『リバクロ』は「VCR」「ストグラ」からの影響を色濃く受けた
──『リバクロ』に登場するメタバース世界は、『攻殻機動隊』のようなハードSF寄りのバーチャル空間というよりも、オンラインゲームのような雑多で賑やかなムードが印象的です。世界観の設定にあたって、参考にした作品や文化はありますか?
三浦紹 トラヴィス・スコットが2020年に『フォートナイト』上で行ったバーチャル・ライブなど、近年話題になったオンライン上のイベントは、スタッフ同士で資料として共有していましたね。
佐藤大 あとは個人的に「VCR」や「ストグラ」、「MadTown GTA」(※ストリーマーによる『Grand Theft Auto V』のゲーム実況配信企画)などの文化から、セリフの使い方や世界観まで多くの影響を受けました。
コロナ禍以降のタイミングでネット配信が急速に広まる中で、異なるジャンルや職種の人たちが融合して、どんどん新しくて面白いコンテンツが生まれていった感覚があって。その象徴的な例が「VCR」「ストグラ」「MadTown GTA」だったと思います。あの文化は本当に面白いですね。
──『GTAV』ロールプレイサーバー系のコンテンツの名前が挙がるのは意外でした。生配信コンテンツのどのような点に惹かれるのでしょうか?
佐藤大 ロールプレイ系のゲーム実況配信は、最高の物語がリアルタイムで生まれている感覚があるんです。ストリーマーやVTuber以外にも、今だと声優の花江夏樹さんや水曜日のカンパネラの詩羽さんなども参加して、本当にジャンルの壁がないじゃないですか。
昔のバラエティ番組の生放送みたいに、ゲーム上のあらゆる場所で、いろいろなVTuberや実況者たちが雑談やコントをしていたり、歌い手の人たちがライブをしたり、時にはドラマが繰り広げられたりする。
個人的に、ズズさんが橘ひなのさんに向かって一発ギャグを披露しているくだりが好きで、よく切り抜きを見ています(笑)。
佐藤大 そういう、雑多かつ同時多発的に物語が生まれる世界観に興味があったんです。だから『リバクロ』のメタバース世界は、一人のアーティストのライブを全員で鑑賞する形式よりも、『GTAV』サーバー系配信のように複数の出来事や人物を、様々な視点・時間軸から眺めていくような雰囲気にしました。
ICQをはじめとした主人公チームのライブが“突発”と称して行われるのも、その影響ですね。『リバクロ』のバックボーンには、いくつもの配信枠を同時に立ち上げて、それらをダラダラと眺めているときの感覚が、かなり色濃く反映されていると思います。
漫画では“突発”と称してゲリラ的にライブがスタートする
文化や歴史が簡単に“ロスト”する時代──ディグって残す必要性
──Webtoonの人気作には「異世界転生もの」や「破滅回避型ロマンスもの」など、ある程度決まったジャンルが多い印象ですが、お話をうかがっていると、『リバクロ』の物語はどれにも当てはまらないチャレンジングな作品だと改めて感じます。
三浦紹 題材が決まった段階で、「これはかなり異質な作品になるな」という予感はありました。制作の途中でも、「もう少し人気ジャンルに寄せた方がいいのではないか?」という議論は何度かあったんです。
でも、最終的にはWebtoonのセオリーはいったん脇に置いて、「自分たちが本当に面白いと思う方向に、イラストと脚本を振り切ってしまおう」という結論になりました。
近年はAI技術も発展して、アルゴリズムによるレコメンドを受動的に消費していく風潮もますます強くなっています。そうした時代の中で、『リバクロ』という物語を通じて、自分の好きなものを主体的にディグしていく姿勢や、自己表現の尊さを肯定したい──そんなメッセージを届けられたらいいなと思っています。
『リバースクロス -プロンプトの魔術師-』のワンシーン
佐藤大 自分から主体的に探しに行かないと、文化というものは本当に簡単にロストしてしまうんです。
たとえば2000年代初期のブログ文化は、今まさにインターネット上からすごい勢いで消滅している。個人ブログに書かれていた貴重な記録やテキストが、サービス終了と共に丸ごと失われてしまった例は、僕の周りのライターにもたくさんあります。
2000年代の渋谷・宇田川町には、世界中のレコードが集まっていましたが、そこに何があったのかという情報は、今ほとんど残っていないですよね。一方で、紙媒体や同人誌は何十年と経ってもまだ残っている。「人が何かを残そうとするとき、最終的にはアナログなものが残る」という状況に、ずっと興味があるんです。
その感覚が、『リバクロ』における“ディグる”という行為とも重なっていきました。歴史が忘れられてしまうことへの恐怖と、「それを正しく残していく人間が必要だ」という思いが、物語のベースにあります。
漫画には仮想空間上の“ミラーワールド”として、2000年代の渋谷・宇田川町が登場
この記事どう思う?
関連リンク

0件のコメント