Kindleストアで7月17日(水)まで、「早川書房 夏のKindle超ビッグセール」が開催されています。
セールの対象作品はなんと3000点以上!
この記事では対象作品の中から、実写ドラマ配信で再び脚光を浴びるSF大作『三体』や、SF大賞を受賞した長谷敏司さんによる『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』など、おすすめの12作品をピックアップしました。
簡単な紹介と共に掲載しているので、購入の参考にご活用ください。
劉慈欣「三体」シリーズ
2023年10月にテンセント、2024年3月にはNetflixによる実写ドラマが配信され、改めて話題になりまくった大作SF「三体」シリーズ。
中国の文化革命からはじまり、科学者たちの相次ぐ自殺、奇妙なVRゲームに隠された謎、次第に明らかになる宇宙規模の脅威と、壮大なスケールで描くハードSFです。
1巻だけもあまりの物量にたじろぎ挫折するかもしれません。しかし、そこさえ乗り越えれば、世界中を興奮させた傑作の扉が開きます。まずはぜひ、1巻だけでも手に取ってみてください。
著者・劉慈欣さんの長編デビュー作『超新星紀元』もセール中なので、こちらも併せてどうぞ。
逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』
「第11回アガサ・クリスティー賞」大賞を受賞して2021年11月に刊行された、逢坂冬馬さんデビュー作です。
発売前から書店員、作家、書評家から高く評価され、勢いそのままに、第166回直木賞の候補となり、2022年4月には本屋大賞を受賞しました。同年12月までに50万部を突破したベストセラーです。
第二次世界大戦中の独ソ戦が激化する1942年、ロシアの農村に暮らす少女がドイツ軍による襲撃で家族を失い、復讐を誓います。
一流の狙撃手を目指して訓練を重ね、ついに前線へ赴いた主人公は、死臭漂う戦場で何を見るのか。ただの復讐譚では終わらない傑作です。
伴名練『なめらかな世界と、その敵』
寡作ながら手がける作品が多くの読者・識者を魅了してきた伴名練さんによる短編集にして代表作です。
並行世界を巡る少女たちの青春を描いた表題作「なめらかな世界と、その敵」や、伊藤計劃さんの『ハーモニー』へのリスペクトを捧げた「美亜羽へ贈る拳銃」など、全6篇を収録しています。
個人的に特筆すべきは文章表現の柔らかさ。比較的読む人を選ばない文体だと感じます。読むに当たって構えず、リラックスして個々の作品世界にダイブしてみてください。必ずお気に入りの一作が見つかるはずです。
安野貴博『サーキット・スイッチャー』
AIエンジニアである作者が、自動運転が完全に普及した2029年の近未来を、説得力とリアリティをもって描き出しています。
自動運転のアルゴリズムを開発する会社の社長が、自動運転車の中で突如として拘束。襲撃犯は首都高の封鎖を要求するなど、テロ事件に発展していきます。この事件の最中で、自動運転のアルゴリズムの謎を究明するスリリングな展開の作品です。
なお、作者の安野貴博さんは都知事選へ無所属個人で立候補しており、何かと注目を集めている人物。今最も話題のSF作家の作品と言えるかも(都知事選の件に関わらず作品単体として面白いです)。
長谷敏司『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』
2023年に「第54回星雲賞・日本長編部門(小説)」、2024年には「第44回日本SF大賞」を受賞した作品です。『BEATLESS』『My Humanity』などを発表してきた作家・長谷敏司さんの新たな代表作。
事故で右足の膝から下を失い、AI制御の義足を付けた気鋭のコンテンポラリーダンサーが主人公。彼が人のダンスとロボットのダンスを分ける人間性の手続き(プロトコル)を表現しようと試みる一方、認知症を患い人間性を喪失する父の介護に苦心する姿が描かれます。
長谷敏司さんの実体験も反映したであろう描写は重苦しく、読者に肉薄します。名作です。
アラスター・グレイ『哀れなるものたち』
2024年の第96回アカデミー賞で主演女優賞、美術賞、衣装デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の4部門を受賞した同名映画作品の原作小説です。
