2024年2月に、活動10周年を迎えたボカロP・はるまきごはんさん。
曲づくりはもちろん、自身でイラスト、アニメMV、歌唱も手掛けるなどマルチクリエイターとして知られ、過去にKAI-YOUが行ったインタビューでも、ものづくりに打ち込み続ける彼の一貫した創作論が展開されてきた。
2018年発表のヒット曲「メルティランドナイトメア」以降は、曲と曲をつなぐ形でストーリーとキャラクターが展開。その集大成としてアルバムリリースやワンマンライブを行う、という流れのシリーズ作品も定番となりつつある。
「ふたりの」シリーズ、そして「幻影」シリーズを経て、2024年は10周年を祝う新シリーズ「おとぎの銀河団」がスタートする。
「おとぎの銀河団」とは、10月29日(火)にリリースされる新アルバムのタイトルであり、現在受注受付中の「『おとぎの銀河団』10th Year Complete Gift Box」のタイトルでもある。
今回は、はるまきごはんさんの作業場で、10周年を振り返るインタビューを実施。「おとぎの銀河団」の制作話や、これまで生み出してきたキャラクターへの思いについてじっくりと聞いた。
取材・文:ヒガキユウカ 編集:恩田雄多 写真:寺内暁
目次
「死ぬまで続けるつもり」ではじめたボカロPという活動
──ボカロPとしての活動をはじめたとき、10年間続けることになると思っていましたか?
はるまきごはん 死ぬまで続けるつもりではあったので、10年後も「死んでなければ続いているだろうな」とは思っていました。
当時、「10年先は全部の時間をものづくりに使えるようになったらいいな」と思っていて、今無事にそうなれてよかったです。
もともと毎日同じ時間に起きるのが苦手だったし、決まった時間に働くようなルーティンをつくれない人間なんですよ。だから「サラリーマンにはならないぞ」と子どもの頃から思っていました。
──活動当初から「死ぬまで続けるつもりだった」と決断できたというのは驚きです。
はるまきごはん 決断というよりは、宮﨑駿さんのように、どれだけ歳を重ねても作品を作り続ける人生でありたいと思っている、という方が正しいかもしれないです。
──音楽をつくりはじめる前もイラストを描いたり漫画を描いたりと、創作活動とともにある人生だったとうかがいました。具体的にものづくりの道に進む覚悟を決めたのは、いつ頃でしたか?
はるまきごはん 高校1年生の秋に、部活を辞めたときですね。それが人生で一番の決断でした。部活自体を「やらなきゃいけない」という強迫観念でやっていたんです。
結構本格的な部活で、夜の21時ぐらいに終わって翌朝の6時からまた朝練が始まるような生活だったんですが、全くついていけなくて。
部活を辞めてから、放課後に時間も生まれたし、Cubaseを買ってDTMをちゃんとやるようになりました。それがなかったら、今みたいになっていたかどうかわかりません。
ボカロをはじめたことで、人間を理解することができた
──強迫観念でやっていたとは、具体的にどういう心理状態だったんですか?
はるまきごはん 僕は高校ぐらいまで自分の意思があんまりなくて、自分が何を好きかとか、何をやりたいかとかも、学校ではあんまりわからなかったんですよ。
僕の地元は「腕っぷしの強いやつが正しい」みたいな世界だったんですけど、僕は腕っぷしが弱かったので、自分の意思を出すことがなかなかできなくて。
だから、創作のことも学校では隠していました。学校という場所に自分の大切なものを持ち込みたくなかったというか……。
はるまきごはん 人はどんなふうに好きなものを選んで、どうやって物事を判断しているのかが、ボカロをはじめてからようやくわかってきたぐらいなんです。
だから部活も、全然やりたくなかったのに、自分の思い込みで「やるのが当たり前」のような考えになっていたんだと思います。
ボカロをはじめたことで人間になれたというか……服や家具を買うときも、最近やっと自分が欲しいものをちゃんと選べるようになってきて、「ああ、みんなこういう感覚でものを買っていたんだ」と感じています。
──大学を卒業したタイミングで北海道から東京に移られたそうですが、上京にあたってクリエイター仲間が助けてくれたりはしましたか?
はるまきごはん ニコニコ界隈の知り合いで、先に東京に住んでいた先輩たちが助けてくれることはありました。本当に何もわからず出てきたのでとても助かりました。
はるまきごはん10周年の主役は、キャラクターと見てくれる人たち
──活動10周年を迎えた2024年はワンマンライブ、中国ツアー、アルバムリリース、個展(予定)など、盛りだくさんとなっています。特にコンプリートギフトボックスはこの10年の集大成的位置づけだと思いますが、どんな内容になるんでしょうか?
はるまきごはん 「『おとぎの銀河団』10th Year Complete Gift Box」は「キャラクターたちからの贈り物」というテーマでつくっていて、4枚組CDを含む10種類のグッズが入ります。
「おとぎの銀河団」という名前はキャラクターたちの集団を指すものでもあり、彼女たちが暮らす銀河を指すものでもあります。
はるまきごはん テーマの通り、キャラクターからの贈り物をグッズにしていて、たとえば「みんなからの手紙」は、キャラクターから受け取ってくれる人への手書きの手紙です。
ほかにも、「ナナのイヤリングチャーム」は、「彗星になれたなら」のMVでナナが着けていたイヤリングを再現しました。彼女が海岸で拾った石でつくったものというバックストーリーがあります。
「みかげねこハンカチ」は、もともと「第三の心臓」のMVに登場するみかげの筆箱を入れていたのが、輸送中にぺちゃんこにつぶれてしまって、ハンカチになったものなんです。
──一つひとつ、緻密なストーリー設計があるんですね。
はるまきごはん そもそも10周年の一連の企画は、過去のMVの投稿日にあわせて告知やリリースを行うようにしています。
このコンプリートボックスの発売日である10月29日は、6年前に楽曲「セブンティーナ」のMVを公開した日なんです。
はるまきごはん だから、ティーナとメルティが告知担当という形を取っているんですが、「メルティがボックスを届けようとしたら自分自身がボックスに入ってしまった」という具合で、コンプリートボックスにはメルティのフィギュアも入ります。
このフィギュアはデザイン図面から原型師さんに相談して、2023年の秋頃から一緒につくってきました。原型師さんにいただいた3D図面に、自分が修正を入れる形でやりとりしています。
はるまきごはん 今までは自分が作品をつくって届けるだけだったんですが、届ける過程も含めて作品にしたいと思って、今回はこういう形にしてみました。
──ご自身の存在を極力透明化して、あくまで「キャラクターが自発的に動いている」ということを大切にしているんですね。
はるまきごはん 10周年企画といっても、自分というよりは、自分が生み出したキャラクターやそれを見てくれた人たちが主役であってほしかったんです。自分はあくまで、彼ら、彼女らをお祝いする方がいいなと。
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はるまきごはん
ボカロP
札幌市出身のミュージシャン、イラストレーター、アニメーター。作詞作曲編曲、イラスト、映像、アニメーション制作まで、全てのクリエイションを手がける。VOCALOID、自身歌唱によるMVで描かれる物語を軸に、本人がコンセプトからパッケージイラスト・デザインまで手掛けるアルバムや、オリジナルアニメを駆使したライブ、グッズ制作、個展などを展開、最新作「幻影シリーズ」では、ゲームアプリや漫画も手掛けている。2019年よりアニメ制作チーム・スタジオごはんを立ち上げ、アシスタントと共にアニメーション制作を行っている。スープカレーが好き。
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