ZOT on the WAVE feat. YZERR & Candee「TEIHEN」
Fuji Taitoさん「Crayon」はじめ近年最も活躍目覚ましいプロデューサーの一人であるZOT on the WAVEさん。ラッパーに楽曲提供という形ではなく、プロデューサー名義の楽曲にラッパーがfeatしている形も今の潮流を象徴している。
BAD HOPのブレイン・YZERRさんと川崎の新星・Candeeさん、それぞれハードな人生をひっさげ“底辺”からの成り上がりをリリックにしながらもその鋭利さとは対照的な抜けのあるフロウと軟らかい声質が、ZOT on the WAVEさんのメロディと見事に融け合っている。
音・人・物語すべてが噛み合った人選の凄み。
VaVa feat. tofubeats「夢のまた夢」
VaVaさんの3rdアルバム『VVARP』に収録された、「RUN REMIX」以来となるVaVaさんとtofubeatsさんによる楽曲。キャリアアップし、様々な経験をしてきた現在を「夢のまた夢」と表現しながら、さらにその先への欲望を明るく歌っており、「現実 Feelin' on my mind」のように内面の葛藤などを歌うことが多かった2ndアルバム『VVORLD』から、様々なアーティストをフィーチャリングし、新たな表現をに挑戦した今作を象徴するような1曲となっている。
tofubeatsさんのバースの最後に歌われる「夢見ることも夢のまた夢」から始まるパートも、オールドな踏み方でバチバチに盛り上がっていくようになっており、変わらないものを感じさせながら上がっていっているんだということを感じさせてくれる。
Hideyoshi「Shinpainai feat. AKLO] 」
Tokyo Young Visionのフロントマンで「Majinahanashi」が世界に届いたHideyoshiさんが満を持してリリースした1stアルバム『Resurrection』からの1曲。UK在住のプロデューサー・kazzaさんによる甘くかつ憂いを含んだビートに、Hideyoshiさんの安定した低音とAKLOさんのバイリンガルラップとのコントラストが心地良い。
若手Hideyoshiさんの腰の据わった「心配いらない」と常に洗練されているAKLOさんの鮮やかな「Don't Worry Like」に説得力が宿りすぎている。
King & Prince「ichiban」
かつてアンダーグラウンド/サブカルチャーとして扱われていたヒップホップも、今やポップカルチャーの一角となった。その象徴のひとつとも言えるのが、ジャニーズのアイドル・King & Princeの4thアルバム『Made in』のリード曲。オリエンタルでドープな本楽曲を提供したのは日本ヒップホップシーンの大御所・KREVAさん。TikTokで公開された動画は、国内アーティスト史上最速の6億回再生を記録した。
メジャーシーンで活躍するアーティストとヒップホップシーンのラッパーのコラボは、これまでにも数え切れないほど行われてきた。最早、それは特別なことではない。
PUNPEE & JJJ「Step Into The Arena」
かねてよりリリックなどで『Magic:The Gathering』の往年のプレイヤーであることを示唆していたPUNPEEさんがついに公式オンラインゲーム『MTG Arena』とコラボソングを発表。盟友・JJJさんとの初共演という点でも話題に。ドリルビートに乗せ、延々にカード名や『Magic:The Gathering』ネタでスキルフルにラップし続ける様は圧巻。
実際のゲームにおける苛烈なバトルを彷彿させるだけでなく、特にPUNPEEさんのノスタルジックなワードチョイスは、同時代に『Magic:The Gathering』に触れていた人は誰もがにやりとしてしまう。
13ELL「I'M LOADED」
京都の伏見区出身と言えばANARCHYさんや孫GONGさんらハードなラッパーの名前が挙がるが、ヒップホップクルー・D.C.A所属の13ELL(ベル)さんの存在感は年々強まっている。1stから2年半、本当に待望の2ndをリリース。本曲はそのアルバムの実質的な表題曲である。
ここにあるのは、いわゆるスターダムの階段を駆け上がったラッパーの“よくある”成り上がり話ではない。決して飛ぶ鳥を落とす勢いではないラッパーが京都で10年、家庭を支えながら音楽を続けてきたその先でヒップホップドリームとは違うものを手に入れた。
「辿り着いた所は描いてたとこじゃない/だけどお前の命より上は無いから/当分もうgoalは変わらない」。鼻にかかったフロウで、常にレペゼンする京都と家族への深い愛を通して、自分の本当の目線と歩幅に気付いた一人の男。これはそういう話だ。
D.O × Red Eye「悪党の詩 REMIX」
まさかこんな形で10年越しにあの歌が蘇るとは。大阪で悪さばかりしていた少年が、10年前にリリースされたあの『悪党の詩』を聴いてD.Oさんに触発されラップ活動を始めた。その少年の名前はRed Eyeさん。2022年、『悪党の詩』はそのRed EyeさんとD.OさんによってREMIXされて世に放たれた。
「悪党が奏でるこの歌が/全土にばら撒かれ」た結果、一人の悪党が立派に育ってその背中に追いついたのだ。原曲のヴァースもアレンジされており「このBluntを吸い終わったら/一人で行くところがあるんだ」がREMIXでは「このBluntを吸い終わったら/また行けるトコロまで行くだけだ」となっているところが憎い。
かち込みをかけるならもう一人ではない。9SARI GROUPの面々はもちろん、背中を預けることができる心強い青年に出会った──まるでそう聴こえた。
Tajyusaim Boyz 「金の話ばっかりやめようぜ」
