ヒップホップとメタバースと生成AIのプロンプト──この3つだけでも情報が渋滞を起こしそうな上に、「ストグラ」「MadTown GTA」などのストリーマーサーバーの影響も色濃く受けた漫画。
そんな異色の“サイバーSF”Webtoon(縦読み漫画)『リバースクロス -プロンプトの魔術師-』(通称・リバクロ)が、11月19日から各漫画配信プラットフォームで連載をスタートした(外部リンク)。
バックボーンにあるのは、ソニーミュージックグループが2022年に立ち上げた仮想空間上での音楽プロジェクト「ReVers3:x(リバースクロス)」。そこから生まれたバーチャルアーティスト/ラッパー・ICQ(イコ)を主人公に、感情さえデータ化された世界で“失われた文化”を探す物語が描かれる。
様々なカルチャーをミックスした漫画の脚本を手がけるのは佐藤大さん。『サムライチャンプルー』『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』『交響詩篇エウレカセブン』などの脚本に参加したことで知られ、音楽への造詣が深い脚本家だ。
今回は、佐藤大さんと『リバクロ』の企画を担当する三浦紹さんの2人にインタビュー。Webtoonとしては異色のSF×音楽を掛け合わせた作品がスタートした背景、そして、作品に込めたという“文化や歴史が簡単に失われる現代”への思いを聞いた。
取材・文:フガクラ 編集:恩田雄多(KAI-YOU)
目次
縦読み漫画『リバクロ』のテーマはヒップホップ×仮想空間×AI
──2022年の仮想空間プロジェクト「ReVers3:x(リバースクロス)」から3年、新たにWebtoon企画が始動した経緯を教えてください。
三浦紹 もともと社内で「音楽を主軸にしたWebtoonをつくろう」という話があったんです。その話を聞いたときに、「ReVers3:x」のテーマとリンクさせるアイデアを思いつきました。
「ReVers3:x」のキャラクターであるICQや、“20XX年のデジタライズされたバーチャル空間”という設定を引き継ぎつつ、今回発表したWebtoonという新しい企画が立ち上がった、という流れになります。
『リバースクロス -プロンプトの魔術師-』世界観コンセプトアート
──「ReVers3:x」そのものには具体的な物語は存在しません。企画当初から、今回のWebtoon『リバースクロス -プロンプトの魔術師-』(以下、リバクロ)の物語は、どのように形づくられていったのでしょうか?
三浦紹 企画を進めていく中で、『リバクロ』の基本コンセプトは大きく三つのテーマ──「ヒップホップカルチャー」「XR/VRに代表されるメタバース世界」「AIとプロンプト技術」──を横断するWebtoon作品、という方向性が固まっていきました。
このコンセプトを十分に理解した上で、きちんとエンターテインメントに昇華してくれる脚本家を誰にお願いするか考えたとき、『サムライチャンプルー』や『交響詩篇エウレカセブン』を手がけた佐藤大さんしかいない、と思ってオファーしたんです。
ソニー・ミュージックエンタテインメントの三浦紹さん
佐藤大 ご相談をいただいた当初は、物語の部分がまだ手探りの段階だったんですね。そこで企画のかなり初期の時点から打ち合わせに参加させてもらって、まずはスタッフのみなさんの「好きなもの」「興味のあるもの」をどんどんリストアップしていきました。
その中で出てきたキーワードの一つが「ディグ」です。近年、山下達郎さんや吉田美奈子さんたちのシティポップ・リバイバルが起きているように、「過去のものを今に掘る=ディグる」という行為が改めて注目されていますよね。
もともとの「ReVers3:x」の設定にも、「2020年代に生きたラッパーのメッセージをディグする」という要素があったんです。そこから発展させる形で、ラッパーのICQが率いるチームとしての「ReVers3:x」が、情報集積都市〈TOKYO:M〉(トキオエム)の奥深くに眠る失われたデータを探し出す“探偵もの”としての物語を構築していきました。
佐藤大さん
■『リバースクロス -プロンプトの魔術師-』あらすじ
情報集積都市〈TOKYO:M〉(トキオエム)。感情さえデータ化され、プロンプトによってすべてが創られる未来で、人々はエモ値を競いながら生活を送っていた。そんな街で人々が噂するのは、ICQ(イコ)とその仲間たち〈ReVers3:X〉。感情を持たないICQのリリック=プロンプトは世界に新たな感情を実装する力を持っていた。ある日、〈ReVers3:X〉に「とあるプロンプトを見つけてほしい」という依頼が舞い込んできて・・・。──近未来を舞台にリリックで世界を創り出す、新たなる“音楽×サイバーSF”開幕。
ヒップホップ文化をベースにしたキャラクターづくり
──オファーを受けた時点で、ICQというキャラクターに対して佐藤さんはどのような印象を抱きましたか?
佐藤大 イラストレーターの菊/KICDOCさんによるICQのキャラクターデザインと、すでにリリースされていた楽曲の資料をいただいたときに、ICQ自身はどこか謎めいていて、内向的な一面も持つキャラクターだと感じました。
それから、「探偵もの」の物語としてICQが“探偵役”を担うのであれば、ワトソン的な「助手役」が必要になるだろう、と考えたんです。そこで、『リバクロ』におけるもう一人の主人公であるユウが生まれました。
『リバースクロス -プロンプトの魔術師-』のもう一人の主人公であるユウ
佐藤大 さらに、作品のベースにはヒップホップカルチャーがあるので、タギングアーティストのK(ケイ)や、大柄なDJのスクラッチ、女性ダンサーのトリック、マスコット的NPCの808(ヤオヤ)といったキャラクターたちを、カルチャーの要素を反映させる形でつくり込んでいきました。
「ICQはいったいどんな子なんだろう?」という、企画当初に自分自身が抱いていた興味を補うように、周囲のキャラクターが決まっていったイメージです。
『リバースクロス -プロンプトの魔術師-』でICQが率いるチーム「ReVers3:x」のキャラクター。中央から時計回りにICQ、K、スクラッチ、808、トリック
──作中のユウも同じように、謎めいたICQに近づこうとするところから物語が動き出していきます。読者とユウが同じ視点を共有しているからこそ、物語に没入しやすい印象がありました。
佐藤大 『リバクロ』には、ガジェットやカルチャー的な要素が大量に詰め込まれているのですが、物語の芯はとてもシンプルだと考えています。主人公のユウは、憧れの人たちに会いに行って、そこで友情が生まれる。『交響詩篇エウレカセブン』も、究極的にシンプルに説明すると「14歳のとき、初恋の相手が宇宙人だった」という話なんですが、それに近い感覚ですね。
ユウは、未知のバーチャル世界や文化をまだ知らない読者を連れていく“案内役”でもありますが、『リバクロ』全体を彼女自身の成長物語として読めるように意識しています。
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