自殺した妊婦を発見した外科医が、彼女に胎児の脳を移植して蘇生させるというなかなかハードな内容の本作。この特異な設定だけでなく、複数の語り手によって進んでいく物語の重層構造に唸ります。
語り手たちの嘘か真か判然としない言葉をどう受け止めるかで、読後感が大きく変わります。読み終えた後にもう一度最初からページを捲りたくなるはず。
デイヴィッド・グラン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生』
2023年に劇場公開された映画『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』の原作となる、実話をもとにした小説です。
1920年代に石油を発見して莫大なオイルマネーを手にした先住民と、彼らの土地を奪おうとする白人たちの間で起こる諍いの謎を、捜査官が追っていくサスペンス。事実は小説よりも奇なりを地で行きます。
なお、映画は『ギャング・オブ・ニューヨーク』や『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でもタッグを組んできた、マーティン・スコセッシ監督とレオナルド・ディカプリオさん主演という心躍るタッグによって制作されています。
小川哲『ゲームの王国』
『地図と拳』で「第168回直木賞」と「第13回山田風太郎賞」、『君のクイズ』で「第76回日本推理作家協会賞」を受賞し、ますます注目を集めている小川哲さんによる傑作です。
ちなみに本作『ゲームの王国』でも、日本SF大賞と山本周五郎賞を受賞しています。
カンボジアのポルポト政権下による理不尽が猛威を振るう上巻と、一気に時間軸が変わる下巻を通して、因縁で結ばれた少女と少年のゲームの行方が描かれます。半世紀にわたるスケールの大きさ、そのダイナミックな表現に驚かされます。
伊藤計劃『ハーモニー』
2000年代を代表するSF作家・伊藤計劃さんが残した数少ない作品の中でも、個人的に一番好きなのがこの『ハーモニー』です。
核戦争やパンデミックの災禍を、這う這うの体で生き延びた人類がつくりあげた超高度な医療社会……あるいは監視社会。風邪が何なのかを知らない世代が生きるその世界で、息が詰まる思いをしていた一人の少女が起こした反抗が、後に最悪のテロ事件に発展します。
動乱の渦中で、ごく個人的な事情で事件の謎を追う主人公のモノローグが淡々と綴られる。この構成が良いのです。コミカライズも傑作ですので、併せて一読ください。
伊藤計劃『虐殺器官』
『ハーモニー』と対を成す『虐殺器官』もセール中。本作は各国で紛争を扇動する謎の人物を追うなかで、自身の価値観を変質させていく軍人が主人公です。
人には虐殺を司る“虐殺器官”があるとする、ユニークで刺激的な設定が物語を牽引。ともすれば軽薄にも見えるこの“虐殺器官”という設定を、硬質な台詞回しで説得力のあるものにしていく作者の筆力が光ります。
エンタメ作品としても秀逸で、コミカライズではその点が補強されていたように思います。こちらも原作、コミカライズのセットでどうぞ。
宮澤伊織『ウは宇宙ヤバイのウ!〔新版〕』
八尺様やきさらぎ駅といった有名な妖怪・都市伝説を組み込んだ「裏世界ピクニック」シリーズで知られる宮澤伊織さんが、大胆な設定の変更と改稿で再構築した一作です。
『ウは宇宙ヤバイのウ!』ってタイトルが良すぎる。一発で興味をそそられます。
このタイトルで薄々分かるように、中身もかなりのハチャメチャっぷり。隕石やら異星人が迫る地球を救うために奔走・転倒・絶叫する主人公。『ぼくらのよあけ』『アリスと蔵六』で知られる漫画家・今井哲也さんによるイラストも熱い!
春暮康一『法治の獣』
いつの世も地球外生命体とのファーストコンタクトはSFの定番であり続けています。そこから広がる未知への興奮にいつもワクワクさせられてきました。
硬派な描写のハードSFであり、センス・オブ・ワンダーな異種族の生態系に唸る『法治の獣』も、そんな地球外生命体のロマンを掻き立てるSF短編集です。
表題作「法治の獣」、そして「主観者」「方舟は荒野をわたる」のどれもが思索が深まる物語。読み終えた後、眠る前にあれやこれやと思考実験に励むことになるでしょう。
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