連載 | #4 チャートハックと音楽シーン

Billboard運営が警鐘「チャートハック目的では、音楽を“聴く”とは言えない」

ファンダムに問う「チャートハックは楽しいですか?」

「ファンダムの人たちが、あの手この手でチャートをハックしようとしていることは知っています。逆に聞きたいんですが、それって楽しいですか?

アーティスト側はあくまで『一緒に楽曲やライブを楽しんでほしい』と思っているはずなんです。それがいつの間にか、ファン活動がアーティストに奉仕するという『労働』に形を変え、“推し疲れ”という言葉さえ生んでてしまっている。

『今後、ファンダムはどうあるべきか』というのは、アーティストやレコード会社、そしてファンダムを構成するファンの人たちにも問われていることだと思います」(礒﨑さん) 好きなアーティストを外へと広げたい、有名にしたいと願うファンダムの活動が、かえってファンダムの外側との壁を厚くしてしまっている側面もある。

ファンダム内部の熱量が強ければ強いほど、外側の人間からは狂信的に映り、それがアーティストや楽曲そのものの純粋な評価を歪めてしまいかねないからだ。

「再生数キャンペーンやSNSでの過剰な盛り上がりが、逆に壁を高くしてしまっている気がします。SNSの浸透によって曖昧なものを認めず、自分と違う意見やネガティブな意見を攻撃するような同調圧力も出てきました」(高嶋さん)

「アーティストや楽曲に対して『とにかく素晴らしい』と言うことは大切ですが、『今回の曲より前の曲の方がよかったよね』と言えることも同じくらい大事なことな気がします。それが今言えてないようにみえるのが残念ですね」(礒﨑さん)

「誰も好きじゃなくても、自分がすごく好きなものを好きと言える世の中になってほしいです。それに対して私たちができることは、特定のジャンルに囚われないことや、知名度が高くないものも等しく発信していくことだと思います」(高嶋さん)

Billboard運営が考える、ヒットチャートの存在意義

一方でアーティスト/レーベル/ファンダムがあの手この手でヒットチャートへの働きかけを行い、他方ではチャートアナリストたちが、チャートに乗せるためのデータ分析を行う。

様々な思惑がヒットチャートを取り巻く中、上位にランクインした作品を見て「これがヒットしている曲なのか」と素直に捉える一般リスナーも多いだろう。

その構造が事実としてあるからこそ、アーティスト/レーベル/ファンダムは、意図的にヒットチャートに働きかけようとする。

ここで改めて考えたいのが「ヒットとは何か」。そして「ヒットチャートの存在意義とは何なのか」ということだ。 「『これがヒットの順番です』と、アーティストや多くのスタッフが関わってつくられた創造物に対して順位付けをするヒットチャートには、とても重い責任があります。そのため、私がチャートを設計する上で最初に考えたことは、できるだけ属人的な判断を除外することでした」(礒﨑さん)

Billboard JAPANは、「よくある質問」にチャートの基本的なルールを記載するとともに、サービス「CHART insight」で各指標のデータを1位から20位まで無料公開している。

さらに課金すれば、より多くのデータを閲覧することもできる。各指標を並び替えて、Billboard JAPANが発表しているものとは違った自分用のチャートをつくることも可能だ。

「CHART insight」/画像はBillboard JAPANのスクリーンショット

「どこにも忖度しておらず、純粋に『楽曲やアーティストの社会的浸透度を表すためのチャートを運営している』というスタンスを維持したいと思っています。

基本的なルールやデータを見ていただいて、ヒットチャートのあるべき姿をリスナーの皆様にも考えていただきたいですし、『Billboard JAPANが出しているのはこの順番だけど、自分はこの順番の方がしっくりくる』という風に、音楽との色々な出会い方をしていただけたらと思ってます」 (高嶋さん)

ヒットチャートは誰のためのもの? Billboard運営の答え

その他にも、Billboard JAPANはネクストブレイクアーティストを取り上げた「Heatseekers Songs」やTikTokチャートを確立することで、新しいアーティストをフックアップしようとしている。そんな中で、これから押し上げていく必要性を感じているのは、デビューから3~5年経った中堅層のアーティストだという。

「新人としてのプロモーションが一段落したアーティストが、うまく次のヒットを飛ばせないというケースが多いんです。しかし、中堅層のアーティストが出しているYouTubeやストリーミング数も、デジタルの市場の拡大に連れて実際は伸びているはず。

