「VCRやストグラの影響を受けた」佐藤大が語る、異色のサイバーSF漫画『リバクロ』が生まれた理由

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“プロンプト”という名のリリック──『リバクロ』では歌人が制作

──今回のWebtoonの特徴として、「プロンプト」と呼ばれるリリックを詠むことで、メタバース世界に新しい感情や現象を生み出せる、という設定があります。このアイデアはどのように生まれたのでしょうか?

佐藤大 企画を進めている時期と、生成AIとプロンプトエンジニアリングが一気に普及していったタイミングが重なっていたんです。

数式やプログラミングではなく、語彙力によって様々なアウトプットを生み出す「プロンプト」という概念が、ラップのリリックによって人の感情を揺さぶる行為と非常に相性がいいと感じました。

一方でラップは、基本的にコンテクストの勝負ですよね。ただ、Webtoonの尺の中で、キャラクターごとのリリックの背景を丁寧に描こうとすると、どうしてもページ数が足りない。

『リバースクロス -プロンプトの魔術師-』キービジュアル

──たしかにヒップホップでは、OZROSAURUSのMACCHOさんの「どの口が何言うかが肝心」(※楽曲「Beats&Rhyme」より)という有名なリリックがあるように、ラッパーの人生や立ち位置をリスナーと共有した上でリリックを読むことが、とても重要視されています。

佐藤大 そこで、「歌人にラップのリリックを書いてもらう」というアイデアを提案しました。作中の「プロンプト」に必要な“言葉の飛躍”を表現するのであれば、形式としてラップにこだわるよりも、短歌というフォーマットの方が面白いのではないかと考えたんです。

そこで、シティポップを題材に短歌をつくっている歌人の伊波真人さんにお声がけしました。

三浦紹 伊波さんには『リバクロ』の脚本会議にも参加していただきました。会議の中で、佐藤さんが「ここで心を閉ざしそうになっている」や「その感情を攻撃に転じる」といった形で、物語上のシチュエーションを提示するんです。

それをお題として、伊波さんが一本の短歌にしていく、という方法でした。作中でキャラクターたちが発する「プロンプト」は、すべて伊波さんにつくっていただいています。

『リバースクロス -プロンプトの魔術師-』のバトルシーンの一部(順序は右から左)

佐藤大 昔、いとうせいこうさんが「俳句は日本におけるラップの原点だ」とおっしゃっていたことがあったのですが、その意味が今回の企画を通して強く理解できました。

それに、いとうせいこうさんやスチャダラパーといった黎明期のラッパーたちは、日本語のリズムに落とし込むときに、無意識のうちに五・七・五・七・七的な感覚を参照していたのではないかと思うんです。

その感覚が、『リバクロ』のバトルシーンにも自然と入り込んでいる気がします。さらに、Webtoonが完成したあとで気づいたのですが、画面が縦に連なっていくWebtoonの形式は、俳句や短歌の形式とも相性がいいんですよね。

特にラップバトルのシーンでは、自分と相手の短歌が交互に連続していく構造になっていて、「平安時代の“連歌”みたいだな」と感じました(笑)。

Webtoonの特徴は、『攻殻機動隊』の名シーンに通ずる

──縦スクロールのWebtoonという形式だからこそ可能になった表現ですね。佐藤さんはアニメだけでなく、実写ドラマや漫画原作など、様々なメディアやプラットフォームで作品を発表されています。Webtoonという形式には、他にどのような違いを感じましたか?

佐藤大 人間の目は横に並んでいるので、視線を縦方向に動かすときには、大きく眼球を動かす必要がありますよね。そのぶん引っかかりが生じる。

だから漫画やアニメ、映画などで縦方向の動きが使われるのは、感情が大きく揺れる瞬間や、シーンの転換点のようなところが多いんです。『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』で草薙素子がビルの屋上から飛び降りるシーンが強く印象に残るのも、そのためだと思います。

『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』予告

佐藤大 対してWebtoonでは、その縦方向の動きが“デフォルト”になる。派手なアクションシーンとは非常に相性がいい一方で、1画面内に同時に描けるキャラクターの数は、従来の漫画やアニメに比べるとかなり限られてしまう。

そのため、各話ごとに「今回はこのキャラクターだけを動かす」といった風に、フォーカスする登場人物を絞って構成していく必要がありました。

──Webtoonと漫画/アニメでは、ユーザーが作品を読むときの「時間」の感覚も異なる印象もあります。

佐藤大 そこは大きな違いがありますね。漫画の場合、コマの大きさや配置によってある程度「時間」をコントロールできますが、それでも細かく制御できるわけではありません。

一方、Webtoonは縦に絵をレイアウトしていく際の「距離感」や、一つひとつのコマの長さによって、読者が画面をスクロールするときの時間感覚を、かなり緻密にコントロールできる。

コマ割りの概念自体は漫画に近いのですが、「時間のコントロール」の感覚は映像に近く、その二つが同時に成立している点がとても面白いと感じました。

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