7月も終わりが近づき、今月からスタートした新作アニメも中盤へ差し掛かろうとしているところである。劇場では夏休みの大作映画こと細田守監督の『竜とそばかすの姫』が封切られ、庵野秀明総監督による『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の終映とあわせて話題を集めている。
そんな新作アニメの中には、小説やライトノベルを原作としたものも多い。刊行当時から人気を集めていて、遂にアニメ化、となる流れだ。あのシーンはどんな感じに演出されるのか、そしてあのキャラクターの声優は、そして主題歌は?──そんな期待と不安が混じった気持ちで今クールを迎えた人も少なくないだろう。
しかし、昨今のアニメやラノベの供給数を鑑みるに、すべてを追うのは正直厳しいところである。今月からはじまるこの連載では、アニメライターでもありライトノベルライターでもある筆者が、アニメとライトノベルを橋渡しする作品をピックアップ。「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」という1つの指針になれば幸いだ。
さて、そんな前提を共有しつつ、ファンとしても唸る開幕を繰り広げたTVシリーズの原作を紹介したい。二語十(にごじゅう)の『探偵はもう、死んでいる。』(MF文庫J)だ。通称『たんもし』は二語十のデビュー作で、7月現在までに5巻が刊行されている。
※本記事には『探偵はもう、死んでいる。』および『秘密結社デスクロイツ』のネタバレが含まれます。
文:羽海野渉=太田祥暉(TARKUS) 編集:恩田雄多
そして物語の時系列は現在──ハイジャックから4年後となり、君塚が通う高校で、凛とした女子高生・夏凪渚に声を掛けられる。
この作品の肝は、シエスタと死に別れたという事実が前提にあり、主要登場人物は彼女に受けた一種の呪縛に苛まれながら行動すること。そして、「探偵」とタイトルに入っているからこそのミステリー要素だけでなく、アクション、ラブコメ、青春ものと様々な要素が入り乱れることの2点にあるだろう。
また、シエスタや夏凪渚をはじめ、斎川唯、シャーロット・有坂・アンダーソンといった個性豊かなヒロインたちも魅力の1つである。TVアニメ『探偵はもう、死んでいる。』特報PV
TVアニメでは初回1時間スペシャルとして幕が開けた『たんもし』であったが、第1話前半部のハイジャックに遭った機内のシーンでは、シエスタがマスケット銃を撃つまでの一連のシーンを超絶技巧の作画で表現。原作ファンならずとも唸るカットだったのではないだろうか(PVでもその一端を確認できる)。
また、原作のプロモーションにも携わっていたホロライブプロダクションのVTuber・白上フブキと夏色まつりが第3話に登場。斎川唯のライブを告知する番組の出演者と役柄だったが、面白い試みであったことには違いない。
世界の危機を防ぐために組織された《調律者》の役職で、シエスタはそれに名を連ねているのである。そしてシエスタは《調律者》の1人として、宇宙から飛来した「原初の種」によって生まれた生物組織《SPES》と戦っていた。
……というところで、物語が第1巻冒頭に接続する。そう、飛行機をハイジャックしたのは、《SPES》の一員であるコウモリだったのだ。君塚の与り知らないところでこのような事実があり、読者は「そうだったのか!」と驚くことになる。
アニメ版ではシエスタと君塚がどのような冒険を繰り広げていたか、そして彼女にまつわるどんなキャラクターがいるのかに焦点が当たっている印象だが、原作ではどちらかといえば《調律者》と《SPES》の戦いがメイン。
その周りでラブコメや青春要素、鮮やかな言葉遊びが繰り広げられ、とても軽快に読み進めることができる。
ひと昔前にヒットした作品で言い表すならば、『灼眼のシャナ』や『とある魔術の禁書目録』といった学園異能アクションものにハマったことがある人にこそ読んでいただきたい作品だ。 現在刊行中の最新第5巻では、第1部が完結。シエスタと君塚の出会いに端を発した物語にもキリのいい結末が描かれた。アニメは1クールを予定されており、シエスタと君塚の冒険を随所に挿入する形で進行中。
原作の内容を膨らませる形で、君塚がシエスタを喪い、ヒロインたちがシエスタと君塚のことをどう考えているのかがクローズアップされる構成となっていて、原作小説とはまた異なる読後感を味わえるのがポイントだ。
また、音楽クリエイター・Nor(ノル)による斎川唯のキャラクターソングも心地よい。まさに原作(ラノベ)とアニメという「メディアの違い」を理解したうえで、アニメに最適化された『たんもし』を制作しているという気概を感じる。
第4話で描かれる斎川唯のライブシーン以降も、どのように物語が繰り広げられるのか楽しみなシリーズだ。
そんな新作アニメの中には、小説やライトノベルを原作としたものも多い。刊行当時から人気を集めていて、遂にアニメ化、となる流れだ。あのシーンはどんな感じに演出されるのか、そしてあのキャラクターの声優は、そして主題歌は?──そんな期待と不安が混じった気持ちで今クールを迎えた人も少なくないだろう。
