Billboard JAPANが目指す、圧力や忖度からの脱却 海外チャート新設に込められた願い

Billboard JAPANが目指す、圧力や忖度からの脱却 海外チャート新設に込められた願い
Billboard JAPANが目指す、圧力や忖度からの脱却 海外チャート新設に込められた願い

Billboard JAPAN運営インタビュー

楽曲の“社会的浸透度”を表すヒットチャートを運営するBillboard JAPAN(ビルボード・ジャパン)。

CDセールスやダウンロード数、ストリーミングの再生回数のみならず、動画の再生回数やカラオケで歌われた回数など、複数の指標にそれぞれ比重をつけて合算。総合ソングチャートとして算出する「JAPAN Hot 100」をはじめ、様々なランキングを発表している。

そのBillboard JAPANが9月14日、海外でヒットしている日本の楽曲を世界基準(※後述)でランキング化するグローバル・チャート「Global Japan Songs Excl. Japan」を新たにスタートした。 現在、日本の音楽を世界へ広めようとする動きが、業界内外で勢いを増している。

「アメリカで最も権威のあるヒットチャート・Billboardの日本版」という国際的なブランド力もあり、Billboard JAPANには、日本と海外を繋ぐ橋渡しとしての役割が音楽ファンやレーベルからも期待されている。

KAI-YOU.netは以前の取材、ファンダムやレーベルによる「複数回聴取」問題に続き、このチャート新設の背景や狙いについてBillboard JAPAN運営に直撃。

その中で見えてきたのは、楽曲ランキングという存在の本質と、“圧力”や“忖度”のない社会を願う、ヒットチャート運営メディアとしての誠実な姿だった。

企画・取材・文:都築陵佑 編集:米村智水 撮影:万能初歩

目次

「日本楽曲の海外人気を計る新チャート」をつくった背景

「K-POPほどの数字ではありませんが、日本の楽曲を聴いている海外の人も普通にいるという事実を、僕らは体感すべきだと思うんです。例えば、優里さんやあいみょんさんといったアーティストも、韓国でちゃんと売れているんですよ」

Billboard事業本部上席部長の礒﨑誠二さんはそう語る。

株式会社阪神コンテンツリンク ビルボード事業本部上席部長・礒﨑誠二さん

YOASOBIの「アイドル」やimaseさんの「NIGHT DANCER」、藤井風さんの「死ぬのがいいわ」など、日本のポピュラーミュージックの世界的ヒットが話題となる昨今。

また同時に、Spotifyのグローバル・プレイリスト「Gacha Pop」新設をはじめ、日本の音楽を世界へ届けようとする動きにも注目が集まっている。 日本は、アメリカに次ぐ市場規模を誇る世界2位の音楽大国(IFPI調べ、外部リンク)として知られている。

従来のグローバル・チャートにはそんな日本市場のデータも当然含まれており、日本を除いた各国、すなわち海外でヒットした日本の楽曲を、客観的に可視化したランキングは存在していなかった。

「つまり、『Global Japan Songs Excl. Japan』は、『Global 200(米Billboardの発表するグローバル・チャート)』から日本市場のデータを除いた、日本の楽曲だけのランキングなんです。併せて、国別にどの日本の楽曲が聴かれているかを示す『Japan Songs (国名)』もスタートしました」(礒﨑誠二さん)

世界的ヒットの道筋は「アニメタイアップ」や「TikTok発」だけではない

日本の音楽を世界に広める手段として、特に有効だと考えられているのがアニメタイアップだ。

昨年2022年度の年間チャート「Japan Hot 100 Year End」の上位10曲だけ見ても、Aimerさんの「残響散歌」(『鬼滅の刃』)、Official髭男dismの「ミックスナッツ」(『SPY×FAMILY』)、Adoさんの「新時代」(『ONE PIECE FILM RED』)、King Gnuの「一途」(『劇場版 呪術廻戦 0』)と、アニメ主題歌が4曲ランクイン。

