AIによって生成された女優であるティリー・ノーウッドが、世界的な注目を集めている。
開発を手がけたのは、オランダ出身の俳優/プロデューサーのエリーン・ヴァン・デル・フェルデンさんが率いるAIプロダクション・Xicoiaと制作会社・Particle6。
ティリー・ノーウッドは10種類以上のAIソフトを組み合わせて生成され、7月30日にYouTubeで公開されたコメディ動画「AI Commissioner」に初出演。
さらに9月には、「チューリッヒ映画祭(Zurich Film Festival)」の産業会議「Zurich Summit」で“AI女優”として正式発表された。
AI女優ティリー・ノーウッド主演のコメディとは?
「AI Commissioner」は約2分間の風刺的な動画。舞台はテレビ局の企画会議で、AIが瞬時に数百の新番組案を生み出し、人間のアイデアを駆逐していくという内容だ。
劇中には「AIが生成した番組」として、視聴者の配信履歴や宅配履歴を基に構成するスリラーや、観客投票で誰がセラピーを受けるか決めるなど、ブラックユーモアに満ちた企画が次々登場する。
脚本はClaude 3やGemini、ChatGPTなどの会話型AIを活用しており、出演者としてキャスティングされたのがAIによって生成されたティリー・ノーウッドというわけだ。
公開後、YouTubeでは2か月で約44万回の視聴を記録。ティリー・ノーウッド名義のInstagramでも「初出演」を報告するなど、“女優”としての存在感を演出している。
ハリウッド俳優や俳優組合はAI女優に反発
このAI女優のデビューは、ハリウッドに大きな波紋を広げた。
全米俳優組合のSAG-AFTRAは「ティリーは俳優ではなく、感情も経験も持たないキャラクターであり、制作側はギルドの契約義務を必ず守れ」と非難。
俳優のエミリー・ブラントさんは「人間的な繋がりを奪わないでほしい」と懸念を示し、同じく俳優のナターシャ・リオンさんは「AIキャラクターを扱う事務所とはボイコットすべき」と強硬な姿勢を取った。
さらに、ウーピー・ゴールドバーグさんはトーク番組で「複数の俳優の特徴を混ぜたもので、観客として本物の感情移入はできない」とコメントしている。
AI女優制作者は「芸術の一形態」と声明を発表
こうした一連の批判を受け、AI女優を開発したエリーン・ヴァン・デル・フェルデンさんは、ティリー・ノーウッドのInstagramを通じて声明を発表。
「ティリーは人間の代替ではなく、芸術の一形態だ」と強調し、AIを「新しい絵筆」に例えた。
エリーン・ヴァン・デル・フェルデンさんが公開した声明/画像はInstagramより
また「AIキャラクターは人間の俳優と直接比較すべきではなく、それぞれ独自のジャンルとして評価されるべきだ」と述べ、芸術的多様性の一部として受け入れてほしいとの立場を示した。
Neuro-samaやTokyo Ninja、揺れるエンタメとAIの未来
AI女優ティリー・ノーウッドはまだ本格的な映画出演には至っていないが、俳優という職業とAIの関係を問う象徴的な存在となっている。
ネットカルチャーの世界では、AI VTuberのNeuro-samaが2022年12月から活動を開始。エキセントリックな言動で現在でも多数の視聴者を集め続けている。
生成AIを活用した動画としても、「琵琶湖の水を飲み干す」などの“人間には絶対できない”企画をAI映像で表現するYouTubeチャンネル「Tokyo Ninja」が2025年7月から話題に。生成AIを用いたエンターテイメントはより身近なものになっている。
芸術表現の拡張か、それとも俳優の仕事の危機か。AIと人間の演技の境界を巡る議論は、今後さらに熱を帯びていきそうだ。

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