連載 | #65 ポップなまとめ記事をつくってみた

【2024年上半期】国内ヒップホップの名曲10選 有力なポピュラー音楽としての結実

【2024年上半期】国内ヒップホップの名曲10選 有力なポピュラー音楽としての結実
【2024年上半期】国内ヒップホップの名曲10選 有力なポピュラー音楽としての結実

不幸中の幸い feat. kZm, PETZ, JNKMN, Awich, MonyHorse & U-Lee / YENTOWN より

2024年、国内におけるヒップホップの勢いはさらに加速した──加速したというより、すでに普遍的な“ポピュラーミュージック”の一つとして完全に定着したと言って差し支えないだろう。


BAD HOPが国内のヒップホップアーティストで初となる東京ドーム公演を成功させ、Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」は海を越え、日本発のラップミュージックの存在感を世界中に示している。ABEMAが主催するオーディション番組「ラップスタア」はかつてのリアリティショーのように視聴者たちの熱狂を生み、インターネット発番組として有数の人気コンテンツとなった。

かつて脆く、小さかったこのジャンルは「ヒップホップとは何か?」という自己言及を繰り返すことで文化を発展/維持を試みていた。あるいは、アンダーグラウンド/オーバーグラウンドの二項対立を持つことで“本物”とは何かを問うた。それらの蓄積はもう結実している。アンダーグラウンド性を孕みながら、オーバーグラウンドへと届く表現が可能になった。ヒップホップは数あるポピュラーミュージックの中でも特に有力な一つとなった


今回は、2024年にリリース/MVが公開された日本語ラップの楽曲を、KAI-YOU編集部の独断と偏見で10曲セレクト。若手からベテランまで、様々なスタイルが入り混じった2024年の楽曲を紹介!

distance / FARMHOUSE

その名の通り、距離をテーマにしたリリック。その書き出しとフックに入る瞬間のカタルシスが凄まじい。中学、高校、大学、社会人──歳を重ねるにつれ、どんどん近づいていく自宅からの距離。そして自宅でラップする現在、ついにゼロ距離に。瞬間、弾けるようなビートとラップが見事に交錯する。

この構成の美しい完成度だけでも、2024年最高のヒップホップ楽曲の一つにあげるべきと思った。2人組クルー・SUSHIBOYSとしても意欲的に活動するFARMHOUSEさんだが、ソロでは内省的に、より独自の世界観を確立している。他の楽曲も全部良いから聴いてください。(わいがちゃんよねや)

Bling-Bang-Bang-Born / Creepy Nuts

Billborad JAPAN発表の総合ソングチャート「JAPAN Hot 100」で2024年上半期の首位を獲得、海外でヒットした邦楽チャート「Global Japan Songs excl. Japan」で20連覇した大ヒット楽曲。いずれも日本のヒップホップ史において異例の快挙である。

アニメタイアップを契機にした成功は、カウンターカルチャーであるヒップホップにおいて、邪道なのかもしれない。日本のメジャーシーンの第一線で活躍するCreepy Nutsが、アイドル的に支持されている側面があることも否めない。しかしいつだって、邪道こそが停滞したシーンに革新をもたらしてきた。(都築陵佑)

不幸中の幸い feat. kZm, PETZ, JNKMN, Awich, MonyHorse & U-Lee / YENTOWN

東京・渋谷にルーツを持つヒップホップクルー・YENTOWNAwichさんやkZmさん、そして現代の日本語ラップシーンの中でも最重要ビートメイカーであるChaki Zuluさんの存在は、近年のシーンにとって非常に重要かつ、その活躍は目覚ましいものがあるが、長らくクルーとしての活動は見えていなかった。

そんな中、突如としてRASENで、初のYENTOWN名義にリリースされた楽曲が「不幸中の幸い」だ。それぞれの方法で積み上げてきたキャリアや個性のバラエティがまさに超新星爆発(スーパーノヴァ)の如く化学反応を起こした名曲。あまりにカッコ良すぎるMVのロケ地が気になる!(わいがちゃんよねや)

Mama's Boy ft. LEX & 7 / KEIJU

物悲しくも印象的なギターの旋律ではじまるイントロ、カントリー調のビートにフックでの7さんの高いキーをキープした声が、鼻にかかったKEIJUさんの声と見事に調和している。

「昔は素直に言うことが聞けなかった」「母に迷惑をかけた」という懺悔はヒップホップ的にはテンプレだ。ただ、みんないくつになっても母の子どもでしかないのだ、だから……というメッセージは間違いなく2024年に最も相応しいフックの一つである。

バースを蹴っているのは、LEXさんとKEIJUさんだけ。7さんのバースも聴きたかったと思ったのは筆者だけではないはずだ。しかし、7さんがシーンに広く発見されるきっかけとなった番組「ラップスタア誕生」を観てきたリスナーには、母の教えと継承を歌うこの曲で彼女が“バースを蹴らなかった理由”に思いを馳せることもできる。(新見直)

GOAT / Number_i

海外進出を目指す元・King & Princeの3人組ダンス&ボーカルグループ・Number_iが放った一の矢。世界最大級の音楽フェス「コーチェラ」の出演効果もあり、米iTunesのヒップホップチャートで最高1位にランクインした。

