YouTubeで公開されているアイドルのMVの概要欄に、「〇〇(別のアイドルグループ)担です」「××(別のアイドルグループのファンネーム)です」といったコメントが書かれているのを見たことはないだろうか?
TOBE所属のNumber_iが1月1日に発表し、10月28日に達成した8000万回再生をデビュー曲「GOAT」のコメント欄を例に挙げよう。
コメントの冒頭で、「PINKY.(=IMP.のファンネーム)です」「北山担(=北山宏光さんのファン)です」など、コメントする自らが誰のファンなのかを主張している。
まるで戦の際に、武士が名乗りを上げる作法のようだ。
また、「Buddies(=櫻坂46のファンネーム)です」や「MINI(=INIのファンネーム)です」、「HiHi担(=HiHi Jetsのファン)です」と、TOBE所属アーティストのファン以外も同様のコメントを行っている。
これは、男女や所属事務所の違いは問わず、現代のあらゆるアイドルMVのコメント欄で散見されている文化的風潮だ。
一体、この「〇〇担です」という名乗りには、どんな意味があるのだろうか?
他のファンダムからの評価は、客観性を帯びる
言葉の表面だけを捉えるならば、MVを発表したアイドル本人への賞賛を、より喜ばれる形で伝えるべく、あえて自身の立場を明示しているとも考えられなくはない。
ファンからの賞賛以上に、ファン以外からの賞賛は、アイドル当人にとってもファンダムにとっても嬉しいものだ。
ファンダムの“外側”(他のファンダム)からの評価は、より客観性を帯びる。だからこそ、ファンダムにとっては推しのアイドルが、真に価値のある存在だと実感できる。
一見、ファンダムを横断し賞賛を送り合う、素晴らしいコミュニケーションにも思える「〇〇担です」というコメント。しかしその裏には、ファンダム間の政治的な駆け引きも隠されている。
端的に表現するならば、「〇〇担です」は「〇〇担はあなたたちの味方ですよ」「だから私の推しの時も協力してください」と同盟を持ちかけているのだ。
つまり、再生数や得票数稼ぎ──“チャートハック“──への協力関係を図ろうとする宣伝であり、政治的外交なのである。
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連載
音楽配信の主流がCDからデジタルへ移り変わる昨今。CDの複数枚購入を促す従来の特典商法に加え、デジタルならではの「チャートハック」行為が音楽シーンに影響を及ぼしている。 アーティスト・レーベルの人為的な施策やファンダムによるチャートハックの是非。改めて、「音楽を楽しむ」とはどういうことなのか。 再生数やランキング結果など、わかりやすい「数字」の話題性・権威性に頼らず、アーティストや楽曲を知ってもらうためにできることを探る。
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