はるまきごはん、培った10年とキャラクターへの憧憬「ボカロをはじめて人間になれた」

『プロセカ』提供曲は「まふゆの曲を、まふゆと一緒に作った感覚」

──10周年のトピックスとしては、直近で『プロセカ』(プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク)への楽曲提供もありました。『プロセカ』への提供はキタニタツヤさんとの共作「月光」を入れて2曲目ですが、今回の楽曲「エンパープル」については、どのようにお話が来たんでしょうか?

『プロセカ』への提供第1弾「月光」MV

はるまきごはん 「朝比奈まふゆ(※)の曲を書いてください」とお話をいただきました。

まふゆは親子関係で重めの背景があるんですが、ボカロ曲で親子関係を書かれる方ってあまり多くはないと思うんですよね。自分は最近だと「ディナーベル」などの曲で扱っていたので、勝手に謎の使命感みたいなものを感じていました。

※『プロセカ』内に登場する4人組音楽サークル「25時、ナイトコードで。」のメンバー。それぞれが人間関係や家庭環境、過去に複雑な事情を抱えており、まふゆは母親に「いい子」であることを求められ続けている。

──普段ボカロ曲をつくるときと、意識するポイントは違いましたか?

はるまきごはん 「エンパープル」は、まふゆというキャラクターの曲という前提があるので、彼女の人間性と矛盾しないようにしようという意識はありました。

加えて、一般的なゲームの書き下ろし曲だったらそのキャラクター自身を表現する曲が多くなると思うんですが、今回はまふゆと一緒に作品をつくるようなイメージでした。『プロセカ』はそうやって、ユニットとボカロPがコラボレーションするように制作されている曲が多いと思うんですよね。

──「エンパープル」のMVの内容についても教えてください。

はるまきごはん 完全な紫色を求める女王様が、自分の娘たちに染色を繰り返す物語になっています。

普段はMVと曲がセットになっていて、MVの情景をそのままボカロが歌っているようなつくりの作品が多いんですが、今回はMVと曲をある程度切り離してつくっています。曲には曲の、MVにはMVのストーリーラインがあり、時にリンクするという形です。

「エンパープル」MV

──MVと曲を切り離したのは、ゲームへの書き下ろし曲だからでしょうか?

はるまきごはん MVと歌が直結した内容にすると、まふゆを邪魔しちゃうなと思ったんです。だから曲とMVが独立したつくりになっているんですが、MVのテーマも紫色がテーマになっていて、それはそれで成立する構造にはなっています。

まふゆは母親に縛られているところがあって、MVに登場するキャラクターも完璧な紫色を目指す女王から染色を繰り返され続けている。まふゆとMVについても、世界観こそまったく違うものの、共通するメッセージ性はあると思います。

はるまきごはん作品の象徴──楽曲を彩るキャラクターが生まれるまで

──はるまきごはんさんの作品は、楽曲だけにとどまらないストーリーがあり、それを巡ってキャラクターが動いていくというシリーズ展開が定着してきています。シリーズ作品のつくり方は、ある程度ご自身の中でスタイルができているんでしょうか?

はるまきごはん 決まった雛形があるわけではなく、そのシリーズごとに、何を起点にするかによって変わりますね。

今までのものだと、「ふたりの」シリーズは「再会」という曲から広げる形で世界観をつくりました。新作の「おとぎの銀河団」は、やりたいストーリーがすでにあるので、それを作品に落とし込むイメージでつくるつもりです。

──キャラクターデザインは、MVをつくるときに考えるのでしょうか?

はるまきごはん そうですね、まさにMV制作の最初の作業の一つがキャラクターデザインです。

今ちょうどエンパープルのMVをつくっているんですが(※)、こういう感じでキャラクターデザインとコンテをつくって、作画に入る感じです。  

※取材は6月中旬に実施。

「エンパープル」MVの制作風景

──性格や内面も一緒に決めていくんですか?

はるまきごはん キャラクターのセリフや考え方は作品をつくる上で絶対に必要なので、内面も最初の段階でだいたい決めています。

特に「ふたりの」シリーズのナナとリリや、「幻影シリーズ」のみかげなど、シリーズ作品でキャラクターがより深く作品に紐付いているときは、この段階でしっかり固めています。

ナナとリリは自分の性格を半分にして2人に分けたり、みかげは自分の本心の部分だけを擬人化したりと、それぞれ生まれ方は違います。

共通しているのは、僕自身が持っている要素から生まれていること。なので、キャラクターたちは自分の子どもというか、「自分が生み出した小さな人たち」という感覚です。

「ふたりの」シリーズの1曲「彗星になれたなら」MV

──ご自身の子どものようなキャラクターを生み出す際に、悩むことはありますか?

はるまきごはん 作業の中で悩むことはないんですが、最近懸念しているのは、1年に3~4曲ぐらいMVをリリースしていく中で、一歩間違えたらキャラクターが消耗品のようになってしまいそうなことです。

シリーズ作品でなければ年に3~4人(=3〜4曲分)キャラクターをつくることになるんですが、つくって終わりだとすごく不健全だなと思っていて。

本当は一人ひとりともっと大切に向き合いたいのに、ただ曲を彩るためだけに配置しているみたいで、悲しいじゃないですか。そこが最近の悩みかもしれません。

はるまきごはん だからこそ、ライブで流すアニメ映像やアルバム、それこそ今回の10周年企画もそうですが、MV以外にもキャラクターが描かれる場所をつくっています。

シリーズ作品のときは特定のキャラクターで5曲ぐらいMVをつくるので、つくっていくごとにキャラクターのディテールや、理解が深まっていく感じがあります。シリーズとして展開する魅力でもありますね。

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はるまきごはん

ボカロP

札幌市出身のミュージシャン、イラストレーター、アニメーター。作詞作曲編曲、イラスト、映像、アニメーション制作まで、全てのクリエイションを手がける。VOCALOID、自身歌唱によるMVで描かれる物語を軸に、本人がコンセプトからパッケージイラスト・デザインまで手掛けるアルバムや、オリジナルアニメを駆使したライブ、グッズ制作、個展などを展開、最新作「幻影シリーズ」では、ゲームアプリや漫画も手掛けている。2019年よりアニメ制作チーム・スタジオごはんを立ち上げ、アシスタントと共にアニメーション制作を行っている。スープカレーが好き。

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