日本版Billboardとして、2008年からヒットチャートをスタートさせたBillboard JAPAN(ビルボードジャパン)。
CDセールスやダウンロード数、ストリーミング数のみならず、動画の再生数やツイート数、カラオケで歌われた数など、複数の指標に独自の係数を掛け合わせて合算。総合ソングチャートとして算出している。
グッズや握手券など、音楽以外の付加価値によって上下しやすい単一のセールスランキングと比べ、Billboardのチャートは複合的な観点からつくられ、より“音楽的”であると評価されてきた。
さらに時代の変化に合わせて、新たな指標の導入や係数の見直しを実施。時代を映す鏡として、音楽シーンを語る上で欠かせない存在となっている。 その一方、ここ数年ますます影響力を強めているのが「ファンダム」の存在である。
熱狂的なファン集団やその文化を指すファンダム。そのエネルギーは音楽産業に光をもたらす反面、意図的にチャートを操作しようとする動きが散見されるなど、シーンに影も落としている。
これらの動きを、チャートを運営する当事者たちはどのように見ているのだろうか?そして「ヒットチャートの意義」をどのように考えているのだろうか?
取材・文:満島エリオ 編集:都築陵佑
社会におけるエンタテインメントの役割のひとつは、感情を刺激することで共感性を高めること。エンタテインメントは国境を越え、異なる文化への共感性を高めていく。それを広めて、様々に楽しめる環境をつくるのは、非常に大事なことだと思っています」
Billboard事業本部上席部長・礒﨑誠二さんはそう語る。
2020年代、BTS「Dynamite」が米Billboardの「Hot 100」で初登場1位を記録したのをきっかけに、音楽シーンに可視化されたファンダムの存在。BTS (방탄소년단) 'Dynamite' Official MV
現代のファンダムは、アーティストの生み出すコンテンツやパフォーマンスをただ一方的に受け取って消費するのではなく、自律的・積極的な活動を行う。例えば、Twitterやブログでアーティストの魅力を広めたり、TikTokでアーティストの楽曲を使用したカバー動画をつくるなど、自発的に周囲に発信しようとする。
このように、ファンが自律的・積極的に音楽シーンへコミットしようとするという流れは、古くからメディアやレコード会社などが望んでいたことでもある。特にニコニコ動画や初音ミクの隆盛以降、文化としてもマーケティングの観点からしても重要なものとされた。
しかし、ファンダムの能動的な活動が音楽シーンを盛り上げている反面、見過ごせない動きもある。
ラジオ局が膨大にあり、多様な音楽が流れる下地のあったアメリカと比べ、日本はラジオ局が少なく、そこでの音楽的なリアクションをカバーしきれていないという問題があった。それを補うため、Billboard JAPANは、ユーザーのリアクションのデータとして、Twitterを指標に取り入れた。
「レコード協会の調査によれば、CDシングルを新規購入した理由として口コミはかなりの割合を占めています。そのため、口コミとしてTwitterは導入当初係数を高めに設定していました」(礒﨑さん)
Billboard JAPANは、ツイート数のカウント方法について、アーティスト名と曲名どちらも書かれているツイートが集計対象であることを公表している。しかし、Twitterは実際のツイート内容とは無関係のハッシュタグを使用したり、単語のみでツイートしたりできる。
特に、ある時期から特定のアーティストをチャート入りさせることを目的に、ファンダムが意識的に楽曲名とアーティスト名をツイートする流れが大きくなった。Twitterで楽曲名を検索すると、ノイズやスパムとしか感じられない投稿も散見されているのが現状だ。
礒﨑さんも「ファン以外のユーザーが見て、どう思うかというところまで考えたほうがいい」と懸念を隠さない。
「それでも、ノイズが大きく出る層は限られています。そこを考慮すると、Twitterの口コミとしてのデータは有効だと考えています」(礒﨑さん)
そういった背景からか、アーティストやレーベル側も、特定の楽曲の再生を促す「再生数キャンペーン」など新たなアプローチを仕掛けるようになった。
Billboard JAPAN編集長の高嶋直子さんによれば、その動きは、いまや総合チャートにまで影響を及ぼすようになってきたという。 「『キャンペーンによって特定のサービス内だけで再生数を伸ばしている楽曲が、本当に社会的に浸透していると言えるのか?』という議論は、私たち運営の間でも長く行われてきました。
チャートの係数の変更は、年間チャートの結果に影響してしまうので基本的に年度が代わる12月にしか行いません。しかし、2022年に関しては複数回チャートの係数を変更しています。占有率のバランスを、従来の意図より崩している指標に関しては、調整を施してチャートに反映しています」
