連載 | #5 チャートハックと音楽シーン

LINE MUSICに「再生数キャンペーン」問題を直撃──今、音楽業界に必要なこと

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LINE MUSIC「聴く目的か再生目的か判断する立場にない」

レーベル側が仕掛ける「再生数キャンペーン」の台頭以前より、熱狂的なファンダムの一部では、好きな楽曲やアーティストをチャートにランクインさせるため、意図的に再生数を稼ごうとする動きが見られている。それについてはどう考えているのだろうか。 「ちゃんと聴いているものとそうでないものがあるのは事実だと思いますが、それを我々が判断する立場にはないというか、コントロールしすぎるのもまた違うかなと。その中で、不正なものは適正化するべきだし、もっといいファンダムをどうやって生み出せるかを考えるべきだと思います」(高橋)

「盛り上がることはいいことだと思いますし、いわゆる“推し活”自体は支持したい。ただ、今は再生というアクションがその中心になっているので、それ以外でファンダム側もアーティスト・レーベル側もプラットフォーム側も嬉しいと言える場をつくるのが大事だなと」(岡)

音楽サブスクの「ランキングが入れ替わらない」問題

では、そういった「再生数キャンペーン」やファンダムの熱量に実際に左右されているランキングそのものについてはどうだろうか。

Billboard JAPANは社会的浸透度をランキングの一つの指針としているが、LINE MUSICにおけるランキングの意義について聞いた。 「音楽シーン全体を見ているBillboard JAPANとは違い、我々のような音楽配信サービスにおけるランキングはそのサービスの特色を表すものです。なので、我々は我々のユーザーの活動の総体をまず吸い上げるのが大事なことだと考えています。

LINE MUSICは若年層が多いからこそ、見た人が『これが今きてるんだ』とわかるような鮮度の高いランキングになればと思っています。そのために、新曲をフックアップしたり、ランキングを細分化したりと、若者らしいキャッチアップができる、楽曲の発見性を担保できるようにしています」(高橋)

「音楽配信サービスのランキングには、同じ楽曲やアーティストが1年間ずっと1位にいるなど入れ替わりがないという問題が昔からあります。何千万曲も配信しているのにそれが全部聴かれているわけではない。せっかくお金を払ってもらっているのだから、いろんな曲に出会ってほしいと思っています」(岡)

「好きなアーティストの曲」しか聴かない日本の傾向

「再生数キャンペーン」をはじめ、アーティストやレーベル、ファンダムによるチャートハックが生まれる原因のひとつには、ランキングの話題性・権威性を介して、楽曲やアーティストを広めていきたいという思いが存在する。

しかしそれ以前の問題として、日本の音楽視聴の傾向として「自分の好きなアーティストの楽曲しか聴かない」という傾向があり、それが音楽を広めていく上での弊害になっているという。

「データを見ると、海外と比べて日本は好みや趣味の押し付けのように見えてしまうからか、オープンに音楽がシェアされづらいという状況があります。LINE MUSICの施策の中で、LINEのプロフィールにBGMを設定できる「プロフィールBGM」という受動的なプル型の発信方法がブレイクしたことも、それを裏づけていると思います」(高橋)

2018年からは楽曲の好きな箇所を「プロフィールBGM」に設定できるように

「日本において、能動的なプッシュ型の発信が有効になるためには、新しい発明が必要だなと悩ましいところです」(高橋)

「ただ、現在のLINE MUSICでは、ランキングやレコメンドを見ても楽曲のタイトルやアーティスト名、ジャケット画像しか並んでおらず、それが何なのか分からないのは課題だと考えています。ランキング入りした理由とかジャンルとか何でもいいんですが、再生するか/しないかという点において違うと思うので、それだけでも必要かなと。

しかし、あまり長い文章は求められていないのかもしれません。タワーレコードにあるような『これだけきいとけ!』みたいなポップの一言とか、レコチョクの『着うた』の20文字のイチオシ文言とかのような、それくらいの情報でいいのかもしれませんね」(岡)

チャートハックに頼らず音楽を広めるために

日本は好みや趣味の押し付けのように見えてしまうから、オープンに音楽がシェアされづらい”。

その傾向があるからこそ、アーティスト・レーベルや熱狂的なファンダムは、再生数やランキング結果などわかりやすい「数字」の話題性・権威性に頼ろうとする。

しかしそれが行き過ぎてチャートハックが横行してしまうようになると、その数字やランキング自体の信頼・信用度が失われ、本末転倒な結果になってしまいかねない。

楽曲・アーティストを知ってもらうために数字に頼らずできることとは何か。LINE MUSICでも模索が始まっている。

「9000万人を超えるLINEのユーザーと近い位置にあるのがLINE MUSICの強みです。その中で、我々は複数のユーザー同士が一緒に音楽を聴ける『ルーム』という機能を検討しています。

『ルーム』は、アーティストとリスナーが一緒に音楽を聴きながらコミュニケーションできる場にできればと考えています。チャートをハックするのではなく盛り上がりを共有する。また、フェスのように、そこに行ったら新しい曲に出会える空間を、LINE MUSIC上に展開したいと思っているところです」(高橋)
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真の「ポップ」への鍵はリスナーの手の中にも

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チャートハックと音楽シーン

音楽配信の主流がCDからデジタルへ移り変わる昨今。CDの複数枚購入を促す従来の特典商法に加え、デジタルならではの「チャートハック」行為が音楽シーンに影響を及ぼしている。 アーティスト・レーベルの人為的な施策やファンダムによるチャートハックの是非。改めて、「音楽を楽しむ」とはどういうことなのか。 再生数やランキング結果など、わかりやすい「数字」の話題性・権威性に頼らず、アーティストや楽曲を知ってもらうためにできることを探る。

1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:6140)

音楽サブスクの「ランキングが入れ替わらない」のは問題とは思えません。

そもそも、新しい曲を聞きたい人は「ランキングを見なければいい」だけです。

「ランキングが入れ替わらないから新しい音楽が聞かれない」のではなく、「新しい音楽が聞かれないからランキングが入れ替わらない」のです。因果が逆です。

何事にも保守的なのは音楽に限らず日本人の国民性であり、良い・悪いで判断するものではないと思います。

音楽は無理して聞くものではないので、「好きなアーティストの曲」だけ聞いても別にいいのです。