2024年の日本の音楽業界において、核となるキーワードは間違いなく「海外進出」だった。
近年、日本人アーティスト楽曲の世界的ヒット、あるいは往年のシティポップが海外で再発掘されるなどの事象が取り沙汰されていたが、2024年はその流れがさらに加速。
Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」が米Billboardのグローバル・チャート「Global 200」で最高8位にランクイン。新しい学校のリーダーズやAdoさん、imaseさん、ずっと真夜中でいいのに。、藤井風さん、YOASOBI、ONE OK ROCKらが海外公演を実施した。
Number_iのような、「海外進出」を大々的に目標に打ち出すダンス&ボーカルグループの誕生も、そういった世相を映していると言える。
今回は、そんな2024年の音楽シーンを総括すべく、Billboard JAPANのチャートディレクター・礒﨑誠二さん、スタッフの渕井実香さんに取材を敢行。
ヒットチャート運営の目には、2024年の音楽シーンはどのように映っていたのだろうか。
企画・取材・文:都築陵佑 写真:鈴木一平
目次
「アニメタイアップでも、楽曲自体に訴求力がなければ世界的ヒットには繋がらない」
日本語ラップ史上初となる総合ソング・チャート「JAPAN Hot 100」年間1位に輝いたCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」を筆頭に、やはり「海外とのリンクが顕著だった」という2024年のBillboard JAPANチャート。
しかし渕井実香さんによれば、意外にも、チャート全体を俯瞰してみると、海外でヒットさせるための定石とされてきたアニメタイアップの影響力は「ここ数年の中で一番強くなかった年」だったという。
「Creepy Nutsの『Bling-Bang-Bang-Born』はTVアニメ『マッシュル-MASHLE-』第2期のOPテーマ、Mrs. GREEN APPLEの『ライラック』はTVアニメ『忘却バッテリー』のOPテーマでしたが、いずれもアニメがヒットするよりも先に、曲がヒットしていました」(渕井実香)
2023年10月、「Global Japan Songs Excl. Japan」新設に際したKAI-YOUのインタビューの中で、海外進出を狙うには「アニメに乗らなければ売れない、勝ち筋は一つしかないと考えるのは、あまりにも単純化しすぎている」と指摘していた礒﨑誠二さん。
今回の年間チャートの結果を受け、改めて次のように振り返る。
「アニメは結局、そのタイアップ楽曲のヒットをブーストする役目にはなるとは思います。しかし、その楽曲自体に訴求力がなければ、グローバルでのヒットには繋がらない。それを明らかにしたのが、2024年だったんだと思います」(礒﨑誠二)
Creepy Nuts「BBBB」の世界的ヒットは、従来の事例とは“真逆”
そんな2024年のヒットチャートの中で、特に異彩を放っていたのがCreepy Nutsの「Bling-Bang-Bang-Born」である。
「Bling-Bang-Bang-Born」は、「#BBBBダンス」と題したTikTokやYouTubeショートなどでのダンスチャレンジ(踊ってみた)がきっかけとなり、国内外でバイラルヒットを記録。
海外での日本楽曲の人気を計るグローバルチャート「Global Japan Songs Excl. Japan」でも24度首位を獲得しており、年間1位の座をも勝ち取った。
「『Bling-Bang-Bang-Born』は、配信リリースの約2ヶ月後に公式MVが公開されています。同月にはCreepy Nutsが本楽曲で『THE FIRST TAKE』に出演していました」
「1月と3月、2回のピークをつくれたのがロングヒットに繋がった要因なのかなと」(渕井実香)
「『Bling-Bang-Bang-Born』の場合、アメリカでのヒットが先にあり、それを受けて日本でのヒットが続いています」
「YOASOBIの『アイドル』やAdoさんの『唱』のように、日本で先行してヒットしていた楽曲が海外にも波及していくという、これまでの世界的ヒットの流れとは全く真逆の形です」
「つまり、日本のヒット観と海外のヒット観は、割とシンクロするようになってきた。グローバルな音楽シーンとの距離感が近い楽曲が増えてきた、ということを示しています」(礒﨑誠二)
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礒﨑誠二
Billboard JAPANチャートディレクター
東京外国語大学スペイン語学科卒。92年キティ・エンタープライズ入社、同年クラブチッタ川崎に出向、ライヴ制作、招聘業務等を行う。96年退社後、原盤制作、著作権管理、商品流通管理等、多岐の業務に携わる。06年阪神コンテンツリンク入社後、ビルボードの日本国内ブランディングを担当、ビルボードライブ東京&大阪のマーケティングに従事する傍ら、ジャパンチャートの設計当初から関わり、現在もデータの選定や算出メソッドのブラッシュアップなど、ディレクション業務を続ける。ジャパンサイト運営やデータソリューション提供など事業領域の拡大にも携わり、音楽産業全体の発展に寄与するブランドの在り方を模索している。
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