連載 | #8 チャートハックと音楽シーン

政治化する推し活──アイドルMVのコメント欄「◯◯担です」から考える

コメント欄に「〇〇担です」と書き込まれているNumber_i「GOAT」MV

YouTubeで公開されているアイドルのMVの概要欄に、「〇〇(別のアイドルグループ)担です」「××(別のアイドルグループのファンネーム)です」といったコメントが書かれているのを見たことはないだろうか?

TOBE所属のNumber_iが1月1日に発表し、10月28日に達成した8000万回再生をデビュー曲「GOAT」のコメント欄を例に挙げよう。

コメントの冒頭で、「PINKY.(=IMP.のファンネーム)です」「北山担(=北山宏光さんのファン)です」など、コメントする自らが誰のファンなのかを主張している

画像はNumber_iの公式YouTubeチャンネルのスクリーンショット(ぼかしは編集部)

まるで戦の際に、武士が名乗りを上げる作法のようだ。

また、「Buddies(=櫻坂46のファンネーム)です」や「MINI(=INIのファンネーム)です」、「HiHi担(=HiHi Jetsのファン)です」と、TOBE所属アーティストのファン以外も同様のコメントを行っている。

これは、男女や所属事務所の違いは問わず、現代のあらゆるアイドルMVのコメント欄で散見されている文化的風潮だ。

一体、この「〇〇担です」という名乗りには、どんな意味があるのだろうか?

他のファンダムからの評価は、客観性を帯びる

言葉の表面だけを捉えるならば、MVを発表したアイドル本人への賞賛を、より喜ばれる形で伝えるべく、あえて自身の立場を明示しているとも考えられなくはない。

ファンからの賞賛以上に、ファン以外からの賞賛は、アイドル当人にとってもファンダムにとっても嬉しいものだ

ファンダムの“外側”(他のファンダム)からの評価は、より客観性を帯びる。だからこそ、ファンダムにとっては推しのアイドルが、真に価値のある存在だと実感できる。

King & Prince「moooove!! 」MVでも同様のコメントは存在している/画像はKing & PrinceのYouTubeスクリーンショット(ぼかしはKAI-YOU編集部)

一見、ファンダムを横断し賞賛を送り合う、素晴らしいコミュニケーションにも思える「〇〇担です」というコメント。しかしその裏には、ファンダム間の政治的な駆け引きも隠されている。

端的に表現するならば、「〇〇担です」は「〇〇担はあなたたちの味方ですよ」「だから私の推しの時も協力してください」と同盟を持ちかけているのだ。

つまり、再生数や得票数稼ぎ──“チャートハック“──への協力関係を図ろうとする宣伝であり、政治的外交なのである。

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