1話1ページ目からサスペンス全開 誰かの天国と地獄を描く『パーフェクト グリッター』
『パーフェクト グリッター』で主役となるのは、自分に自信が持てない20歳のフリーターのモモ(桃子)と、彼女が憧れてやまない“大好きな女の子”・イチカです。
第1話は主に2人の出会いのお話なのですが、1ページ目から何らかの事故(?)現場が描写されていて不穏さ全開。
「時を戻せるなら 出会いから やり直したい」というモノローグが、その後に描かれるモモとイチカの出会いに影を落とし続けます。
公式のあらすじには、「憧れのあの人と出会い始まった天国と地獄。その行き着く先は…」との一文が。公式に2人の出会いは地獄を招くと表現されているので、どう考えてもトラブルは避けられないようです。
では、誰にとっての天国と地獄なのか?
ストレートにモモかイチカにとっての天国と地獄なのか、2人共にとってのそれなのか。あるいはまだ出てきていない誰かにとっての天国と地獄になる可能性も捨てきれません。
この謎に深く関わってくるであろう出来事が、先程から触れている1ページ目の事故(?)現場らしき描写です。
血痕の付いた右腕と画面が粉々になったスマホなどが描かれているのみで、誰が被害者なのか、少なくとも現時点では不明。か細い手首から女性らしきことがわかるぐらいでしょうか。
となると、モモかイチカが被害者の可能性が高いところまでは推測できます。何にせよ今後の展開はすべて、1話1ページ目の場面に収斂していくと思われます。
『明日カノ』第4章と似た登場人物の立ち位置、決定的に違う関係性
『パーフェクト グリッター』を読んでいてどうしても頭をよぎるのが、『明日カノ』第4章「Knockin’on Heaven’s Door」の主人公・真矢萌とゆあてゃです。
平凡な日々を送っていた萌が、ホス狂いのゆあてゃに影響されホストの沼にずっぷりハマり、貢ぐためにデリヘルで働きはじめ、通っていた大学も辞めてしまう。萌はもう散々に傷つくのですが、そんな毎日は刺激に満ちていて楽しいものでもあった──これが『明日カノ』第4章の大筋です。
萌はゆあてゃと出会ったことで、天国と地獄を経験したと言えます。この2人の関係性が『パーフェクト グリッター』と通じているように思えるんです。
2人の出会いが人生を激変させる筋書きや登場人物の立ち位置も、萌をモモ、ゆあてゃをイチカに当てはめるとしっくり来ます。
萌とゆあてゃの第4章は『明日カノ』でも特に人気のあるエピソードでした。刹那的な快楽と友情、そして別れをドラマチックに描いたつかの間の関係を、サスペンスという題材で新たな描こうとしているのではないか。
ただし、大筋は同じでも友人だった萌とゆあてゃと、ファンと推しであるモモとイチカでは立場が異なります。
例えば、いちファンが直に推しと触れ合うことによって弊害は起きないのか? という点。
SNSの向こうでは完璧に見えていたイチカのネガティブな面を知った時に、モモが何を思うのか。偶像が実像になり、日常になった時に何が変わるのか。
距離の近すぎるファンと推しという一種歪な構造が、鍵を握ってくるように思えてなりません。
をのひなおが撒いた不安の種 疑心暗鬼に陥らざるを得ない読者
エピソードの序盤で不穏さを煽る演出は、『明日カノ』でも多用されていました。序盤で植えた不安の種をじっくり育てて、最高(最悪とも言う)のタイミングで開花させるストーリーテリングの妙こそ、をのひなおさんの誇る作家性です。
思えばこれって、常に穏やかではない雰囲気を漂わせるサスペンスを盛り上げる手法としても効果的です。『パーフェクト グリッター』でも新しい登場人物が出てくるたびに、「こいつは悪いやつなんじゃないか……」と、疑心暗鬼に陥りながら読んでます。完全にをのひなおさんの術中にハマっている。
だからこそ冒頭で、サスペンスこそ、をのひなおさんの作家性をより発揮できる題材だと書きました。
『明日カノ』でも凄まじい筆致を魅せてくれたをのひなおさん。『パーフェクト グリッター』も、すでに今後がめちゃくちゃ楽しみです。
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