2018年、芥見下々さんにより『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載が開始された本作は、2020年10月にTVアニメ化され、コミックスの累計発行部数も5000万部を突破。
現在の『ジャンプ』代表作品のひとつとして数えられています。
呪いをテーマとしたダークな展開、そして術式や領域展開をはじめとした呪術師たちのバトルで人気を獲得した本作。
休載中『呪術廻戦』の話をしたくて仕方がなかったKAI-YOUスタッフたちがKAI-YOU Premium会員限定Discordサーバーにてガチで議論しまくる座談会を開催しました。
※当記事には『呪術廻戦』『幽☆遊☆白書』『HUNTER×HUNTER』『鬼滅の刃』のネタバレが含まれます。
KAI-YOU編集部 考察座談会第3⃣弾🎉
— KAI-YOU (@KAI_YOU_ed) June 29, 2021
『#呪術廻戦』
🔊KAI-YOU Premium Discord
⏰2021/7/1(木)20:00~
『シンエヴァ』『進撃の巨人』に続く第3弾を、公開で収録します!
KAI-YOU Premium会員のみですが、ぜひ!
記事化できない部分も聞けちゃいます。 pic.twitter.com/e8Lldjfabd
目次
『呪術廻戦』座談会登場人物
うぎこ
KAI-YOU広報担当。今回も『シン・エヴァ』座談会、『進撃の巨人』座談会に引き続きスタッフたちの手綱を握る。好きなキャラは狗巻棘。交流会編における野球回が特にお気に入り。わいがちゃんよねや
KAI-YOUの社長。1986年生まれ。「冨樫義博作品が『ジャンプ』作品で至高」とまで言い切る彼だが、その影響が色濃く見受けられる『呪術廻戦』には、思うところがあるようで…? 好きなキャラは釘崎野薔薇と禪院真希と伏黒甚爾。新見直
「KAI-YOU Premium」編集長、KAI-YOUの副社長。1987年生まれ。『呪術廻戦』、面白いと思う期とそこまででもない期を行ったり来たりしている。好きなキャラは虎杖悠仁と七海建人。東堂葵も嫌いじゃない。ネタバレは絶対に受け付けない。古見湖
KAI-YOU Videosディレクター。1996年生まれ。好きなキャラは伏黒恵。渋谷事変での八握剣異戒神将魔虚羅召喚にはそのバグ技めいた発想にシビれたという。小林
KAI-YOUの編集者/Webディレクター。1998年生まれ。思春期になにかをこじらせており、斜に構えているっぽいポーズを取りながら真面目でアツい奴なのがバレバレなナナミンに「わかるぜ…」と自意識を重ねていた。その後寝る前にうっかり開いたTwitterで彼の死を知ってしまい天を仰いだ。『呪術廻戦』はYouTube的でわかりやすい?
『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『進撃の巨人』に続き、今回は『呪術廻戦』を語りたいという有志にテーマを持ち寄っていただきました。
ではまず、新見さんの「エンタメのスピード感について」というテーマから行きましょう。
僕がこの作品をすごいなって思ったのは、第1話なんですよね。主人公・虎杖悠仁が特級呪物・両面宿儺の指を飲み込んだシーンを思い出してほしい。
呪いに襲われる虎杖とオカルト研究会の先輩を助けるため、伏黒恵が重症を負ってしまった。虎杖が助けようとしても呪いは呪いでしか祓えない。
もうどうしようもなくなったとき、虎杖は呪いが宿儺の指を狙う理由を知って、もうその次のコマでは、最短で解決策を導いて、死ぬかもしれないのに最短で覚悟を決めているんだよね。
宿儺の指を喰えばより強力な呪力が得られるなら、取り込めばいいんだって。
そう。この指を飲み込めばいいんだってなって気付いて、次の瞬間には飲み込んでいるわけ。普通に考えて、人の指ぐらい太いものを咀嚼せず飲み込むって無理じゃん。
それは漫画なので……。
かみ砕けちゃったら虎杖は高専に通わずとも特級ですよ。
それはそうなんだけど、それを言ったら元も子もないやん🤔?
俺が着目すべきだと思ったのは、このスピード感なんだよね。何の戸惑いも躊躇もないスピード感。他人を救うために次のコマでは自分を犠牲にする判断を下して行動しているこのスピード感こそが、この作品を象徴していると思う。
説明を省いてすぐに次の展開へ移行する切り替えは他にもあって、例えば第2話。
第1話ラストで、伏黒が虎杖を宿儺の器として祓う(=殺す)宣言をして締められているのに、第2話の冒頭で虎杖はもう拘束されている。「え? 俺なんか読み飛ばしてたっけ?」ってなるんだけど、読み進めていくと回想シーンに入って経緯が明かされる。
時系列を切り分けて入れ替えることで物語をドライブさせる手法を芥見下々は意識的に取り入れている。物語を倒置的に語ることで、とにかく早くサイクルを回していくスピード感が『呪術廻戦』の魅力のひとつなんじゃないかなと。
なるほど。回想シーンの入れ方は割と特徴的ですよね。主人公たちの教師である五条悟が親友・夏油傑と袂を分かつ懐玉編も、虎杖たちの休日から唐突に五条の学生時代の話が始まりました。
その一方で「渋谷事変編は長い」みたいな話もありますが、実際『呪術廻戦』ってスピード感はどうなんですかね?