そこを上手く引っ張り上げられれば、ヒットチャートもより活性化するはずなんです。どうすればそういった曲が聴いてもらえる環境になるのかを次の目標として掲げています」(礒﨑さん) ヒットチャートとしてランキングが提示されたとき、私たちはそれを「正解」として受け取ってしまいがちだ。しかし、それはあくまで決められた指標から切り取られた一つの結果にすぎない。

「私たちは『ヒットチャートとして権威になる』という発想を持たないようにしています。エンターテインメントを提供している意識なんです。Billboard JAPANのチャートがこうだから『正解』ではなく、『本当はこの曲の方が良い』という会話が生まれるキッカケであってほしいと思っています。

ヒットチャートを運営していく上で私たちがずっと考えているのは、『ヒットチャートは誰のものか?』ということです。

そしてそれはやっぱり、音楽ファンやリスナーのためのものであると思います。過剰な行動に対しては調整しますが、チャートにユーザーが参加する余地は残したいと考えています」(礒﨑さん)

ヒットチャートをそのまま鵜呑みにするのではなく、それをどう解釈するか。どう楽しみ、どう新たな音楽と出会っていくか。音楽シーンのこれからは、リスナーの手にも握られている。

※記事初出時、一部表記に誤りがございました。お詫びして訂正いたします。
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連載

チャートハックと音楽シーン

音楽配信の主流がCDからデジタルへ移り変わる昨今。CDの複数枚購入を促す従来の特典商法に加え、デジタルならではの「チャートハック」行為が音楽シーンに影響を及ぼしている。 アーティスト・レーベルの人為的な施策やファンダムによるチャートハックの是非。改めて、「音楽を楽しむ」とはどういうことなのか。 再生数やランキング結果など、わかりやすい「数字」の話題性・権威性に頼らず、アーティストや楽曲を知ってもらうためにできることを探る。

ヒットチャートと超情報社会を巡る

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26件のコメント

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hamachidori

hamachidori

はいこの記事は数字上げを自己目的化したファンダムの狂熱行動はもはや音楽をたのしむことから逸脱してきており、本来指標化したかった音楽評価が困難にもなっているといったこと+その他を言ってるようですが、その根底にある一番の問題にはふれてませんね。

エンタメ音楽ビジネスの基盤にある市場原理、シビアな数字の競争、優勝劣敗のマネーと人気の獲得というものをです。ビルボードは端的にいってしまえばその競争の場で必要になる数字の指標をだすためのデータ提供ビジネスでしょう。
すこし乱暴なたとえでいうとマネー経済で株式が実体経済とかけ離れて高騰する、投機で資産価格が以上にあがり大きな評価益がでているかにみえる=みせかけの価格高騰バブルが新曲発表のたびわきあがるというイメージでしょうか?

音楽評価の指標をだしてくるという媒体にいまやsnsやYOUTUBEというネットとそのアルゴリズムが加わって、イイネの通貨でマネーゲームのようにも推し株を高騰させることができるという、そんな時代を記事は語らないでも見せていますが

これはそもそも既存のビジネス、テクノロジーの進化形とファン心理がマリアージュしたという現象ではと思います。実体よりも何千万何億のアバターを瞬時に持てるインフルエンサーこそ今の市場の神になんです。

ファンの狂熱行動を問題視するビルボードさん、実はビルボードさんもそれを助長するはたらきそのものを提供してますよ、ビルボードだけでなくいまのAI搭載テクノロジーと市場原理の「システム」がそれを可能にして無限の競争の場を提供してますよ。


ファンの狂熱行為のゆえこまったものだという片付け方やアピールを世論にしたいのかですが、

その1  指標化する集計システム、つまり「AIテクノロジーには善悪の判断はなく、機能として無限に機能してしまうこと」(→歯止めがきかない)
その2  人気や購買を数字化してこれも果てなく競争していくだけの市場原理(→歯止めがきかない)


という、すでにシステム破綻は必至であるのがほんとうの原因であり、これをシステム基盤として進んでいく現代社会に重大な問題があるんじゃないの?とわたしは見ています。

われらが神をつくりたいファン心理と市場の神を現出させたいエンタメビジネスがマリアージュして
ハイテクインフラの上踊り出したという21世紀の今ココなんですね。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:9543)

好きだから聴いてる。ただそれだけ。
興味ない人はどんなにタグが出回ろうが気になどしない。
魅力あるからこそファンダムがつく。

匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:9309)

ジョングク2曲トップテンに入ってるじゃないか、ソロなのに凄いな。

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