ハーモニー

はーもにー

『ハーモニー』は、小説家・伊藤計劃の長編SF小説。2008年12月にハヤカワSFシリーズ Jコレクションの一冊として刊行。単行本の装画はシライシユウコ

ハーモニー

概要

第40回星雲賞(日本長編部門)および第30回日本SF大賞受賞。「ベストSF2009」国内篇第1位。2010年12月文庫版が刊行。

2015年にフジテレビ「ノイタミナムービー」第2弾伊藤計劃プロジェクトとして「虐殺器官」と共に劇場版アニメ化されることが発表されている。映画公開に先駆けて、2014年8月8日にはredjuiceが手掛けた新ビジュアルカバーの新装版が「虐殺器官」と同時に早川書房から刊行された。

また、月刊ニュータイプにて創刊30周年記念企画として「虐殺器官」と共にコミカライズがされる事が決定した。

ストーリー

2019年、アメリカ合衆国で発生した暴動をきっかけに全世界で戦争と未知のウィルスが蔓延した「大災禍(ザ・メイルストロム)」によって従来の政府は崩壊し、新たな統治機構「生府」の下で高度な医療経済社会が築かれ、そこに参加する人々自身が公共のリソースとみなされ、社会のために健康・幸福であれと願う世界が構築された。ザ・メイルストロムから半世紀を経た頃、女子高生の霧慧トァンは生府の掲げる健康・幸福社会を憎悪する御冷ミァハに共感し、友人の零下堂キアンと共に自殺を図ったが、途中で生府に気付かれ失敗し、ミァハだけが死んでしまう。

13年後、WHO螺旋監察事務局の上級監察官として活動していたトァンは、ニジェールの戦場で生府が禁止する飲酒・喫煙を行っていたことが露見し日本に送還されてしまう。日本に戻ったトァンはキアンと再会し昼食を共にするが、そこでキアンは「ごめんね、ミァハ」という言葉を残し自殺する。同時刻に世界中で6,582人の人々が一斉に自殺を図る同時多発自殺事件が発生し、螺旋監察事務局が捜査に当たることになった。トァンは事件に死んだはずのミァハが関係していると考え、ミァハの遺体を引き取った冴紀ケイタの許を訪れた。そこでトァンは、父親である霧慧ヌァザが人間の意志を操作する研究を行っていたことを聞かされ、ヌァザの研究仲間ガブリエル・エーディンがいるバグダッドに向かおうとする。その際、トァンは自殺直前のキアンがミァハと通話していたことを知り、ミァハが生きていたことに驚愕する。

バグダッドに向かう途中、トァンはインターポール捜査官のエリヤ・ヴァシロフから接触を受け、生府上層部に人間の意志を操る「次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループ」という組織があり、同時多発自殺事件に関与していることを聞かされる。また、空港に向かう車内で同時多発自殺事件を実行した犯人の犯行声明がテレビ放送され、「健康・幸福社会を壊すため、1週間以内に誰か1人を殺さなければ、世界中の人間を自殺させる」と宣言した。トァンは犯人の思考がミァハと同じことに気付き、バグダッド行きの飛行機に乗り込む。

バグダッドに到着したトァンはエーディンと面会するが、その日の夜に「次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループ」の中心人物である父ヌァザからの接触を受ける。ヌァザはトァンに人間の意志を制御しザ・メイルストロムの再来を防ぐ「ハーモニー・プログラム」のために研究を行い、その実験体としてミァハをバグダッドに連れて来たと語った。しかし、ヌァザは「研究の副作用として、"ハーモニー・プログラム"を実施した場合、人間の意識が消滅してしまう」として、同時多発自殺事件は「ハーモニー・プログラム」を実行するために急進派のミァハが仕組んだことだと伝えた。そこにミァハの仲間のヴァシロフが現れヌァザを拘束しようとするが、トァンと相打ちになって重傷を負い、トァンをかばったヌァザは死んでしまう。トァンはヴァシロフから「ミァハはチェチェンで待っている」と聞かされ、チェチェンに向かう。

1週間の期限を迎えた日、チェチェンの山奥にある旧ロシア軍基地でトァンに再開したミァハは「生府の健康・幸福社会によって居場所を失った多くの人々が自殺している」として、「人間の意識を消滅させて世界を“わたし”から救う」と真意を語った。トァンはキアンとヌァザの復讐のため「ミァハの望む世界を実現させるけど、それを与えない」と伝えミァハを射殺する。復讐を果たしたトァンは息絶える寸前のミァハと共に基地の外に出て、「人間の意識=わたし」が消滅する世界に別れを告げる。

評価

健康を題材にした『ハーモニー』は、作者の闘病との関係も連想させる。

日本SF大賞で選考委員をつとめた東浩紀は同作の選評で「(あらゆる人が)健康でなければならない世界を(略)自らの命が絶そたれようとしているとき、まさにの病と闘いながら描き続けた」ことが「彼自身の生と死をひとつの虚構と交差させた」点を評価。

大森望は、意識をめぐるアイディアは短編「From the Nothing, with Love」、筋立ては『虐殺器官』と共通だが、結末の衝撃は『万物理論』級で、ある意味、21世紀最高の比類なき恐怖小説かもしれないと激賞した。

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