彼らのデビュー曲につけられた「GOAT」という題名は“Greatest Of All Time(史上最高)”を略したネットスラングである。
ヒップホップでもよく使われる言葉で、ハードボイルドなトラップビートの上で自尊感を誇示することでインパクトの強い印象を残すデビュー曲だと言えるだろう。
ここで忘れないでおきたいのが、Number_iはSMILE-UP.(旧ジャニーズ事務所)所属のグループ・King & Princeを脱退した平野紫耀さん、神宮寺勇太さん、岸優太さんがTOBEに移籍し“再”結成したグループだということだ。
もちろん、King & Princeにもハードなヒップホップに基盤を置いた曲(例えば後述する「ichiban」など)がなかったわけではない。ただ、同グループが爽やかなポップソング「シンデレラガール」(2018)でデビューしたことを思い返すと、「GOAT」は一見、その時代との決別を告げる曲のように映る。
しかし、必ずしもそうとは言い切れない。
ここでは①ブラフ、②カメラ、③テロップという三つのキーワードから、MVを読み解いてみる。
目次
視聴者を惑わすブラフ
MVの冒頭では、警告文と見せかけて「全年齢視聴勧奨」であることを示すというブラフが仕掛けられている。曲自体も、ハードなサウンドと攻撃的なラップフローに対して、実際に歌われている歌詞は「君の前で Love のメッセ」「すべて込めて愛に変える」など割と健全な内容。
冒頭の警告文は、この曲が、“相反する”と言ってもいいほど、ギャップのある2つの要素を含んでいることを視聴者に提示している。
次は、商店に入るシーケンスも見てみよう。 もしグループのパンク性を強調したかったのなら、この場面では絶対に陳列台をぶっ倒すなどの騒ぎを起こしたはずだ。しかし彼らは、防犯レーザーにスキャンされる中で、ラップをしながら、店内を荒らすことなく踊り続ける。
このようなギャップが、冒頭の警告文で示されたように、トラックの猛々しさに反して、彼らがまだ“アイドル”というスタンスを崩していないことを示すポイントになっている。 だからと言って、彼らはレーザーに象徴される世間からの視線を、ただ受動的に受け続けるだけではない。彼らは、彼らなりの術でレーザーを映し返すのだ。
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連載
大衆音楽は「音」だけで定義されません。特にMV(ミュージックビデオ)はレコードに準ずるほどの大きな影響力を及ばせてきました。 ラジオからテレビにポップの主導権が渡ってからビデオはさらに重要な位置を占め、21世紀に入ると動画配信サービスがその座を受け継ぎました。 今ではK-POPやボーカロイド、Vシンガーなどのジャンルにおいては特にMVが最重要に近い位置を占めており、それ以外の音楽分野でもより重要視されるべきビデオがたくさん存在します。 この連載では主に話題の新曲を対象に、定期的にMVに焦点に当ててレビューする連載を提案したいと思います。
2件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:9565)
スゴい深い考察、ありがとうございます!
これまでの彼らの生き様があってのGOATだと思います。
引き続き素敵な記事、期待しています。
匿名ハッコウくん(ID:9557)
深い考察ありがとうございます。
GOATのMVは見るたびに新しい発見があり、何度観ても飽きません。
この記事を読んで、また観たくなりました。