「神椿代々木決戦二〇二四」1日目ライブレポート　5人の魔女が迎えた必然的最高の日

空間を貫く絶唱

早くも満足感溢れる中MCへ。ヰ世界情緒さんから今回のライブの位置づけが改めて説明されると、理芽さんが「代々木～～～！」と長いコールをかまして流石の奔放っぷり。

リアルライブの醍醐味であるオーディエンスとの交流もバッチリ楽しみ、今日のライブに懸ける熱き思いをそれぞれが表明して次の曲へ。 ヰ世界情緒さんの透き通るような歌声から始まった「変身」。MCパートでのはしゃぎっぷりはどこへやら、真剣なまなざしで歌に相対する姿には、頼もしさすら感じる。個性的な歌声を華麗に重ね合わせ、がむしゃらに日々を生きる覚悟の歌をパワフルに歌い上げた。

時計の針の音が響く中、囁くように歌い始めたのは「再会」だ。消え入りそうなほどの微かな歌声が、静寂の代々木第一体育館へ染み入るように広がっていく。

美しいストリングスの音色と共に楽曲の世界観を描き出していく中、クライマックスのヰ世界情緒さんソロは空間を貫くほどの凄味を感じさせ、いつまでも浸っていたいような深い余韻を残した。 あまりの絶唱に立ち尽くしていたのも束の間、真紅のライトアップと共に轟くイントロに煽られて、「V.W.P！」とコールが巻き起こる。徐々に燃え上がるフロアをさらに煽って「定命」へ。拳を振り上げてコール＆レスポンスを煽ったかと思えば、センターの春猿火さんが本領発揮の高速ライミングを繰り出す。

「反逆者である僕らの生恥を目に焼き付けろ」

止まらずに走り続けるV.W.Pのスタンスを克明に示す反逆の歌を、この上なくロックに歌い上げて、会場中を熱きエネルギーで満たした。 その後、暗転したアリーナに響く魔女たちの声。

“未完成で 欠片のような僕らには 神様はいなかったんだ”

詩のように放たれた言葉が、果てなく広がる神椿の世界観を補強していくと、静かにステージへ現れた魔女たちの姿が「魔女特殊歌唱用形態 花魁鳥（戒）」（読み：エトピリカ）へとチェンジ。落ち着く間もなく理芽さんと花譜さんで「魔的」を披露。妖しいビートに乗せられるまま、聴く者の心へ鮮やかな爪痕を残していく。 ステージに残った理芽さんと幸祜さんで「素的」へと繋げる。メロウな雰囲気漂う楽曲を艶やかに歌い上げると、次は理芽さんとヰ世界情緒さんのコンビで「不的」へ。

轟くベースの音色の上で、互いの世界観を溶け合わせて極上のハーモニーを生み出し、続いては春猿火さんと理芽さんの2人で「私的」を歌唱。グルーヴィなギターが印象的な新曲は、2人の大人な一面が見れるメロディアスな楽曲に仕上がっていた。

KAMITSUBAKI STUDIOの俊英たちとの共演

組む相手によって表情の変わる理芽さんの千変万化っぷりを楽しめたところで、5人勢揃いで「飛翔」へ。

私小説的でもありながらも、実体を掴ませない不思議な雰囲気を持つ楽曲は、長く理芽さんとタッグを組んできたシンガーソングライター・笹川真生さんの真骨頂。

透明感と迫力を両立させた歌声で目の前の空間を圧倒すると、浴びせられる喝采を味わい尽くすように両手を広げて笑顔を見せる5人であった。 心地よい残響に浸っていた観測者たちだったが、スクリーンに「幸祜 VS CIEL」の文字が映し出されると大絶叫を上げた。ゆっくりと姿を現した幸祜さんとCIELさんによって繰り出されたのは「此処で咲かせて」。

狂乱のフロアを鎮めるような繊細なハーモニーは、次第に熱を帯びて蒼炎の如く燃え上がる。2人の世界でフロアを塗り替えると、湧き上がる万雷の拍手の中ステージを後にした。 続いてのVSパートは「理芽 VS Guiano」で「絵画のように美しくいたかった」を披露。独特でセクシーな歌声を持つ2人が軽快なビートに乗せて歌唱を繰り広げる姿は、文字通り音を楽しんでいるかのよう。