BTSSEVENTEENStray Kidsなどをはじめ、世界的に人気のある男性ダンス&ボーカルグループは、その音楽性にスタンダードとしてラップを取り入れている。グローバルの商業音楽シーンで戦うからこそ、ヒップホップを選び、そしてそれが王道であることを見せつけられた一曲。(都築陵佑)

Boss Bitch(Remix) feat.LANA & Elle Teresa / 7

「ラップスタア誕生 2023」での活躍や自身の楽曲に対する海外からの反応へのアンサーを込めた「Rice Spice」で話題を集めた7さん。

そんな彼女がZOT on the WAVEさんのプロデュースのもと送り出した「Boss Bitch」に、LANAさん、Elle Teresaさんを加えリミックス。

原曲は「信頼する少ないfriend」「他とは合わせてないテンポ」のように孤高の存在として自分の存在を誇示するリリックが特徴的な一曲。今回のリミックス版では、同時代に活躍する2人を指して「エルラナ揃う横には7」と歌ったり「もーじきなってまうAsia のFace」とこの前年からの活躍を経て付けた自信と野望を表明しているのが印象的です。

「ウチ見て這い上がれGals」と歌うLANAさん、「操作するジョイコンと大人」「なりたい沼津の市長 週末は地方/最後に回収するどうでもいい目先」と自身のスケールや何物にも縛られないことをボースティングするElle Teresaさんのバースなど、自身がBossであることを証明する方法にもそれぞれのスタイルが出ています。(小林優介)

EVERGREEN feat.kZm / 野田洋次郎

RADWIMPSの野田洋次郎さんのソロプロジェクトとして発表された一曲。透明感と疾走感のあるビートに、短い生を駆け抜ける感情を凝縮したような歌詞が特徴です。

kzmさんの持つ、青春を感じさせながらも浮ついておらず、生活や実存と地続きになっている雰囲気が楽曲のサウンドや世界観に見事にマッチしています。

特にフックでは、抒情的なワードをちりばめ、ともすればアセンションしてしまうのではという気にもさせる陶酔的で高揚感ある野田さんのパートに対し、それを時に補足し、時に広げるように言葉を並べ、実感を持たせてくれるkzmさんのパートの掛け合いが印象的な一曲に仕上がっています。(小林優介)


Last Party Never End feat. Tiji Jojo, YZERR, Yellow Pato & Vingo / BAD HOP

日本のヒップホップアーティストとして初の東京ドーム単独公演を実現し、それをもって解散という偉業を成し遂げたBAD HOP。これ以上ない解散ライブに向けた怒涛のリリースラッシュから一曲を選ぶのは困難だが、象徴する作品という意味ならこの曲だろう。

荘厳ながらハイハットが小刻みに鳴った憎いビートに乗せた、Tiji Jojoさんのハイトーンが冴え渡る。ハスキーで滋味のあるYellow Patoさんのフロウ、Vingoのハネたラップ、こもりがちのYZERRさんのラップでさえ“これしかない”組み合わせだと思わせてくれる。

舐達麻とのビーフも追い風となってチケットが完売し、ヘッズで埋め尽くされたあの日の東京ドームの光景──「俺たちに終わりはねえ/誰一人帰さない最後まで」のリリックの通り、これからも長く語り継がれていくはずだ。(新見直)

Wha u talkin bout?(feat. lilbesh ramko & hirihiri) / ピーナッツくん

VTuberでありながらラッパーとしても活動するオシャレになりたい!ピーナッツくん。彼の最高傑作ともいうべき4thアルバム『BloodBagBrainBomb』からの一曲。アルバム後半の中でも特に印象的なトラックであり、近年存在感を増しつつあるグリッチポップの第一人者・lilbesh ramkoさんとPASTA STAとしても精力的に活動するhirihiriさんとの共作となっている。

ピーナッツくんの身の回り、他愛ない生活と等身大の焦燥感をエモーショナルに描き出すビートと、ピーナッツくんの落ち着いたフロウの完成度。lilbesh ramkoさんのシャウト気味のボーカルとの相性も抜群。今作はピーナッツくんのセルフプロデュースを含め、さらに多様な楽曲群がパッケージされているが、中でもピーナッツくんの音楽性の懐の深さと、さらなる進化を予期させるこの曲をピックアップ。(わいがちゃんよねや)

Forever / lil soft tennis & SALU

lil soft tennisさんほど飛翔感のあるラッパーはいない(異論も認める)。大きなヒップホップショーケースイベントこそ出演はないがこの「Forever」でもSALUさんと肩を並べてしっかりと向こうを張っている。憂いもてらいもひっくるめた複雑な感情が込められたリリックはそのフロウでどこまでも自由に翔んでいる。「Forever」というワードが孕む永劫性という呪縛から、こんなにも自由なバースを知らない。

2つ目のフックでオートチューンをどんどん転回して歪ませたアクセントもほどよく、続いてマイクを受け取ったSALUさんもやはり巧みだ。地上から突き出た「東京タワー」と離陸地点としての「首都高空港」という対比など、lil soft tennisさんの飛翔感に良い意味で少し重しを置いていてそのバランス感が小気味いい。

なお、超個人的には、宮沢賢治のあまりにも苛烈な自己犠牲に満ちた、美しくも息苦しい「雨ニモマケズ」をこんな風に軽やかに現代に翻案してくれたことについて、涙が出るほど感謝してる。(新見直)

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