連載 | #2 アニメーションズ・ブリッジ

アニメ『Sonny Boy』が描くSF群像劇+作画の面白さ 夏目真悟の現代版“漂流教室”

SF群像劇にとどまらないアニメーションの面白さ

明星(CV:内藤有海)。転移後の混乱した状況を立て直すべく、様々な場面で暗躍する/画像は公式Twitterより

執筆時点で放送された第6話まででいえば、たびたび描かれているのが口下手な少女・瑞穂と、クラスメートたちを裏で操ろうとしている明星(ほし)の衝突である。瑞穂は思っていることをストレートに言葉にしてしまうことがあり、ほかの生徒たちと軋轢が生じている。

そして明星は一見フレンドリーな性格であるもののその実は腹黒く、様々な事象を掌の上で操作しようと考えているのだ。この衝突は漂流以前からもあったものだが、周りに何もない孤島に転移した彼女らは、クラスメートを巻き込みながらその行き場のないストレスと欲求を露わにしていくこととなった。

これだけならばただのSF群像劇……となるのだが、それだけで終わらないのが『Sonny Boy』の面白いポイントだ。江口のデザインしたキャラクターが、独特の色彩とともにこれでもかと画面の中を動き回る。かといって中にはかなり抽象化された画もあって、その画づくりにとても目が惹かれるのだ。動くところは動く、そして動かないところは動かない。そのメリハリがとても心地よい。
『Sonny Boy』サウンドトラックトレーラー
加えて、キャラクターに視聴者のフォーカスを当てるためだろうか、キャストの演技と画に目が行くよう、劇伴が当てられる場面が少ないことも特徴の1つだろう。そして随所で物語を印象付けるべくtoeやミツメなど様々なアーティストの楽曲が、ストーリーを引き立てる。

昨今の深夜アニメでは珍しくOPとEDアニメーションがなく、各話のラストに主題歌がエンドロールとして流れるのも、ストーリーの合間に別の映像を流したくないという思惑かもしれない(もっとも尺の都合もあるだろうが)。
『Sonny Boy』ロングPV
2021年の新作でいえば、友人の救済というテーマを背負いつつエッグ世界で戦う少女を描いた『ワンダーエッグ・プライオリティ』やオープニングから広大な電脳空間でメインテーマ「U」を歌い上げる歌姫の姿が印象深い『竜とそばかすの姫』、難解なストーリーももちろんだがただただ観ていて楽しい『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』など、強い画で見る人を魅了する作品があったが、『Sonny Boy』はまさしくその流れ。

本作は難解で入り組んだストーリーと設定で構成されているが、シンプルに映像表現を眺めているだけでも心がウキウキしてしまうこと必至の作品だ。観ていて楽しいという感覚が真っ先に伝わる「アニメーション」なのである。

この物語がどこに辿り着くのかまったく予想がつかないが、今アニメで最も面白い作品の1つが『Sonny Boy』であることは疑いようもない事実だろう。

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作品情報

Sonny Boy

監督・脚本・原作
夏目真悟
キャラクター原案
江口寿史
アニメーション制作
マッドハウス
キャラクターデザイン
久貝典史
美術監督
藤野真里(スタジオPablo)
色彩設計
橋本賢
撮影監督
伏原あかね
編集
木村佳史子
Music
落日飛車 (Sunset Rollercoaster) VIDEOTAPEMUSIC ザ・なつやすみバンド ミツメ Ogawa&Tokoro 空中泥棒 カネヨリマサル toe コーニッシュ
音響監督
はたしょう二
音楽アドバイザー
渡辺信一郎
主題歌
銀杏BOYZ「少年少女」

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連載

アニメーションズ・ブリッジ

毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。

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