気づけば年の瀬! というわけで、KAI-YOUで年間数百冊の漫画を嗜む筆者・ゆうきによる「ヤバかった漫画大賞2024」を発表します(実はもう3回目です!)。
選考基準は独断と偏愛です。
2024年に単行本が刊行されたものを対象に、「これはヤバい……!」と震えた漫画をピックアップしました。
『惑わない星』『宝石の国』などクライマックスを迎え完結したものから、連載開始から1年ほどの『ねずみの初恋』といった比較的新しい作品まで、厳選した10タイトル+番外編の1作を紹介します。
ちなみに、前回2023年に選ぶ一冊は『よふかしのうた』。2024年に完結した本作、最高の幕引きでした!
目次
大瀬戸陸『ねずみの初恋』
『ねずみの初恋』は、ヤクザお抱えの殺し屋である少女・ねずみと、彼女に一目惚れした青年・碧の恋模様を描く漫画です。感情を殺し粛々と“仕事”をこなすねずみが、碧の前で見せるあどけない表情のギャップがエグい。
1巻(電子)の初月売り上げが掲載誌『週刊ヤングマガジン』の作品で歴代トップになったのも頷けるインパクトがあります。
そんな本作の何がヤバかったって、単行本で言えば3巻の半分ほどを費やしたねずみと大量のヤクザによる戦闘シーンです。一方的に大の男たちを屠っていくねずみを、硬軟織り交ぜた構図と演出で表現した、その全てが神がかってました。圧倒的な筆致に今年一番食らいました。
阿賀沢紅茶『正反対な君と僕』
物静かだけど自分の意見を言える谷と、元気いっぱいだけど周囲の目が気になってしまう鈴木。正反対な2人によるポップでキュートな学園ラブコメディ『正反対な君と僕』は、12月に完結したばかり。そして祝! TVアニメ化決定!
2026年1月からのアニメ放送が待ち遠しい本作は、2024年春から高校3年生編に突入。卒業後の進路という難題が物語に介入し、共感性の高さに定評のある本作がよりシンパシーを感じる展開に。恋だけにかまけてられない主人公たちの姿にやきもきしました。
最終的に谷&鈴木を含めた3組の正反対な男女が、各々の関係性に落ち着いたラスト。名前が付けられる関係が全てじゃないというメッセージが刺さりました。合掌。
武田スーパー『誰でも抱ける君が好き』
誰にでも抱かれるヒロインと欲望に忠実な主人公が織りなすR指定なラブコメ『誰でも抱ける君が好き』は、2024年一番の問題作で愉快作でしょう。
作者・武田スーパーさんが「やっぱり◯Pが描きたい!」と熱望し(面白すぎる)、『週刊ヤングマガジン』に掲載された31話〜35話をつくり直した件が話題になりました。新旧で流れが全く変わっており、思い切った決断がどう作用するのか。作者の赴くままにやりきってほしいので全力応援。
ちなみに、なかったことになったエピソードは、本来発表されていたはずの続編1話と作者の読切「くらし」(この読切はマジでヤバいです!)を追加した特別版に収録されています。
泰三子『だんドーン』
警察官のブラックコメディ『ハコヅメ』を手がけた泰三子さんが、近代警察の礎を築いた川路利良を主人公にした幕末史『だんドーン』。薩摩藩で主君に仕える川路が、後世に名を馳せる西郷隆盛や大久保利通と激動の幕末を生き抜きます。
とにかく桜田門外の変がヤバかった。時の大老・井伊直弼が暗殺される有名な事件なので結果を知りながら読んだのですが、それでも鳥肌が止まりませんでした。世に知られた出来事をこうも劇的に表現できるのかと驚くばかり。
桜田門外の変以降も幕末は物騒な事変だらけで、主役級の活躍を見せる西郷隆盛らの顛末がすでに気にかかります。今から戦々恐々です。
つくみず『シメジ シミュレーション』
夢と現実が入り混じったような曖昧、不気味、不可解な世界で、2人の少女が不思議な現象に遭遇する『シメジ シミュレーション』。
自然物のようで人工物のような謎の石が街中に点在する変な街が舞台で、中盤以降は校舎がひっくり返ったりと何でもあり。無軌道さに拍車がかかる中、最終5巻は、離れ離れになった2人の主人公が試練に向き合う旅を中心に描かれます。
作者の前作『少女終末旅行』の主人公コンビによく似た人物が終盤まで登場するなど、ほんのりとした繋がりが感じられた点も興味深く、所々で本作の主人公コンビと対比されていたようにも思います。両作セットで何度も読み返したい。
石川雅之『惑わない星』
代表作『もやしもん』の続編が話題の石川雅之さんによる惑星擬人化漫画『惑わない星』は2024年夏、約9年に及ぶ連載に幕を閉じました。