キャンペーンを実施した期間だけ短期的に再生数が伸びたとしても、他のダウンロードやCDの売上に影響するには至らないケースも多い。それは果たして、ヒットに繋げるための正しいアプローチと言えるのだろうか。
「アーティストの夢を叶えようとするファンダムの熱量は大切にしたい部分もあるのですが、それが行き過ぎてしまうと、『再生する』ことが目的となってしまいます。それは新たなファンの流入を阻害することに繋がりかねないですし、音楽を聴いているとは言えないのではないでしょうか」(高嶋さん)
CDセールスやダウンロード数、ストリーミング数のみならず、動画の再生数やツイート数、カラオケで歌われた数など、複数の指標に独自の係数を掛け合わせて合算。総合ソングチャートとして算出している。
グッズや握手券など、音楽以外の付加価値によって上下しやすい単一のセールスランキングと比べ、Billboardのチャートは複合的な観点からつくられ、より“音楽的”であると評価されてきた。
さらに時代の変化に合わせて、新たな指標の導入や係数の見直しを実施。時代を映す鏡として、音楽シーンを語る上で欠かせない存在となっている。 その一方、ここ数年ますます影響力を強めているのが「ファンダム」の存在である。
熱狂的なファン集団やその文化を指すファンダム。そのエネルギーは音楽産業に光をもたらす反面、意図的にチャートを操作しようとする動きが散見されるなど、シーンに影も落としている。
これらの動きを、チャートを運営する当事者たちはどのように見ているのだろうか?そして「ヒットチャートの意義」をどのように考えているのだろうか?
取材・文:満島エリオ 編集:都築陵佑
目次
受動から能動へ 音楽シーンに台頭するファンダム
「音楽の楽しみ方が顧客参加型になってきたのは、とても良いことだと思います。社会におけるエンタテインメントの役割のひとつは、感情を刺激することで共感性を高めること。エンタテインメントは国境を越え、異なる文化への共感性を高めていく。それを広めて、様々に楽しめる環境をつくるのは、非常に大事なことだと思っています」
Billboard事業本部上席部長・礒﨑誠二さんはそう語る。
2020年代、BTS「Dynamite」が米Billboardの「Hot 100」で初登場1位を記録したのをきっかけに、音楽シーンに可視化されたファンダムの存在。
このように、ファンが自律的・積極的に音楽シーンへコミットしようとするという流れは、古くからメディアやレコード会社などが望んでいたことでもある。特にニコニコ動画や初音ミクの隆盛以降、文化としてもマーケティングの観点からしても重要なものとされた。
しかし、ファンダムの能動的な活動が音楽シーンを盛り上げている反面、見過ごせない動きもある。
「曲名・アーティスト名」を付けた“ノイズ”なツイートの連投
Billboard JAPANは、2013年よりTwitterでの話題を指標に導入している。これは本国アメリカのBillboardに先立った動きだ。ラジオ局が膨大にあり、多様な音楽が流れる下地のあったアメリカと比べ、日本はラジオ局が少なく、そこでの音楽的なリアクションをカバーしきれていないという問題があった。それを補うため、Billboard JAPANは、ユーザーのリアクションのデータとして、Twitterを指標に取り入れた。
「レコード協会の調査によれば、CDシングルを新規購入した理由として口コミはかなりの割合を占めています。そのため、口コミとしてTwitterは導入当初係数を高めに設定していました」(礒﨑さん)
Billboard JAPANは、ツイート数のカウント方法について、アーティスト名と曲名どちらも書かれているツイートが集計対象であることを公表している。しかし、Twitterは実際のツイート内容とは無関係のハッシュタグを使用したり、単語のみでツイートしたりできる。
特に、ある時期から特定のアーティストをチャート入りさせることを目的に、ファンダムが意識的に楽曲名とアーティスト名をツイートする流れが大きくなった。Twitterで楽曲名を検索すると、ノイズやスパムとしか感じられない投稿も散見されているのが現状だ。
礒﨑さんも「ファン以外のユーザーが見て、どう思うかというところまで考えたほうがいい」と懸念を隠さない。
「それでも、ノイズが大きく出る層は限られています。そこを考慮すると、Twitterの口コミとしてのデータは有効だと考えています」(礒﨑さん)
「再生目的では音楽を『聴いている』とはいえない」
