時事性を反映した椎名寅生『ニューノーマル・サマー』
さて、そんな『Sonny Boy』とあわせておススメしたい作品が、こちらもコロナ禍という閉鎖的状況で1つのことに取り組もうとする少年少女の姿を描いた傑作、椎名寅生『ニューノーマル・サマー』(新潮文庫nex)だ。著者の椎名寅生は2011年に柴田科虎名義で第9回BOX-AIR新人賞を受賞。受賞作を改題した『シアトロ惑星』(講談社BOX)で翌年デビューを果たす。その後2018年に第22回星海社FICTIONS新人賞受賞作『花園』(星海社FICTIONS)を刊行。本作は新人賞を受賞していない作品としては初の著書となる。
2020年の夏。学生劇団「劇団不死隊」はたった一度きりのこの一瞬に青春のすべてを賭ける。しかしコロナ禍で自粛という波が押し寄せ、世知辛い世の中に巻き込まれるという物語だ。
コロナ禍──閉鎖的状況における演劇サークルの奮闘
3密の回避が叫ばれ、演劇やライブなどが次々と自粛を余儀なくされた昨年の夏。その中で大学生活という貴重な時間を過ごしていた大学生も多くいるだろう。その中で演劇サークルはどのように力を注ぎ、舞台の幕を上げようとしたのか。その閉鎖的状況の中でも奮闘する少年少女の姿が涙を誘う。本書が持つ魅力はそれだけではない。これまでの常識とは異なる「新たな生活様式」が導入されたことで変容する大学生活。それとともに変化する人間関係と気持ちが巧みに描かれることこそ、本書最大の魅力といえるだろう。
『Sonny Boy』でも閉鎖空間での少年少女の想いが描かれているが、『ニューノーマル・サマー』はよりリアルに、演劇活動を通して彼らの気持ちが伝わってくる。コロナ禍でも無事に舞台の幕を上げることができるのか? ハラハラしながら結末まで読む手が止まらない、至高の一冊だ。
そろそろ夏も空け、過ごしやすい気候へと移行する今日この頃。これから終盤へと差し掛かる『Sonny Boy』と、今だからこその臨場感を味わいながら楽しめる『ニューノーマル・サマー』。この2作を味わわずして夏は終われない。
©Sonny Boy committee
これも推したい! 今月のプラスワン
¥1,287
ある日、ひょんなことから映画青年・江渡木はゾンビが存在する異世界に転移してしまう。そして彼の前に現れたのはゾンビ化に抗体を持つ少女・アリス。江渡木は「アリスをヒロインにした映画」を撮影することを決意。ゾンビ映画あるあるに満ち溢れた世界を旅していく。ゾンビによって様々な事件に巻き込まれながらも、各地を冒険していくというロードムービー感。そして、自分が望む最高の映画を撮るためにひた走る少年と、彼が一目ぼれした美少女の出会いと交流というボーイミーツガール。この二者がクロスしていく様が楽しい。サブキャラクターも強烈なインパクトを残すものばかりで、400ページを超すボリュームも薄く思えるほどの傑作だ。
ある日、ひょんなことから映画青年・江渡木はゾンビが存在する異世界に転移してしまう。そして彼の前に現れたのはゾンビ化に抗体を持つ少女・アリス。江渡木は「アリスをヒロインにした映画」を撮影することを決意。ゾンビ映画あるあるに満ち溢れた世界を旅していく。ゾンビによって様々な事件に巻き込まれながらも、各地を冒険していくというロードムービー感。そして、自分が望む最高の映画を撮るためにひた走る少年と、彼が一目ぼれした美少女の出会いと交流というボーイミーツガール。この二者がクロスしていく様が楽しい。サブキャラクターも強烈なインパクトを残すものばかりで、400ページを超すボリュームも薄く思えるほどの傑作だ。
新たな作品との出会い探している人へ
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作品情報
Sonny Boy
- 監督・脚本・原作
- 夏目真悟
- キャラクター原案
- 江口寿史
- アニメーション制作
- マッドハウス
- キャラクターデザイン
- 久貝典史
- 美術監督
- 藤野真里(スタジオPablo)
- 色彩設計
- 橋本賢
- 撮影監督
- 伏原あかね
- 編集
- 木村佳史子
- Music
- 落日飛車 (Sunset Rollercoaster) VIDEOTAPEMUSIC ザ・なつやすみバンド ミツメ Ogawa&Tokoro 空中泥棒 カネヨリマサル toe コーニッシュ
- 音響監督
- はたしょう二
- 音楽アドバイザー
- 渡辺信一郎
- 主題歌
- 銀杏BOYZ「少年少女」
関連リンク
連載
毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。
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