今より遙か未来の地球、汚染され尽くした外界と隔絶されたシェルターに引きこもった日本人たち。その中でただ1人、宇宙に手紙を送るというよくわからない仕事に就いた男が、自称・地球を名乗る女性と邂逅。地球を助けてくれと頼まれ、以来続々と飛来する人の姿をした惑星たちと巡り合うことに。
理解できない出来事の連続に惑う人間と、惑わない星たちの愉快な日々は、絶滅の危機に瀕しながら争いを止めない人間たちの動乱で終わりを迎え……。絶望の淵の際も際まで追い詰められた人間を、手厳しくも暖かく叱咤するあの人の言葉に喝采。
市川春子『宝石の国』
にんげんが存在した時代が遥か過去となった未来を舞台に、人型の宝石と、月から飛来して宝石たちを拐う月人との戦いを描いた『宝石の国』。読者の感情をぶん回す物語は、Xでもたびたび話題に。2024年完結。休載期間を含め、振り返れば12年もの長期連載でした。
『宝石の国』はとにかく主人公であるフォスに厳しい漫画で、見方によっては最後の最後まで救いがなかったキャラクターです。
推し活全盛の今、キャラの人気と扱いが作品の評価に直結してしまう時代。徹底してフォスに受難を与えたことに、賛否が分かれることは想像できたはず。それでも描きたいものを貫徹した市川春子さんの意思の強さにグッときました。善悪とか幸不幸なんかを超越した結末はまさに万感です。
瀬野反人『ヘテロゲニア リンギスティコ 〜異種族言語学入門〜』
人間の言語学者が、ワーウルフ、スライム、ドラゴン、クラーケンといった多種多用な魔物が暮らす魔界を旅する『ヘテロゲニア リンギスティコ 〜異種族言語学入門〜』。
人の言葉は通じず、魔物の間で共通言語もない。身体的特徴も千差万別のため視覚や聴覚に訴える意思疎通の方法も通じない。正直八方塞がりな状況で、それでも懸命に理解に努める主人公が、他者との途方もない溝を埋めるべく奮闘します。
現状の最新話では成り行き任せな茫洋とした旅の最中で、まさかの出会いが訪れた場面で終わっており、先が非常に気になる。作者・瀬野反人さんの公式サイトでは次の7巻から旅も折り返しと説明されており、波乱がありそうでワクワク。魔物を資源と見る人間界の動きに悩む主人公が出す答えはいかに。
泉光『図書館の大魔術師』
2024年最高潮の盛り上がりを見せた漫画『図書館の大魔術師』。
智の守り手である図書館の司書を目指す少年少女たちが、見習い期間の集大成を見せるべく総力をあげて挑む自主制作の本づくり。2023年から続いてきたエピソードで、キャラクターたちそれぞれに見せ場をつくり、見習い期間で大きく成長した姿を見せつける熱い展開が続きました。
そして、長らく主人公が悩んでいた進路を決断。他のキャラクターたちも行く道を定め、いよいよ司書としての本番が目前。作中世界の転覆を目論む勢力の存在や図書館内の内政など伏線も丁寧に貼られてきたため、来る新章が楽しみでなりません。
まどめクレテック『生活保護特区を出よ。』
1945年大戦後、荒廃した日本は生活保護特区・マントラアーヤを創設。以来、能力不振や障害等で自立困難な者を集め管理しているという架空の日本が舞台の『生活保護特区を出よ。』。
時は2018年、友人と呑気に過ごしていた高校生・フーカが突然特区に送られて、貧困、差別、格差に直面する物語です。最新4巻は、仲間たちと共有する美しい瞬間がある一方で、死がすぐ近くにあるという正負のコントラストが特に鮮烈でした。
特区に移った当初は困惑してばかりだったフーカが、知人の死を冷静に受け止めるまで特区の生活に慣れたこと、かつて住んだ“本土”への意識の変化/反骨が緩やかに描写され、物語として節目を迎えた感あり。タイトルの意味するところが少しずつ明らかになりそうで、続刊が待ち遠しい。
まえだ永吉『令和6年能登半島地震体験記』
最後に、ヤバかった漫画という趣旨からは外れるのですが番外編として、2024年の読むべき一冊を。1月1日に起きた能登半島地震を現地で体験した漫画家・まえだ永吉さんのコミックエッセイ『令和6年能登半島地震体験記』です。
発生時に川の水が振り子のように揺れる目を疑う光景や、濃霧で視界不良のなか亀裂だらけの道を車に乗って命がけで運転した話など、現地にいた人にしかわからないエピソードの数々が収録されています。
また、監修/解説の防災アドバイザー・高荷智也さんの言葉を借りると、メディアでも目にする機会が少なく、かつ大多数が当てはまる在宅避難者の声が知れる貴重な資料です。南海トラフ地震の危険性も見逃せない昨今、読んでおくべき。
この記事どう思う?
0件のコメント