場面切り替えって意味ではテンポが速いっていうのもすごい納得できるんだけど、むしろ過度とも思えるほどに説明が多かったり、戦闘シーンの一つ一つはすごく長いって感じますね。
渋谷事変に入ってからはさらに顕著です。
わかる。おそらく芥見下々は意外と理屈屋なんだよね。
本当は説明をもっと書きたいし、書かないと話が成立しないんだけど、だからこそ演出のスピード感が要請されているんだと思う。術式のルールみたいなめんどくさい説明が多いので、そのバランスを取るために展開や演出でスピード感を出している。
話の構成も特殊なんですよ。僕が一番感動したのは、うぎこさんも上げてた懐玉編の冒頭。
虎杖に片思いする地元の同級生が出てきて(第64話)、その次の話から五条の過去編になるんだけど(第65話)、最初読んだとき何の話をしているのかまったくわからなかったの。そもそも過去の話だと思えなくて。漫画的な回想演出であるコマの黒塗りとかもしないし。
パズルみたいに色んな展開・要素を組み合わせて、それがどういう効果を生むのかを実験しているんじゃないかな。
スピード感で言うと、『ジャンプ』の漫画が全体的に速くなっているような気がしますね。例えば『アンデッドアンラック』とかも、何話か使いそうな展開が1話で解決したりしてそのテンポが話題になっています。
そうなんだ。
『ジャンプ』本誌読んでないんですか? もしかして乙骨や禪院直哉の活躍をまだご存じない?
出てきたのは見たけど、それ以上先のことを言ったらこの座談会は終了させてもらうよ…!
最新刊(16巻)ではまだ出てきたところまでしか収録されてないから!
そうでしたね。
スピード感に話を戻すと、僕の体感ですが10年前ぐらいの作品だと、長編と長編の間に日常回が3、4話ぐらい入っていたイメージがあるんですよね。
最近の作品は『呪術廻戦』以外でもその「合間」が少ないなとは思ってました。
むしろ、『呪術廻戦』は「合間」を取っている方ですよね。『チェンソーマン』とかの方がスピード感はあるなと思っちゃいます。
テーマとは反れてしまうんですが、説明過多な作品が増えているのも問題になっているじゃないですか。わかりやすくないとつまらないって思われてしまう。
どちらかというと『呪術廻戦』は文字数が多い方に入るかな、とは思いますね。
個人的には、『呪術廻戦』の文字数の多さもスピード感も時代の要請なんじゃないかと思ってます。
最近のエンタメの流行りってこと?
確かに。最近の漫画って丁寧に説明がないと読者が読んでくれないって言われてますけど、逆に展開が速くないと、読者が着いていかない気もしますね。
これだけコンテンツの供給量や、アクセスが容易になったという点から考えると、テンポやフックが上手くないと飽きられちゃうのはあると思いますね。
僕は普段、仕事で動画の編集をやっているんですけど、なんかYouTubeっぽいなと。
昔の『NARUTO』や『BLEACH』が大長編の映画だとすると、『呪術廻戦』は要所の説明をテロップで解説してすぐ本題や企画に入る、YouTubeのようなスピード感がある。
芥見下々先生、動画編集したら上手そうだなって思うんですよ。
すごい! 映像ディレクターみたいなこと言うね(笑)。
(僕、KAI-YOUの映像ディレクターなんだけどな…)
例えば、起首雷同編での呪胎九相図の壊相・血塗戦で、虎杖と釘崎がW黒閃を決めるシーン(第61話)。
アニメだとカットされているんですけど、漫画だとフルテロップみたいに黒閃に至るまでの説明がされててわかりやすかったんですよ。
今の時代、YouTubeを見ている人が多いからこそ、そういう風に仕掛けられているのかな、と。だからみんなわかりやすく読めている、楽しめているのかなって僕は思います。
なるほどね。
すごく面白い視座ですね。
もうひとつYouTubeっぽいのが、いろんな漫画作品の面白いところを切り貼りしているところ。『呪術廻戦』って、過去の『ジャンプ』作品をイイトコどりしたみたいって言われるじゃないですか。
それは僕も思う。『呪術廻戦』は他作品を明らかにオマージュしているんですよ。
自分の作品も他人の作品もバラバラにして組み替えることに、たぶんあまり抵抗を感じていないんじゃないかな。それがひとつの作風になっているし、魅力のひとつなんだと思う。
ちなみに昔の『ジャンプ』作品といえば、毎週なんかしらの引きを持たせて「来週どうなっちゃうの?」が重要だったと思うんですが、最近はどうなんでしょうか。
今でも週刊連載の漫画はかなりそれを意識してつくられている思うけどね。むしろそれがあるから、Twitterで毎週トレンドに入るような話題性を生んでいるんじゃないかな。「次週、どうなるんだろう?」みたいな考察や感想で毎週溢れかえっているし。
もはやその現象こそが『ジャンプ』作品の特徴だし、『ジャンプ』が現代でも一強たる由縁だとも思う。
毎週引きをつくって、フルテロップを入れてってなったら超大変ですね。
YouTubeに毎日投稿して、ぜんぶ面白い動画をあげているみたいな感じですね。しかも、1個1個の動画に話題になる瞬間がある。
本当、毎日フルコースをつくってるみたいだよね。漫画の作画カロリーはどんどんインフレを起こしていて、週刊連載という構造そのものがいつか限界を迎えると思う。いろんなトップYouTuberが毎日投稿を辞めたみたいに……。
だから体壊しちゃうんですかね…ご無理なさらずにご自愛ください…(涙)。
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その時々のエンタメ業界に現れた覇権コンテンツについて編集部が議論する連載。コンテンツ自体はもちろん、そのコンテンツが出てきた背景や同時代性、消費のされかたにも目を向け、ネタバレ全開で思ったことをぶつけ合っていきます。
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