「アメリカと比べると、日本で音楽はあまり聴かれていない」だからこそ
アーティストたちの活躍の裏で、官民連携で日本のコンテンツの「海外進出」に向けた準備が進められたのも、注目したいトピックスである。
少子高齢化による人口減少、それによる日本経済の悪化が予測される昨今、ビジネス的な観点からも「海外進出」はひとつの希望だ。
政府は「日本のコンテンツ産業を基幹産業に位置付け、戦略的に取り組む」と表明。内閣府・経済産業省・文化庁を中心に、海外展開や人材発掘・育成の支援、労働環境の整備といった産業振興策が試みられている。
また10月には、文化庁や経済産業省(※調整中)協力のもと、日本の音楽業界の主要5団体が連携し、“日本版グラミー賞”とも呼べる「MUSIC AWARDS JAPAN」を新設することが発表された。
こういった官民連携の音楽業界の動きに対しては、Billboard JAPANも参画。チャートデータの提供やKPI(重要達成度指標)の提言、グローバル展開に向けたコンサルティングなどの形で協力しているという。
「日本の音楽産業の市場規模は世界2位とされていますが、1位のアメリカが170億ドル(約2.2兆円)なのに対し、日本は3300億円と大きな差があるんです」
「もちろん、音楽配信サービスの再生単価や顧客単価の違いなどの影響もありますが、アメリカと日本は人口比で考えると3:1なのに対して、音楽の売上は7:1になってしまっている」
「つまり、アメリカに比べると、日本で音楽はあまり聴かれていない、と言えてしまうと思うんです」
「だからこそ日本の音楽は、国内でもまだまだ売る余地がある。同時に、それが難しいのであれば、海外展開を目指す動きがどんどん加速していってもいい、と考えています」(礒﨑誠二)
国/地域ごとにターゲットを絞り、解像度を上げていくべき
では、日本の音楽の「海外展開」に繋がる鍵は、どこにあるのだろうか?
礒﨑誠二さんは、「Global Japan Songs Excl. Japan」ではなく、国/地域別に日本の楽曲の人気を示した「Japan Songs(国/地域別チャート)」にこそ、注目してほしいと語る。
「どこの国/地域でどんな楽曲が流行っていて、どんな日本の楽曲が定着しているのか。漠然と世界を目指すのではなく、国/地域ごとにターゲットを絞り、解像度を上げていくことが大事です」
「ダンス&ボーカルグループを例にあげると、「Global Japan Songs Excl. Japan」でも上位にランクインしているXGは、韓国よりも東南アジアでプレゼンスが高かったりする。国/地域別に見れば、日本のダンスミュージックが流行りうる場所がどこか、限定されて見えてくるわけですよね」(礒﨑誠二)
そういった国/地域ごとの解像度を上げ、より効果的な戦略を考える上での基盤を築くべく、Billboard JAPANは12月4日から「Japan Songs(国/地域別チャート)」に新たに台湾とドイツを追加。今後も拡充していく方針だという。
「同時に、アーティスト側が、海外展開をいかにイメージしているのか、もっと発信してもらえたらいい、とも思っています」
「そうすることで、ファンもより世界進出を意識するようになるのではないか。その結果、ファンダム同士のSNS上でのいざこざなど、新規ファンの参入を妨げるようなこともなくなっていくかもしれません」(礒﨑誠二)
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礒﨑誠二
Billboard JAPANチャートディレクター
東京外国語大学スペイン語学科卒。92年キティ・エンタープライズ入社、同年クラブチッタ川崎に出向、ライヴ制作、招聘業務等を行う。96年退社後、原盤制作、著作権管理、商品流通管理等、多岐の業務に携わる。06年阪神コンテンツリンク入社後、ビルボードの日本国内ブランディングを担当、ビルボードライブ東京&大阪のマーケティングに従事する傍ら、ジャパンチャートの設計当初から関わり、現在もデータの選定や算出メソッドのブラッシュアップなど、ディレクション業務を続ける。ジャパンサイト運営やデータソリューション提供など事業領域の拡大にも携わり、音楽産業全体の発展に寄与するブランドの在り方を模索している。
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