルライト』で復活をはかる。華やかな容姿と奇抜な言動で物議をかもすが、胸に秘めたアニメへの想いは人一倍熱く、アニメが「現実を生き抜く力」の一部になれることを信じている。

辻村深月 私のというよりは、監督の王子だったらどういうことをキャラクターに託すんだろう、と考えた上での言葉でした。劇中で8年前にみんなが熱狂するようなアニメをつくり、そこからブランクが空いた王子であれば、自分のつくったものを楽しんでほしいという気持ちと同時に、消費しないでほしいという葛藤も抱えているのではないかと

『ピングドラム』の「生存戦略」を筆頭に、『ウテナ』や『まどマギ』にもそれぞれ心に迫る名セリフがある。そうした言葉には、その時点でのつくり手の思いが託されているんじゃないかと感じてきたので、『リデル』でも言葉を大事にしたかった。そこが同時に映画『ハケンアニメ!』でもクライマックスのセリフになっています。王子を演じてくださっている中村倫也さんの演技も素晴らしくて、完全に王子そのものでしたね。

現代における「覇権アニメ」と「ハケンアニメ」

──原作刊行時の2014年から約8年経過していますが、その間にタイトルの由来でもある「覇権アニメ」という言葉が徐々に使われなくなっていきました。辻村先生はこの言葉についてどのように捉えていらっしゃいますか?

辻村深月 10年前は、そのクールで一番話題になった作品、一番売れた作品というのが必ずあったと思います。

でも、アニメをめぐる状況はどんどん変わっていって、配信で観る文化がここ数年でものすごく普及しました。あと、話題になったときの爆発力も数年前とは比べ物にならなくなりましたよね。だからこそ、そのクールを争う形だった「覇権アニメ」が、自分にとって何が一番かという個々の捉え方に変化していった気がするんです。

なので、流行り言葉としての「覇権」とは異なり、誰かの心に一番突き刺さる作品をつくりたいという意味での「ハケン」が今回の『ハケンアニメ!』には重なるようになったのではないかなと

映画のロゴに王冠が付いているのも、誰かの心の中で一番というのが、より強く感じられますね。 ──瞳が壇上で王子に言い放った「ハケンを取ります!」という言葉が、二重の意味での「ハケンアニメ」だったと。

辻村深月 『ハケンアニメ!』には集団でのものづくりという大きな軸があるんですが、私は実はここを書きたかったんだなと映画を観てから特に感じた部分もあって。それが、非常に個人的な意味での「人にとって物語とは何か? 憧れとは何か?」ということでした。

アニメじゃなくても誰かが何かを好きになったときに、「自分にとってその好きの象徴的な存在との出会いが大事である」ということを、この映画は終始個人的なものとして描いているんです。

誰かを幸せにする物語は、その誰かのためのものでしかない──とてつもなく個人的な存在であると。原作をもとにいくらでも違う切り口にできたはずなのに、肝心のクライマックスを経たラストにあのシーンを置いてくださったのは、瞳を瞳たらしめる上でとても必要なことだったと思います。

それが翻って、「誰かの心の中で一番になる」という意味に帰ってくるのではないでしょうか。たぶん吉野監督は、そのテーマが観客に伝わると信じているんじゃないかな。なので、観てくださる方々には、この映画を通して誰かに憧れた気持ちや、瞳が憧れた王子のような存在を思い出してもらえたらとても嬉しく思います。

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・日本国内に在住の方
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※都合により当選通知のご連絡が遅れる場合がございます。あらかじめご了承ください
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※本キャンペーンの当選権利を他者に譲渡することはできません
※ご連絡後、一定期間お返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
※発送は当選お知らせ以降、順次対応させていただきます。

【画像】『ハケンアニメ!』場面写&劇中アニメカット ©️2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会

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作品情報

ハケンアニメ!

公開
2022年5月20日(金)
出演
吉岡里帆 中村倫也 工藤阿須加 小野花梨 高野麻里佳 六角精児 柄本 佑 尾野真千子
原作
辻村深月「ハケンアニメ!」(マガジンハウス刊)
監督
吉野耕平
脚本
政池洋佑
音楽
池頼広
主題歌
ジェニーハイ 「エクレール」(unBORDE/WARNER MUSIC JAPAN)
制作プロダクション
東映東京撮影所
配給
東映

【STORY】
連続アニメ『サウンドバック 奏の石』で夢の監督デビューが決定した斎藤瞳。だが、気合いが空振りして制作現場には早くも暗雲が…。瞳を大抜擢してくれたはずのプロデューサー・行城理は、ビジネス最優先で瞳にとって最大のストレスメーカー。「なんで分かってくれないの!」、だけど日本中に最高のアニメを届けたい!そんなワケで目下大奮闘中。最大のライバルは『運命戦線リデルライト』。瞳も憧れる天才・王子千晴監督の復帰作だ。王子復活に賭けるのはその才能に惚れ抜いたプロデューサーの有科香屋子…しかし、彼女も王子の超ワガママ、気まぐれに振り回され「お前、ほんっとーに、ふざけんな!」と、大大悪戦苦闘中だった。瞳は一筋縄じゃいかないスタッフや声優たちも巻き込んで、熱い“想い”をぶつけ合いながら?“ハケン=覇権”を争う戦いを繰り広げる!!その勝負の行方は!? アニメの仕事人たちを待つのは栄冠か? 果たして、瞳の想いは人々の胸に刺さるのか?

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辻村深月

小説家

1980年生まれ、山梨県出身。2004年、『冷たい校舎の時は止まる』(講談社ノベルス)で第31回メフィスト賞を受賞し、デビュー。2011年に『ツナグ』(新潮社)で第32回吉川英治文学新人賞、2012年に『鍵のない夢を見る』(文藝春秋)で第147回直木三十五賞、2018年に『かがみの孤城』(ポプラ社)で第15回本屋大賞を受賞する。『ドラえもん』のファンとしても知られ、オマージュが詰まった小説『凍りのくじら』(講談社)のほか、『映画ドラえもん のび太の月面探査記』では脚本を務めた。原作『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)は『スロウハイツの神様』『V.T.R.』(ともに講談社ノベルス)とのリンクが存在。『かがみの孤城』は2022年冬に劇場アニメ化が控えている。

連載

アニメーションズ・ブリッジ

毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。

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