連載 | #5 STAY HOMEを遊びつくす

バーチャル同人誌即売会「ComicVket 0」レポ 仮想空間は現実の代替足りうるか

バーチャル同人誌即売会「ComicVket 0」レポ 仮想空間は現実の代替足りうるか
バーチャル同人誌即売会「ComicVket 0」レポ 仮想空間は現実の代替足りうるか

「ComicVket 0」cluster会場の様子

POPなポイントを3行で

  • 仮想空間上での同人誌即売会「ComicVket 0」の模様をレポート
  • VR機器、PC、スマホからもアクセスできる同人誌即売会
  • 仮想空間上のイベントは実際のイベントの代替足りうるか
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で多くのイベントが中止または延期に追い込まれている。

そしてこれは同人誌即売会も例外ではなく、5月に予定されていた「コミックマーケット98」(C98)も中止が発表されている。 中止になったイベントの中には、ネット上での配信などを代替イベントとして開催する動きがあるが、同人誌即売会にもそんな代替開催の試みが始動していた。 その名も「ComicVket」。3Dアバター・3Dモデルなどの展示即売会「バーチャルマーケット」を運営する株式会社HIKKYが開催する、仮想空間上の同人誌即売会だ。8月の本開催を前に4月10日から12日の3日間、プレイベントが開催された。 果たして仮想空間上での同人誌即売会はどのようなもので、代替イベント足りうるのか。この記事ではそんな「ComicVket 0」の模様をレポートする。

仮想空間に広がる同人誌即売会「ComicVket 0」

「ComicVket0」へのアクセス方法は3つ。「VRChat」「cluster」「STYLY」のプラットフォームが用意されていた。

PCとVR機器、「cluster」「STYLY」へはアプリをダウンロードしスマートフォンからもアクセスできる。

VRChat会場の様子

「VRChat」の会場にアクセスすると、イベントホールを再現した仮想空間に計80のブースが並ぶ。

今回はプレイベントということもあってか、すべて一次創作のサークルが出展していた。

バーチャル同人誌即売会「ComicVket 0」

ブース以外にもカメラや三角コーン、最後尾の札や撮影のための光源といった小物の置いてあるスペースも。

お気に入りの3Dモデルを用意した友人同士でやってきて記念撮影、といったケースに一役買いそうだ。

見本誌を手に取り内容を確認できる

ブースに近づくとそこには見本誌が。コントローラーを操作して手でつかむと、ページをめくって数ページを確認することができた

「VRChat」は不特定多数が会場にいる「パブリック」と、自分や友達のみで回れる「プライベート」それぞれの会場を選択することができる。

会場にいたVTuber・宍戸あくろに聞いた「ComicVketってどう?」

人混みの賑やかさを楽しむのも即売会の醍醐味。今回「パブリック」の会場を取材していたところ、訪れていたバーチャルYouTuber(VTuber)にも話を聞くことができた。 取材に答えてくれたのはアート特化型AI、自称エモ系VTuber・宍戸あくろさん。

モデルやデザインを中心に活動する彼女は、今回のメインビジュアルを担当した人物と面識があり、知り合いも参加していると知って来場したという。

突然の取材に応えてくれた宍戸あくろさん

実際に「ComicVket 0」に来場し、「全体的なクオリティや使い勝手、様々な観点から見ても黎明期」という印象を受けたとのこと。

具体的には「入場からブースまでの距離感、デスクトップやスマホからでもサンプルを読みやすくするなど、工夫次第でめちゃくちゃ良くなりそう」と答えてくれた。 彼女以外にも、多くのVTuberやVR技術系のエンジニアなどが「#ComicVket」のハッシュタグでTwitterに動画や写真を投稿しており、一定層からの関心の高さがうかがえた。

スマホからも気軽に来場可能な即売会

ComicVket0 プラットフォームの特徴
その他のアクセス手段も紹介しよう。まずは「cluster」から。スマホの「cluster」アプリを起動して「ComicVket 0」のワールドを選択すると「VRChat」と同じ会場が広がる。

会場は最大50人まで入れるとのことで、イベント開始直後に起動したところ、たくさんのアバターが行き交う様子が楽しめた。

スマホ版「cluster」は、多くのスマホゲームでも採用されている画面左下に表示されたパッドをグリグリ操作することで、自分のアバターを動かす方式。慣れた人にとってはすぐに馴染めるだろう。

「cluster」でも最後尾札は持ち歩ける

この会場でも小物を持ち運んで遊べたほか、画面左にチャットログが表示されるため、アバターだけでなく話題を共有することからも賑やかさを感じることができた。

「STYLY」で廊下にブースを召喚した図

「STYLY」ではブースにかなり近づいて出展物を確認できた

最後に紹介する「STYLY」はARアプリ。インストールしたスマホのブラウザから「ComicVket」サイトの各サークル紹介欄にあるARのボタンをタップ。すると「STYLY」が起動し、目の前にサークルのブースを召喚できた。

