ボカロP・はるまきごはんさんの個展「わたしたちの足跡」が、東京・三鷹のしろがねGalleryで11月26日(火)まで開催されています。
活動10周年を迎えた2024年、2月のワンマンライブを皮切りに、これまで生み出してきた世界やキャラクターを巡る様々な取り組みを公開。
10月29日には、はるまきごはんさんの全楽曲と、生み出したキャラクターからの“贈り物”を収録した10周年コンプリートボックス「おとぎの銀河団」を発売しました。
はるまきごはんさんは以前、KAI-YOUの取材に対して、10周年プロジェクトについて「自分が生み出したキャラクターやそれを見てくれた人たちが主役であってほしかった」と話していました。
ファンが自発的に足を運び、それぞれのペースとスタンスで作品を鑑賞できるという意味では、個展もまた、見る人が主役になれるエンターテインメントの一つと言えるはず。
今回は、そんな個展「わたしたちの足跡」を、はるまきごはんさんの解説付きで会場内を取材。本人のイラストレーションの歴史に加え、はるまきごはんさんが生み出してきたキャラクターたちの足跡を辿ります。
取材・文:ヒガキユウカ 編集:恩田雄多 写真:寺内暁
目次
はるまきごはんの幼少期から辿る、創作活動の変遷
「わたしたちの足跡」の展示スペースは大きく2種類。
前半は、はるまきごはんさんのこれまでの作品を順に展示したコーナーで、後半は私たちが触れられる作品も含めた体験型の展示群です。
個展のコンセプトは「キャラクターたちの足跡を探す」こと。
会場全体で、はるまきごはんさんが生み出したキャラクターであるエテル・シアナとメルティが、昔のキャラクターにもう一度会いに行くというストーリーが展開されます。
過去の作品展示は、小学生の頃に描いたイラストと漫画からはじまります。昆虫やザリガニを主人公とした作品からは、年齢相応な少年時代の様子がうかがえ、ほほえましい気持ちになります。
「自分が飼っている生き物を描くのが好きでした。漫画版の『風の谷のナウシカ』も好きで、(当時描いていたモチーフの)武器や飛行機はそこから影響を受けています」(はるまきごはんさん・以下同)
当時、漫画の持ち込みが禁止されていたため、学校でははるまきごはんさんの描いた漫画が抜け道的に読まれていたそう。自由帳一冊を1巻として、10巻まで続いた長編もあるというから驚きです。
「だんだんまわりに見せなくなって、中学の頃には、漫画を描いていること自体言わなくなりました。徐々にパーソナルな描写が増えてきて、友達に見せるためではなく、自分のための創作になっていったんです」
続くコーナーは、原画での展示。当時は1日1枚以上ルーズリーフに絵を描いて、「すべて描き終えるとタイトルをつけてナンバリングしていた」と言います。
中学時代から高校を卒業する頃まではルーズリーフに描き続け、その束は15冊に。それ以降はデジタルに移行したので、ルーズリーフの作品群は15冊で止まったままでした。
ルーズリーフの“続きの1枚”を個展用に描き下ろし
その後に続く展示は、デジタル移行後のイラスト。色彩の豊かさや空間の奥行きがより洗練され、ゲームのコンセプトアートのような作品群に目を奪われます。
「アナログは描く前に手法を考えたり、道具を揃えたりと、準備段階でその後の表現の幅が大きく変わります。それがアナログの醍醐味でもあると思うのですが、デバイスとソフトウェアさえあればみんなが同じスタートラインに立てるデジタルの方が、僕の性格には合っていました」
展示前半の最後にある1枚は、個展のために書き下ろしたイラスト。
「これは残っていた15冊目のルーズリーフの、続きの紙に描きました」とはるまきごはんさん。
「実は『僕は可憐な少女にはなれない』のMVで、タイトルの上にある記号のような文字列は『16TH NOTE』と書いています。『僕は可憐な少女にはなれない』は、16冊目のルーズリーフのタイトルなんです。改めて、一連の作品の流れを感じていただけたらと思います」
一つひとつの作品を独立したものとして見るのではなく、それらの流れや変化を追いかけることで、様々な思いがかき立てられます。
MVのカットやジャケットなど見慣れたイラストも、こうして見ることで懐かしさと新鮮さの混ざった不思議な気持ちになりました。
来場者が触ることで完成する──体験型のはるまきごはんの作品展示
過去作の展示から抜け道のような通路に入ると、舞台美術、あるいはSF作品に登場する装置のようにも見える、大掛かりな展示がありました。
これは2023年、大阪関西国際芸術祭のために制作された展示型の音楽作品「聴心」です。
手元のつまみがそれぞれスピーカーとつながっていて、パラメーターを動かすことで、音楽の各楽器のボリュームが変化。
今回の個展ではこの音楽が会場BGMとなっており、来場者が「聴心」のつまみを操作することで、会場BGMも変化するという仕掛けです。
ふと背後に視線を感じて振り返ると──。
何やら存在感のある作品が……!
これは、実際に触れるメルティさんの展示。盛り上がって見える部分はじゅうたんのような生地になっています。
「メルティランドナイトメア」のMVで生まれ、ライブやインタビュー現場に同席するなど、すっかりお馴染みの存在となったメルティさん。洋服のボタンに「福」の字があしらわれ、なんともご利益がありそうです。
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