近年における“世界的ヒット”の筆頭ともいえるYOASOBI「アイドル」も、アニメ『【推しの子】』のオープニング主題歌だ。

日本のアニメの海外人気を背景に、「世界進出を狙うならアニメタイアップに専念するべき」といった言説も少なくはない。事実、「Global Japan Songs Excl. Japan」でも初回の1位に輝いたのはYOASOBI「アイドル」だった。
「Global Japan Songs Excl. Japan」でも初回1位に輝いたYOASOBI「アイドル」
しかし、礒﨑誠二さんは「アニメタイアップのインパクトは大きく、その力は歴然としてある」と認める一方で「アニメに乗らなければ売れない、勝ち筋は一つしかないと考えるのは、あまりにも単純化しすぎている」と指摘する。

それは、今やバイラルヒットの震源地となったTikTokに関しても同様だ。

「例えば、『Global Japan Songs Excl. Japan』で初週9位にランクインしたXGは、TikTok発でヒットしたアーティストでしょうか? いや、TikTokも使っているアーティストと表現するのが正しいですよね。つまり、決してTikTokも唯一の勝ち筋ではない。その他にも『Global Japan Songs Excl. Japan』には、DJ HASEBEさんや、久石譲さんや日向俊文さんの楽曲がランクインしています」(礒﨑誠二さん)

「つまり、今まで日本の音楽業界が積み上げてきた楽曲を聴いている海外の人たちは確実に存在しているんです。そのことをファンだけではなく、ミュージシャンも含め、作り手側の人たちにも伝えたい」(礒﨑誠二さん)

Billboard JAPAN編集長の高嶋直子さんも、「『Global Japan Songs Excl. Japan』を見ると、様々な文脈でヒットしているアーティストがいることが『JAPAN Hot 100』以上にわかります」と語る。

Billboard JAPAN編集長・高嶋直子さん

「世界を目指すなら、いま何が流行しているのかを客観的に知ることが重要だと思っていて。『Global Japan Songs Excl. Japan』がその参考になればな、と思っています。ヒットの多様性をチャートからも感じてほしいです。藤井風さんの日本語詞の歌が世界的に流行しているのを見て、必ずしも『世界を目指すなら、英語を流暢に話せないといけない』わけではないとも感じるようになりました」(高嶋直子さん)

勝ち筋が一つしかない産業構造が“圧力”や“忖度”を生み出す

日本の音楽を世界に広める手段は、アニメタイアップやTikTok発のバイラルヒットだけでは決してない。

このように、ヒットに繋がる勝ち筋がひとつではないと示せなかったことが、昨今物議を醸している“圧力”や“忖度”を生む音楽業界の産業構造に繋がってしまったのではないかと、ヒットチャート運営の当事者である2人は考える。

例えば、Billboard JAPANが音楽ストリーミングサービスの台頭とともに社会的認知度を獲得した2015年~2016年以前、単一セールスランキングが一強だった時代では、ヒットとはイコール、CDが売れることだった。

音楽ソフト生産実績 過去10年間推移(一般社団法人日本レコード協会の発表)

「Billboard JAPANがスタートする以前、例えばゼロ年代初頭、くるりNUMBER GIRLのような、ライブシーンで支持を集めるアーティストを取り上げる総合ヒットチャートは存在しませんでした」(礒﨑誠二さん)

「ヒットチャートにランクインする=CDを売ることのみだったからこそ、そのために限られた地上波のCM枠や音楽番組の枠を取ろうとする。その椅子取りゲームや陣取り合戦が、“圧力”や“忖度”を生む流れに繋がっていったのではないか。勝ち筋がひとつしかない状況なら、ねじ込むしかない。総合ヒットチャートの不在というのが、日本の音楽産業の構造にどれだけ影響を与えてしまったのか」(礒﨑誠二さん)

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