タコピーが贖罪した“原罪”とは何か?
ちょうど古見くんが持ってきたテーマがそれでしたね。「タコピーが抱える“原罪”とは何か?」。
インターネットで見た考察では、「ハッピー星の掟は“対話”をすることだった」という説でしたね。第1話では、「異星人の手に道具を委ねてはなりません」ってのは出てきたんですけど……。
13話の「最も大切な掟」じゃない?「あなたは一人でここへ来た」。
どういう意味なんだろう? これ、本当は連れて帰ってこなきゃいけなかったってこと……?
……!! なるほど、わかったぞ。これ児童養護施設・児童相談所の職員的な存在のメタファーなんじゃないか? 不幸な境遇にいる子どもを保護して連れて帰って来いってことなんじゃない。
行政の介入って、もちろん現実では絶対に必要なものだとは思いますが、ある種一方的で“対話”ではないので、それも原罪には繋がっているんだと思います。
でも、そういう施設の職員というメタファーを背負わすには、タコピーは無垢すぎませんか? まりなちゃんを殺すまで、その行為の重みすらわかってなかったんですよ。
批判と読むこともできると思います。ある種の純粋すぎる施設の職員──とはいえ、タコピーにもある程度の知性はあったし、自分で解釈して、自分の築きたいように関係を築いて、自分のやりたいようにやっていたじゃないですか。
殺人の重みについては、いざ当事者になったときの意識の違いとも捉えられます。手を汚す前の第1話でもしずかちゃんの死には動揺してたので、命の尊さ自体は理解できていたんじゃないかと。
宇宙人だから命の価値観が違うのかもしれないしね。
そもそも、ハッピー星にある大ハッピー時計とかタイムカメラとかの時間を巻き戻す道具があること自体が気になるんですよね。
あの頃に戻れる・やり直せる道具って、今がハッピーじゃないからこそ使うんじゃないですか。しかもハッピー星だと、掟を破ったらすべての記憶が消されて「生まれたままのハッピー状態」に戻される。
ハッピー星人の思考って、「不幸が絶対に避けられないなら全部まっさらにしてやり直してしまおう」というロジックなんだと思ったんですよ。
なるほどね。
だから、タコピーもといハッピー星人の原罪は、あらゆるヒト・モノ・コトに対して、自分たちの解釈を押し付けてしまう。一方的な関係になってしまうことなのかなって。
だとしたらなんで、タコピーから「おはなしがハッピーを生むんだっピ!」ってセリフが出てくるの? 第2話から登場するし、むしろあの星の人たちの大切な価値観という風に描かれていたと思うけど。
結局、そういった道具が存在していることそのものに違和感を覚えたんですよね……。
確かに矛盾しているんだよね。
“おはなし”は大切なんだけど、“おはなし”する能力がなかったってことじゃないかな?
本当はタコピーとしずかちゃん・まりなちゃんが友達になれればよかったけど、最後になるまでそうはならなかったから。
『ドラえもん』と比較しても、ドラえもんはのび太くんと“対話”して相互な関係を築けているじゃないですか。
これは完全な憶測なんですけど、ハッピー星人にはそれができないんですよ。できないからこそ、記憶を消したり、戻したり。そこがハッピー星人の罪深さなんじゃないかなと。
面白い。子どもと対等に付き合うということの不可能性……。僕は普通に、第4話でまりなちゃんを殺したのが原罪だと思ってました。演出的にそうなってるじゃん。タイトルがデカデカとドーンって出てくる。
その時、モノローグでタコピーが「やり直しのないぼくの本当の物語が始まったのはここからだっピ」って喋っているんです。
煽り文も「犯した罪に背を向けて──」って書いてありますね。
もちろん、これがミスリードを誘う演出だって可能性も全然あると思う。第13話のサブタイトルも「タコピーの原罪」なんだよね。
それを踏まえると、やっぱりハッピー星の掟を破ったとか、タコピーが“対話”せず周りを不幸にしているということなんじゃないかな。
ハッピー星人が持つ共通の原罪だとするとさ、なぜタコピーだけが放逐されなきゃいけなかったって話になるし、話に整合性が取れなくはなると思う。
そうですね、タコピー自身の罪なのかもしれないです。ハッピー星人じゃないのかも。
第13話でハッピーママも、大ハッピー時計を使って過去に飛んだタコピーに向かって、「殺すってなに…」「どうしてそんな強く触るの…」「ちゃんとおはなしして教えてっピ…」って呟いてるんですよね。
だから、ハッピー星人は“対話”をする生物で、タコピーだけが、言うなれば一方的に押し付けてるんじゃないかなと。
でも、古見くんの視点も面白い。ハッピー星やタコピーを児童養護施設・児童相談所のメタファーとして読んだら、かなり腑に落ちたけどな。
もちろんそれは憶測に過ぎないけど、タイザン5さんは、外部や社会からの介入みたいな物にかなり期待してなさそう。その姿勢に僕も共感した。
東くんの台詞にもあったよね。「一人よがりで久世さんを助けようとして結局何もできなかった」「きっと助けてあげようなんて思ったのが違ったんだ」。
その結論は苛烈すぎるんだよな。東くんは中途半端な覚悟だったから助けられなかった、離れていった。タコピーはその身を犠牲にしたから助けられた。
その二極しかないのはあまりにも……。現実は『タコピーの原罪』よりももっと残酷かもしれないけど。
『タコピーの原罪』が生まれるには、ここまで話題になったのは、現代の社会問題のモチーフを背負った登場人物たちが必要だったと思いますけどね。
そうだね。俺は最終回の反響をみてマジで驚いた。みんな、ここまで社会に絶望しているんだって思ったよ。
あくまで俺は「not for me」だと表明し続けてきたけど、言うまでもなく、新人漫画家の長編デビュー作としては凄まじすぎましたよ。
そうですね。タイザン5先生の次回作にご期待してくださいということで、締めさせてもらいます。
『タコピーの原罪』下巻
— タイザン5 (@taizan_5) April 4, 2022
本日発売されました!
描きおろしもあります。
何卒よろしくお願いいたします…! pic.twitter.com/S1uNKhydRu
名作をKAI-YOUメンバーが語り尽くす
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その時々のエンタメ業界に現れた覇権コンテンツについて編集部が議論する連載。コンテンツ自体はもちろん、そのコンテンツが出てきた背景や同時代性、消費のされかたにも目を向け、ネタバレ全開で思ったことをぶつけ合っていきます。
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