連載 | #5 チャートハックと音楽シーン

LINE MUSICに「再生数キャンペーン」問題を直撃──今、音楽業界に必要なこと

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LINE MUSICに「再生数キャンペーン」問題を直撃──今、音楽業界に必要なこと
LINE MUSICに「再生数キャンペーン」問題を直撃──今、音楽業界に必要なこと

LINE MUSIC運営インタビュー

現在、日本の音楽業界で、音楽配信サービス・LINE MUSICなどを利用した「再生数キャンペーン」が広まっている。

特定の楽曲を期間中に一定回数以上再生するとグッズなどがプレゼントされるという施策だ。

楽曲の再生を促すことで、ランキングの上位入りなどを狙う特典商法の一種であり、中には再生回数が多いほどより当選確率が高くなるものまで存在している。 この動きに対して音楽ヒットチャートを運営するBillboard Japanが問題視。異例となる年度中におけるチャートの係数変更を行い、8月にKAI-YOU.netで公開したインタビューの中でも、「再生数キャンペーン」や過熱するファンダムに対して警鐘を鳴らした。

アーティスト・レーベルの人為的な施策やファンダムによるチャートハックの是非。改めて、「音楽を楽しむ」とはどういうことなのか。

今回KAI-YOU編集部は、Billboard Japanに続いてLINE MUSICに取材を敢行。「再生数キャンペーン」の功罪や彼らの考えるランキングの意義について聞いた。

取材・文:長濱未知 企画・編集:都築陵佑

目次

10代、20代前半のユーザーが5割を超えるLINE MUSIC

サービス開始時のLINE MUSIC

LINE MUSICがサービスを開始したのは、Apple Music、AWAがスタートした“サブスク元年”とも呼ぶべき2015年。

メッセンジャーサービスを開発・運営するLINEとレコード会社であるソニー・ミュージックエンタテインメントエイベックス・デジタルの3社共同出資によって設立されることとなった(のちにユニバーサル・ミュージックも資本参加)。

各レコード会社がLINEに目をつけたのには、当時の若年層が音楽を聴くツールとして、YouTubeや違法アプリなどに流れてしまっており、CDやダウンロード購入などを行わなくなってしまったことが背景にあるという。

現在、200万人を超えるLINE MUSICのユーザーは、50%が10代、20代前半。もっと上の世代の課金者が多い他の音楽配信サービスと比べ、若年層の有料ユーザーが多いのがLINE MUSICの特色だ。無料ユーザーならばさらに若年率が上がるという。

その特徴は、LINE MUSIC内での楽曲の再生数やランキングにも表れる。他のサービスと楽曲の聴かれ方、跳ね方が異なっており、TikTokでの流行による影響も受けやすい。現代の若者が音楽を楽しむ土台が築かれている。

暴走する「再生数キャンペーン」LINE MUSICも問題視

Spotify、Apple Music、Amazon Music、AWA……国内外で音楽配信サブスクサービスが乱立する中で、共通の課題としてあるのが「どのように差別化するか」だ。

配信されている楽曲はどのプラットフォームでも基本的には同じラインナップであり、価格帯もほぼ同じ。その中でLINE MUSICは「アーティストに会える」「デジタル特典をつける」などのリワードを検討し、レーベルと交渉を始めた。

一方、レーベル側は再生数を伸ばすことを望み、それらを両立するような形で試験的に実施されたのが「再生数キャンペーン」の始まりだ。

そして「再生数キャンペーン」に応えたファンダムが過剰再生した結果、ランキングやチャートにも影響を及ぼす事態に発展していった。

ゼネラルマネージャーの岡隆資さんは次のように語る。

LINE MUSICゼネラルマネージャー岡隆資さん

「『再生数キャンペーン』の結果、会員獲得や継続率の伸びなどプラスの効果は見られました。しかし、そのうちにレーベルが自発的にキャンペーンを行うようになり、基準となる再生数もハードルが高いような数値が設定されるようになりました。この状況についてご指摘は当然あると思っていましたし、我々自身も問題意識を持っています」(岡)

実際、「再生数キャンペーン」のような施策が行われているプラットフォームはLINE MUSICだけに限らない。しかし、LINE MUSICはアーティストの呼びかけにアクティブに反応する若年層が多い、かつユーザーが多いためにリアクションも目につきやすい。

事実、KAI-YOU編集部が調べたところ、LINE MUSICが発表した2022年「上半期ランキング(総合)」上位10曲の内、1位のBE:FIRST「Bye-Good-Bye」、2位めいちゃんの「ラナ」、3位のINI「CALL 119」、5位の優里さん「ベテルギウス」、8位のマカロニえんぴつ「なんでもないよ、」の5曲で「再生数キャンペーン」が行われていた。

LINE MUSIC 上半期ランキング2022(総合)

取締役COOの高橋明彦さんによれば、「再生数キャンペーン」に対して具体的な対策もすでに取られているという。

「合理的に考えて異常な再生は再生数に入れなかったり、ランキングにカウントしないような形を模索しながら進めている状況です。ただ、いたちごっこな部分もあって、具体的な対策は公表しづらい部分もあります」(高橋)

レーベル側も「リスナーに負担を与えない」空気感に

ただ、LINE MUSICは根本的なスタンスとして、音楽を“聴く”ためか、“再生”するためかを問わず、再生数が跳ねていくこと自体は肯定的に捉えているという。

LINE MUSIC取締役COO 高橋明彦さん

「日本はいま、世界の潮流であるデジタル化にようやく積極的に動くようになった段階なんです。その状況の中で、アーティストやレーベルが音楽配信サービスを活用したキャンペーンを行い、ファンダムがその活動に寄り添って一緒に熱量を高めていこうとする動きは、進化に必要な過程なんじゃないかと思っています。

『再生数キャンペーン』に振り回されるファンの悲痛な叫びがSNSで見えていますし、アーティスト・レーベル側もこの状況については理解していて、『リスナーに負担を与えないように』という空気は出てきています

我々がシステムとしてクリアランスし、アーティスト・レーベル側はモラルを持つことで、健全化に進んでいるとは思います」(高橋)

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連載

チャートハックと音楽シーン

音楽配信の主流がCDからデジタルへ移り変わる昨今。CDの複数枚購入を促す従来の特典商法に加え、デジタルならではの「チャートハック」行為が音楽シーンに影響を及ぼしている。 アーティスト・レーベルの人為的な施策やファンダムによるチャートハックの是非。改めて、「音楽を楽しむ」とはどういうことなのか。 再生数やランキング結果など、わかりやすい「数字」の話題性・権威性に頼らず、アーティストや楽曲を知ってもらうためにできることを探る。

1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:6140)

音楽サブスクの「ランキングが入れ替わらない」のは問題とは思えません。

そもそも、新しい曲を聞きたい人は「ランキングを見なければいい」だけです。

「ランキングが入れ替わらないから新しい音楽が聞かれない」のではなく、「新しい音楽が聞かれないからランキングが入れ替わらない」のです。因果が逆です。

何事にも保守的なのは音楽に限らず日本人の国民性であり、良い・悪いで判断するものではないと思います。

音楽は無理して聞くものではないので、「好きなアーティストの曲」だけ聞いても別にいいのです。

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