しかし、昨今のアニメやラノベの供給数を鑑みるに、すべてを追うのは正直厳しいところである。今月からはじまるこの連載では、アニメライターでもありライトノベルライターでもある筆者が、アニメとライトノベルを橋渡しする作品をピックアップ。「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」という1つの指針になれば幸いだ。
さて、そんな前提を共有しつつ、ファンとしても唸る開幕を繰り広げたTVシリーズの原作を紹介したい。二語十(にごじゅう)の『探偵はもう、死んでいる。』(MF文庫J)だ。通称『たんもし』は二語十のデビュー作で、7月現在までに5巻が刊行されている。
※本記事には『探偵はもう、死んでいる。』および『秘密結社デスクロイツ』のネタバレが含まれます。
文:羽海野渉=太田祥暉(TARKUS) 編集:恩田雄多
目次
シエスタの死と、その呪縛に苛まれながら
物語が幕を上げるのは4年前の飛行機内。ハイジャックに遭った機内で、高校生の君塚君彦は可憐な名探偵・シエスタの助手に選ばれる。その事件鎮圧後、3年にわたって2人は世界中を旅し、目も眩むような冒険を繰り広げてきた。しかしある日、君塚はシエスタと死に別れる。そして物語の時系列は現在──ハイジャックから4年後となり、君塚が通う高校で、凛とした女子高生・夏凪渚に声を掛けられる。
この作品の肝は、シエスタと死に別れたという事実が前提にあり、主要登場人物は彼女に受けた一種の呪縛に苛まれながら行動すること。そして、「探偵」とタイトルに入っているからこそのミステリー要素だけでなく、アクション、ラブコメ、青春ものと様々な要素が入り乱れることの2点にあるだろう。
また、シエスタや夏凪渚をはじめ、斎川唯、シャーロット・有坂・アンダーソンといった個性豊かなヒロインたちも魅力の1つである。
また、原作のプロモーションにも携わっていたホロライブプロダクションのVTuber・白上フブキと夏色まつりが第3話に登場。斎川唯のライブを告知する番組の出演者と役柄だったが、面白い試みであったことには違いない。
アニメとの違いも楽しめる原作『たんもし』
ちなみに、これは読み進めていくと判明することであるが、シエスタの役職「名探偵」とは、ただ自称しているものではない。世界の危機を防ぐために組織された《調律者》の役職で、シエスタはそれに名を連ねているのである。そしてシエスタは《調律者》の1人として、宇宙から飛来した「原初の種」によって生まれた生物組織《SPES》と戦っていた。
……というところで、物語が第1巻冒頭に接続する。そう、飛行機をハイジャックしたのは、《SPES》の一員であるコウモリだったのだ。君塚の与り知らないところでこのような事実があり、読者は「そうだったのか!」と驚くことになる。
アニメ版ではシエスタと君塚がどのような冒険を繰り広げていたか、そして彼女にまつわるどんなキャラクターがいるのかに焦点が当たっている印象だが、原作ではどちらかといえば《調律者》と《SPES》の戦いがメイン。
その周りでラブコメや青春要素、鮮やかな言葉遊びが繰り広げられ、とても軽快に読み進めることができる。
ひと昔前にヒットした作品で言い表すならば、『灼眼のシャナ』や『とある魔術の禁書目録』といった学園異能アクションものにハマったことがある人にこそ読んでいただきたい作品だ。 現在刊行中の最新第5巻では、第1部が完結。シエスタと君塚の出会いに端を発した物語にもキリのいい結末が描かれた。アニメは1クールを予定されており、シエスタと君塚の冒険を随所に挿入する形で進行中。
原作の内容を膨らませる形で、君塚がシエスタを喪い、ヒロインたちがシエスタと君塚のことをどう考えているのかがクローズアップされる構成となっていて、原作小説とはまた異なる読後感を味わえるのがポイントだ。
また、音楽クリエイター・Nor(ノル)による斎川唯のキャラクターソングも心地よい。まさに原作(ラノベ)とアニメという「メディアの違い」を理解したうえで、アニメに最適化された『たんもし』を制作しているという気概を感じる。
第4話で描かれる斎川唯のライブシーン以降も、どのように物語が繰り広げられるのか楽しみなシリーズだ。
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連載
毎クールごとに膨大な量が放送されるアニメ。漫画やライトノベルを原作としたもの、もしくは原作なしのオリジナルと、そこには新たな作品・表現との出会いが待っている。 連載「アニメーションズ・ブリッジ」では、数々の作品の中から、アニメライター兼ライトノベルライターである筆者が、アニメ・ラノベ etc.を橋渡しする作品をピックアップ。 「このアニメが好きならこの原作も」、そして「こんな面白い新作もある」と、1つの作品をきっかけにまだ見ぬ名作への架け橋をつくり出していく。
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