ファンダムによる数字稼ぎは、Twitterのみならず、あらゆるプラットフォームで組織的に行われている。例えば以前、経済誌『Forbes』がBTSの事例を取り上げていた(外部リンク)。そういった背景からか、アーティストやレーベル側も、特定の楽曲の再生を促す「再生数キャンペーン」など新たなアプローチを仕掛けるようになった。
Billboard JAPAN編集長の高嶋直子さんによれば、その動きは、いまや総合チャートにまで影響を及ぼすようになってきたという。 「『キャンペーンによって特定のサービス内だけで再生数を伸ばしている楽曲が、本当に社会的に浸透していると言えるのか?』という議論は、私たち運営の間でも長く行われてきました。
チャートの係数の変更は、年間チャートの結果に影響してしまうので基本的に年度が代わる12月にしか行いません。しかし、2022年に関しては複数回チャートの係数を変更しています。占有率のバランスを、従来の意図より崩している指標に関しては、調整を施してチャートに反映しています」
キャンペーンを実施した期間だけ短期的に再生数が伸びたとしても、他のダウンロードやCDの売上に影響するには至らないケースも多い。それは果たして、ヒットに繋げるための正しいアプローチと言えるのだろうか。
「アーティストの夢を叶えようとするファンダムの熱量は大切にしたい部分もあるのですが、それが行き過ぎてしまうと、『再生する』ことが目的となってしまいます。それは新たなファンの流入を阻害することに繋がりかねないですし、音楽を聴いているとは言えないのではないでしょうか」(高嶋さん)
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連載
音楽配信の主流がCDからデジタルへ移り変わる昨今。CDの複数枚購入を促す従来の特典商法に加え、デジタルならではの「チャートハック」行為が音楽シーンに影響を及ぼしている。 アーティスト・レーベルの人為的な施策やファンダムによるチャートハックの是非。改めて、「音楽を楽しむ」とはどういうことなのか。 再生数やランキング結果など、わかりやすい「数字」の話題性・権威性に頼らず、アーティストや楽曲を知ってもらうためにできることを探る。
27件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:11823)
バンギャが書いてそう
hamachidori
はいこの記事は数字上げを自己目的化したファンダムの狂熱行動はもはや音楽をたのしむことから逸脱してきており、本来指標化したかった音楽評価が困難にもなっているといったこと+その他を言ってるようですが、その根底にある一番の問題にはふれてませんね。
エンタメ音楽ビジネスの基盤にある市場原理、シビアな数字の競争、優勝劣敗のマネーと人気の獲得というものをです。ビルボードは端的にいってしまえばその競争の場で必要になる数字の指標をだすためのデータ提供ビジネスでしょう。
すこし乱暴なたとえでいうとマネー経済で株式が実体経済とかけ離れて高騰する、投機で資産価格が以上にあがり大きな評価益がでているかにみえる=みせかけの価格高騰バブルが新曲発表のたびわきあがるというイメージでしょうか?
音楽評価の指標をだしてくるという媒体にいまやsnsやYOUTUBEというネットとそのアルゴリズムが加わって、イイネの通貨でマネーゲームのようにも推し株を高騰させることができるという、そんな時代を記事は語らないでも見せていますが
これはそもそも既存のビジネス、テクノロジーの進化形とファン心理がマリアージュしたという現象ではと思います。実体よりも何千万何億のアバターを瞬時に持てるインフルエンサーこそ今の市場の神になんです。
ファンの狂熱行動を問題視するビルボードさん、実はビルボードさんもそれを助長するはたらきそのものを提供してますよ、ビルボードだけでなくいまのAI搭載テクノロジーと市場原理の「システム」がそれを可能にして無限の競争の場を提供してますよ。
ファンの狂熱行為のゆえこまったものだという片付け方やアピールを世論にしたいのかですが、
その1 指標化する集計システム、つまり「AIテクノロジーには善悪の判断はなく、機能として無限に機能してしまうこと」(→歯止めがきかない)
その2 人気や購買を数字化してこれも果てなく競争していくだけの市場原理(→歯止めがきかない)
という、すでにシステム破綻は必至であるのがほんとうの原因であり、これをシステム基盤として進んでいく現代社会に重大な問題があるんじゃないの?とわたしは見ています。
われらが神をつくりたいファン心理と市場の神を現出させたいエンタメビジネスがマリアージュして
ハイテクインフラの上踊り出したという21世紀の今ココなんですね。
匿名ハッコウくん(ID:9543)
好きだから聴いてる。ただそれだけ。
興味ない人はどんなにタグが出回ろうが気になどしない。
魅力あるからこそファンダムがつく。