常に金の話をしてきた全員債務者のクルー・Tajyusaim Boyzによる誰が言ってんだ!という1曲。グラミーアーティストであるLil Nas Xの「MONTERO」をサンプリング。USの有名曲を大胆に引用し、Tajyusaim Boyzにしか書けない債務者としてのリリックを面白おかしく乗せるというスタイルはそのままに、今回の楽曲では積極的にリリースを重ねたメンバーたちのスキルアップが随所に感じられる。
LB-RUGさんの低い声で繰り出されるフック、開き直りつつも、もっとハッピーになろうと自身の楽曲でも訴え続けるメッセージを発するPizzaLoveさんのバースも素晴らしい。
中でも個人的に一番心に残っているのが、M.A.GさんのTajyusaim Boyzをレペゼンしつつ、俺に金の話をするってことはお前も金がなくなりそうなのか?と問うバース。「もしもし、どうすか?」などでは取り立てに追われ逃げ惑う日々を歌っていた彼らの成長を端的に表していると言えるだろう。
Watson「DOROBO」
2022年上半期にその名を一気に全国区にした徳島県発のニューカマー・Watsonさんの一曲。過去の窃盗による逮捕経験を示唆させる、恥を吐露するリアルで内省的なリリック、センチメンタルなビートをつんざくような独自性の高いフロウとメロディセンスは面食らうこと必至。新たな才能の登場を確信させる一曲となった。こんなにカッコよく「DOROBO」って発音できるんだ、とも。
その活躍は目覚ましく、Redbull「RASEN」やニートtokyoへの出演、POP YOURSが手がける「YOUNG PRO」への出演決定など枚挙に暇がない。どの曲もオリジナリティがヤバいので聴いてほしい。
OMSB「Nowhere」
SUMMIT所属のOMSBさんによる3rdアルバム『ALONE』の1曲。「見ざる言わざる聞かざる/離れて歩きたがる/暫く離れてみよう」のような、恋人との心の距離が開いていく様をつづったリリックも素晴らしいが、OMSBさんの声と軽快なフローによって、重さを感じさせず、むしろさっぱりとした印象を受ける。
韻を強調しているわけではないものの、短いワードで踏みながら話がグングンと進んでいく気持ちよさが確かな実力を感じさせてくれる曲となっている。
SALU feat. AKLO & JP THE WAVY「GOD LOVES YOU」
AKLOさんの代表曲「RGTO」やJP THE WAVYさんの代表曲「Cho Wavy De Gomenne Remix」で客演してきたSALUさんが、2人を呼んでつくりあげた1曲。描かれているのは「自分の好きにやって、その上で欲しいものをすべて手に入れる」という、ヒップホップでは定番の内容。しかし、そんな野心あるテーマもSALUさんの手によって軽快でさわやかな曲に仕上がっています。
個人的には、AKLOさんのバースの「みんなかけてるミニ迷惑、仕方ねぇ器広いってことにして止めてく負の連鎖」というラインがお気に入り。キャリアと大人の余裕を感じさせてくれて、SALUさんの雰囲気ともマッチしています。
MVも、SALUさんがフォーチュンクッキーで引いた「GOD LOVES YOU」という紙が巡り巡って3人を引き合わせていくというオシャレな構成になっています。
C.O.S.A. feat. ralph「POP KILLERS」
C.O.S.Aさんとralphさんによる緊張感にあふれた一曲。緊迫感のあるドリルのビートが疾走感を醸し出す中、厳つい2人が浮かれた相手を打ち倒していくような曲になっています。曲のスタートから「物事の全てを茶化すことしかできないようなお前に」と言われてドキッとした人も多いはず。
大型フェス「POP YOURS」で披露されたライブ音源もYouTubeに投稿されていますが、音源とはまた発声の仕方が違っていてより自分のスタイルを誇示するような印象を受けます。どちらも違った味わいです。
Choppa Capone feat. Bene Baby「Blue Beam Remix」
若手のラッパーたちが街頭でのパフォ-マンスを投稿するチャンネル「03- Performance」で注目を集めたBene BabyさんとChoppa Caponeさんの一曲。Choppa Caponeさんは、テキサス州のダラスに住み、アメリカの2大ギャング「クリップス」のメンバー。そんなChoppa Caponeが、チームのカラーである青をレペゼンし、英語でフックと自分のバースを書くという、日本では異色の1曲。
言語の壁があるなかで、この曲がSNSなどで広まりバイラルしていったことは、日本のシーンの変化を象徴していると言えるのではないでしょうか。
「03- Performance」では、2人以外にも多くのミックスのラッパーがフックアップされています。この曲を聴いていると、メディアの人間としても、彼らが起こすムーブメントをしっかりとキャッチしないといけないなと思わされます。
Bonbero「Karenai」
「ラップスタア誕生」でも活躍したBonberoさんによる近年の活動の集大成のような1曲。少年時代から、「コロナで心も閉鎖」されたという近年、そしてバトルへも出演し成長を遂げ「子供と大人の間」になったという現在までを振り返っています。
ピアノをメインにした、どちらかというと落ち着いたビートから、Bonberoさんの持ち味でもある短くタイトな韻を畳みかけグルーヴをつくり出していく様は必見です。
Only U feat. LEX「OK! Remix」
Only U さんが 楽曲「OK!」を、客演にLEXさんを迎えてリミックスした曲。オートチューンが特徴的な2人だけあって、声とフロウがが1つの楽器のようにグルーヴをつくり出しています。
「あっかんべ」や「後ろの正面だあれ」「あの女もびっくりあらLEXってなんて素晴らしい人ね」のような人をからかうようなフレーズ選びが楽しく、車の中で友達と聴きたい曲です。
この記事どう思う?
連載
日夜生み出される現象や事象を“ポップなまとめ記事”として紹介する人気連載。 いま注目を集めるジャンル、気になったときにチェックしたいトレンド──。 KAI-YOUでは「POP」を軸に、さまざまな対象をまとめて紹介していきます。
0件のコメント