バーチャルは実際の同人誌即売会の代替足りうるか

ここまで紹介をしてきた「ComicVket 0」だが、実際の即売会の代替イベントになり得るのだろうか。答えるのは非常に難しい。プレイベントということもあり、課題もわかりやすい形で残されていた。

まず、どの会場からも出展物を直接購入する手段はなく、「ComicVket」のサイトから改めて各サークルの購入ページを閲覧する必要があった

この点は、2019年に開かれた「バーチャルマーケット」の際にはVRChat内からカタログを開くことができたので、改善策も準備されているだろう。

見本誌を開いた図

見本誌の内容については、特に文字を確認することが解像度の関係で難しかった。

この点は容量の問題もあり難しいところだ。また、スマホからは見本誌を開く手段がなかった点も惜しいと感じた。
ComicVket0購入方法説明ムービー
イベントをより楽しむ上で、もっともネックになっていると感じたのが、計80のブースに対し同じ空間を共有できる最大人数が「cluster」からアクセスした際の50人という点だ。

実際の即売会での人混みがもたらす高揚感や偶発的な出会い。そういったものの密度や質は、この制限ではなかなか再現が難しい。今回インタビューが成立したのも、プレイベントゆえに一定層のアーリーアダプターが関心を持っていたことによる偶然の部分が大きいだろう。

「ComicVket」がもっと盛り上がるために

一方で、期間中であれば24時間いつでも、気が向いたタイミングですぐに来場できる気軽さは「ComicVket」ならではのものだった。

これは特に都心でのイベントへ参加するのに苦労するような地方在住の人間にとってありがたい。

また、出展者にとってもJPEGとPDFデータだけで出展できる手軽さと、来場者の幅を狭めない海外からでも参加可能な敷居の低さは好ましいものになるはずだ。

ブースに売り子がいなくても試し読みできる気軽さと人との触れ合いの希薄さは表裏一体だ。そんな希薄さをなんとかしようとTwitterでは出展者による「この時間には売り子をしています」というような告知が「#ComicVket」のハッシュタグなどで展開されていた。 実際の即売会がそうであるように、あるいはそれ以上に、ブースに足を運ぶ以前の情報収集や交流が「ComicVket」を楽しむために必要不可欠な要素になる。

出展者や参加者の開催するイベントを整理する仕組みがあれば「ComicVket」はもっと盛り上がるはずだ。

リアルイベントにはないインターネット独自の良さ

仮想空間上でのイベントは、実際のイベントの代替と考えるにはまだ時期尚早だ。しかし仮想空間上でのイベントには独自の良さがある。

それは新型コロナウイルスの流行以降に開催された他のイベントで感じたことでもある。

全国の音楽拠点が協力して開催されたストリーミングフェス「Music Unity 2020」では、全身に音を感じるクラブの楽しさを体感できない。

しかしそれでも、配信から流れる音楽に合わせて自室で体を揺らしながらチャット欄にスタンプを連打する、学生時代に体験したニコニコ動画のような楽しさがあった。 「ComicVket」でもそれは同じこと。見知らぬ誰かと何となく同じエモートを表示し合ったり、ジャンプだけで感情が伝わるような気がしたり。

目の合った気がした誰かへ手に握ったコントローラーをぎこちなく振る。それは実際にやるには気恥ずかしい気もするけれど、アバターをまとえばほんの少しだけハードルが下がる

3日間にわたって開催された今回のイベントには、延べ約2万5000人が来場した(主催者発表)。次回 「ComicVket 1」は8月13日(木)から16日(日)まで4日間の開催が予定されている。 新型コロナウイルスの影響がどこまで続くのかはまだわからない。しかし、その荒波に我々の生活は揺さぶられ続けている。同人即売会が担っていた役割も例外ではない。いつか再開されるその時まで、創作と発表の機会を絶やしてはならない。

「ComicVket 0」では、そんな現状に対する仮想空間の可能性を十分に体験できた。それはまだ荒削りながらも、8月の正式開催に向けて期待の持てる3日間だった。
コミックVket 0 閉会式 ComicVket 0 Closing ceremony

バーチャル/仮想空間ゆえの可能性

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STAY HOMEを遊びつくす

新型コロナウイルスによる感染症が世界中で広がっている。 各国政府によって様々な方針や対策が掲げられているが、そのおおよそはとにかく「STAY HOME」──そう、外出自粛だ。 社会がその対応に追われ、混乱し、経済活動もままならない中、僕らのかつての「遊び」も急速に失われていっている。 居酒屋で飲んだり、音楽フェスやクラブで踊ったり、カードゲームの大会に出たり、そんな当たり前だったことが、もしかしたらしばらくできなくなるかもしれない。 しかし人類とウイルスが切っても切れない関係であるように、人類と「遊び」の関係もまた長い年月をかけて少しずつ変容してきた。こんな「STAY HOME」な状況だからこそ、今だからこそできる「遊び」や、時代の要請によって新しく生まれた「遊び」を特集。 ポストコロナの現代──ただ暇だといって何もしないで自宅に籠っているよりも、「STAY HOME」を遊びつくす。それがKAI-YOUのスタンスだ!

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