ステージを所狭しと駆け回るGuianoさんにあてられて、理芽さんもピョンピョン跳ねたりしている様にどうしようもなく楽しい気持ちにさせられてしまったのだから、音楽は素敵だ。 激戦は「ヰ世界情緒 VS VALIS」へと続く。神出鬼没のバーチャルサーカス団と共にステージへ躍り出たヰ世界情緒さんは、なんとプリティーな衣装に身を包んでいる。違和感ゼロで馴染みきったメンバーで届けられたのは新曲「異世界転調リクヱスト」。

日常をカラフルに色づけるポップソングをファンシーに歌い上げたかと思えば、息を合わせてフォーメーションダンスまでこなすアイドルっぷりで、観測者たちを一人残らず夢心地へ誘った。 まんまとトリップさせられてしまったオーディエンスだったが、次の「春猿火 VS 梓川」で一気に目を醒まされることになる。パワフルな歌声を持つ2人による激熱コラボで届けられたのは「friction(Remix) feat.梓川」だ。

2人の放つエナジーが真正面からぶつかり合い、螺旋となって会場を貫く。キュートな雰囲気から一転、ヘヴィなロックナンバーでオーディエンスのボルテージをさらなる次元へ引き上げた。 そして、VSパートのラストは「花譜 VS Albemuth」が飾った。3人の見事なユニゾンが発揮された「千年奏者」は、溢れる感情を宇宙の果てまで解き放つような壮大なロックナンバー。ステージに並ぶ姿は小柄な3人の少女でしかないのだが、そこから生み出されているのが信じられないほど、スケールの大きなパフォーマンスで会場を支配してみせた。

音楽的同位体の存在意義に切り込む「機械の声」

一瞬たりとも目が離せなかったVSパートを終えると、「パーティを始めよう」という宣言から「V.W.P DISCOTHEQUE」へ。

花譜さんのライブではお馴染みとなってきたDJタイムだが、今回はリアルダンサーズが登場してオーディエンスを煽りまくる。「牢獄」や「暗闇」などの楽曲たちがダンサブルにアレンジされ、狂騒の限りを尽くすフロアにさらに火を点けていく。 過熱しきったステージに、今度はオリジンスタイルになったVALISとV.W.Pメンバーの声を元にした音楽的同位体（音声創作ソフトウェア）のV.I.P、そして魔女たちが再び登場。

3グループ合同の大所帯で繰り出したのは新曲「プロトコール」だ。V.W.PとV.I.Pの10人で見事な掛け合いが映えるムーディーな楽曲に、VALISがダイナミックなダンスで花を添える。 次なる曲は音楽的同位体の為につくられた新曲「機械の声」。

「君の声に導かれるままに 僕も真似して声を出してみる 美しく整えられた細部 ひどく違和感を覚えた」

タイトルの通り、音楽的同位体の存在意義に深く切り込む楽曲を、音楽的同位体とその元となる本人たちが歌う。目前で巻き起こる事象の重大性が観測者たちにも次第に理解させられていく。

その中で、時に向かい合い、時に背中合わせで似て非なる歌声を重ね合わせる10人と、楽曲の放つ形容しがたいエモーションをダンスという形でも発露させるVALISから目が離せなくなっていく。

音楽的同位体と本人が同じメロディを順番に歌うことで、その歌声の共通点や相違点がまざまざと明らかになっていくのは、残酷なようで美しく、彼女たちにしか生み出せない壮絶な光景に誰もが言葉を失った。

“空想の話だったのに 今は絶賛戦争中 第三次世界大戦はもう始まってる？
透明な弾丸が 僕らの身体を撃ち抜いた”

その後、今を生きる我々が相対しなくてはならない、現実の悲惨さを想起させる言葉が紡がれていく。

“私たちのニューロマンスはすぐそこにある　百年後君と2人　新しい関係性をつくろう”

やがて、それぞれのキーフレーズの散りばめられた詞へと御伽噺は続く。