連載 | #1 チャートハックと音楽シーン

Billboard JAPAN、年間ランキング発表 現代におけるヒットチャートの困難と意義

BTS (방탄소년단) 'Butter' Official MV/画像はYouTube より

POPなポイントを3行で

  • Billboard JAPANが2021年の音楽ランキング発表
  • 楽曲は「ドライフラワー」、アーティストはBTSが1位
  • 熱狂的ファンが左右する「チャート」の存在意義
音楽チャート・Billboard JAPANが、2021年の年間ランキングを発表した。

総合ソングチャート「HOT 100」をはじめ、総合アルバム・チャートの「HOT Albums」、それらを合算したアーティスト・チャート「Artist 100」など全12部門について公式サイトに掲載。特設サイトでは、主要部門の分析も添えられている(外部リンク)。

「HOT 100」ではシンガーソングライター・優里さんの「ドライフラワー」が1位の栄冠に輝いた。

韓国の男性7人組ヒップホップグループ・BTS(防弾少年団)の「Butter」、昨年の1位だったYOASOBIの「夜に駆ける」がそれに続く。

特にBTSは、「HOT Albums」においても日本ベストアルバム『BTS, THE BEST』で首位を、5thスタジオ・アルバム『BE』で7位を獲得。「Artist 100」の頂点に君臨している。

“音楽的”なヒットチャート・Billboard

2021年 年間 JAPAN Charts/画像はBillboard JAPANより

アメリカで最も権威があるとされる音楽チャート「Billboard」の日本版であり、2008年より開始された「Billboard JAPAN Charts」。

CDやダウンロードの売上のみならず、ストリーミングやラジオ、動画の再生数やPCへのCD読み取り数、ツイート数、カラオケで歌われた数といった8つの指標に、独自の係数を掛け合わせて合算。総合ソングチャートとして算出している。

いわゆる握手券商法など、音楽以外の付加価値でランキングが左右されてしまう単一のCDセールスランキングと比較し、より“音楽的”なチャートとして評価されてきた。

YouTubeを代表とする動画メディアや定額制ストリーミング配信サービスの台頭など、時代の変化に合わせて指標や係数など算出方法の見直しを行い、音楽シーンを映す鏡となるようにブラッシュアップが続けられている。

しかし、皮肉なことだが、いつの時代もシステムをハックしようとする動きは存在する。

チャートに影を落とす、熱狂的なファンによる操作

Billboard JAPANは、「SNSでの話題性」を測るツイート数のカウント方法について、アーティスト名と曲名どちらも書かれているツイート(ハッシュタグの有無は問わず、リツイートやリプライも含む)が集計対象であることを公表している。

Twitterでアーティスト名や曲名を検索したとき、まったく無関係の内容なのにも関わらず、それらが添えられているツイートを見たことはないだろうか?

熱狂的なファンが応援するアーティストをチャート入りさせるため、ツイート数を稼ぐために行なっているものだ。それを見た人がそのアーティストや楽曲を聴きたくなるわけでもない、むしろノイズにしかならないにも関わらず。

このような数字稼ぎは、Twitterのみならずあらゆるプラットフォームで組織的に行われている。

例えば、経済誌「Forbes」はBTSの熱狂的なファンによるチャート操作について取り上げている(外部リンク)。

確かに、それでもファンの熱量を可視化することは可能なのかもしれない。しかし、握手券商法とそれに果たして違いはあるのだろうか? 真の意味での「ポップ」には、到底及ばない。

もちろん、今回のBTSの1位が操作されているからふさわしくない、と批判したいわけではない。あくまで事実として、あらゆるランキングは操作が可能だということだ。

「新しい音楽との出会い」鍵はリスナーの手の中に

その楽曲・そのアーティストが好きだから再生・投稿するのと、チャート入りさせるために再生・投稿するのでは全く質が異なる。しかし、システム上では同じ1回としてカウントされてしまう。

きっと、本当の意味でポップさを順位付けすることは不可能なのだろう。どんなにシステムをアップデートしても、結局は数字を稼ぎ合うゲームになってしまう。

常に産業の環境が変化していく音楽のチャートという性質上、完璧な意味でオーガニックなランキングをつくることなど不可能だ。

しかしそのような不可能性の中にいることを(おそらく)承知の上で、Billboard JAPANは、ヒットチャートの意義について次のように説明している。

チャートがなかったらカオスだ、とは米国チャートディレクターの言葉ですが、ヒットチャートは新しい音楽との出会いを可能にします。好きなアーティストの楽曲の順位を確認するだけではなく、他の楽曲も聞いてみて下さい。どんな曲にもヒットするには必ず理由があります。
 <新しい音楽との出会いが世界を変える>そんな経験があなたを待っています。 【Billboard JAPAN Chart】よくある質問

ヒットチャートは、「新しい音楽との出会い」のために存在している。そしてそれは、ヒットチャートのみの役割ではないはずだ。

「自分の好きなものを、他人に好きになってもらおうとする」こと。真のポップへの鍵は、リスナーの手にも握られている。

1
2
この記事どう思う?

この記事どう思う?

関連キーフレーズ

連載

チャートハックと音楽シーン

音楽配信の主流がCDからデジタルへ移り変わる昨今。CDの複数枚購入を促す従来の特典商法に加え、デジタルならではの「チャートハック」行為が音楽シーンに影響を及ぼしている。 アーティスト・レーベルの人為的な施策やファンダムによるチャートハックの是非。改めて、「音楽を楽しむ」とはどういうことなのか。 再生数やランキング結果など、わかりやすい「数字」の話題性・権威性に頼らず、アーティストや楽曲を知ってもらうためにできることを探る。

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。